上原善広のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
「路地」とは作家中上健次氏のいう「被差別部落」である。東日本に居ると実感が持ちにくいが、部落問題は東洋のカーストと称され差別が遺恨とその後の特権を生んだ、戦後社会に蔦のように絡み付く問題であった。昨今、世代交代が進み良くも悪くも風化しつつある路地を筆者は巡る。筆者自身が「路地」である更池出身であり、旅情気分で淡々と路地を訪問しているようで神経を抉り取られるような思いで自らのルーツに向き合っていることが読み取れる。
『血縁』の章は綺麗事一切なしの剝き出しの現実がそこにあり哀しさと美しさが残る。敗残者として南西へ逃避していった兄と向き合ったとき、現実は劇的な事など起こりようもなく無味乾燥で酷薄な -
Posted by ブクログ
のっぴきならない境遇と矛盾を抱え社会から逸脱してしまうものに、シンパシーといくばくかの憧憬を覚えてしまう。ヤクザ、在日、風俗嬢、そして部落。
被差別部落出身である著者の、部落を旅し、つなげる道程を綴った力作には3.5点をつけたい。
文章はさほどにうまくないが、肉体性はある。感性が鋭いというよりも、強い。なにより被差別部落出身の著者だからこそ、日本の影をフラットに、日常として映し出すことに成功した。
ただ、各地の部落の状況は、ほぼ同一の印象。
発祥は、部落が武士とともに(皮革や刑罰執行のため)その地に連れられてきたというパターン。
いまではほとんど一般住宅地と見分けがつかない(地方都市の街の -
Posted by ブクログ
岩宿遺跡の発見から石器捏造事件まで、日本考古学界における旧石器発掘をめぐる作品。本作は単なる事件ルポではなく、旧石器発掘に関わった人々の生い立ちから業績までを、実に丁寧に取材したノンフィクションとなっている。
西洋に聖書を基軸とした歴史観があるように、日本でも特に戦争中は皇国史観が強く支持されていたため、日本の考古学の歴史は意外と浅く、比較的アマチュアが参入しやすい分野だったらしい。アマチュアと学者の主従関係や学者同士の学閥争い、仮説に希望を見出す学者とそれを利用したペテン師などなど、様々な思惑が地層以上に複雑に堆積する世界なのだなと思った。 -
Posted by ブクログ
この本は、かなり、面白かった。昔から部落問題が言われていたが、それらが、日本の地方の暮らしに深くかかわっていて、今は、平穏に見えるかその土地も身分、家、部落などのしがらみの中で、生活してきたとわかり、今の寂れた地方の底流にあるものが見えた気がした。しかし、その場所を本から特定して、地図で、確認したいと思っても、取材される側に遠慮をしているのか、不正確にしか書かれていないので、場所が特定できない場合が多かった。また、見方が若干、被差別再度よりと思える部分も感じた部分もあった。犯罪者、犯罪に関する部分などが、個人的にそのように感じた部分も一部あったように思った。後は、訪ねて行ったが、いなかったとき
-
Posted by ブクログ
ネタバレ自分の好みにタイプのタイトルなのでジャケ買い。文体も違和感がないし、内容も非常に興味深く面白い。
作者のフィールドワークの細かさが正確に伝わってくる。そこにあるものを食べるだけでなく、可能な限り人の話を聞いているし、その土地のことも詳細に書いてある。
おそらくもともと被差別の話は文字で残っているものが少ないんだろうな思った。口承や経験から辿る話が多く、誰かが研究として残さないと、おそらくなくなっていってしまうものであるかとも感じた。当然背景には被差別であったことを自ら残したくないんだろうという予想が容易につく。
『食っていうのは、命そのものでしょう』『料理にとっての精神性とは、多くの場合雰囲気 -
Posted by ブクログ
日本中に点在する「路地」と呼ばれる非差別部落と、その痕跡を辿る旅。自分の周りではほとんど話題にならないテーマだったため、大変興味深く読んだ。
北は北海道から南は沖縄まで、タイトル通り幅広く日本各地を取材している。著者の上原氏自身も大阪の部落出身であるため、このような取材が可能だったのだろう。ちなみに日本には今でも6000か所の路地が存在するらしい。
路地の中でも解放運動が盛んな地域と、逆に「寝た子を起こすな」という言葉の通り、出身や境遇を隠したがる地域も多いそうだ。上原氏が行った取材の中でも、地域や人によってそのリアクションは様々であった。
テーマが根深いだけに寝た子を起こすような行動に -
Posted by ブクログ
著者が、日本の「路地(=被差別部落)」を巡り歩いた記録をまとめたノンフィクション作品。大半部分が雑誌『実話ナックルズ』に連載されたもので、2009年に発刊(2012年文庫化)され、2010年に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞している。
著者は自身が大阪・更池の「路地」(被差別部落を最初に「路地」と呼んだのは和歌山・新宮の「路地」出身である中上健次氏)の出身であるが、全国500以上の路地を歩き続け、かつ「路地」の人々と機微に触れるコミュニケーションを積み重ねてきた。そして、自ら「路地を書くにあたって、あらゆる角度から検討した。技術的にはもちろん、“心情的”にも手直しを繰り返した。心情的というのは -
Posted by ブクログ
「フクシマ差別」という言葉があるが、いつ聞いても不可解だ。
なぜかって、フクシマ差別される人は、2011年3月11日より前は差別の対象となる要素は何ひとつなかった。なのにある日突然、福島県境が差別を受ける対象となる土地への線引きに変わり、「放射能がうつる」などの忌避の対象となってしまう。差別される当人には原因はないし、差別の元となる科学的根拠も全く存在しないのに、である。
このフクシマ差別現象に私は部落差別と同根のものをみる。部落差別も、歴史的社会的な身分差別を起源として確かに土地に一種の境界線が引かれ、差別される者が住む一帯として、作者がいうところの“路地”が存在していたのは事実。
だが異 -
Posted by ブクログ
アメリカ、ブラジル、ブルガリア、イラク、ネパール、そして日本。
各国の被差別民とされる人たちが暮らす地域を訪ね、その食をレポートした本。
今も差別が色濃く残るところ、水面下に潜んで見えなくなってしまったところ。
どんな差別を受けたのかといったことは、(かなりソフトに書かれているのではと思うが)やはり衝撃的。
冒頭で紹介された、有色人種だからとあからさまに無視されるといったことでも私などはショックだったが…。
ネパールなどでの身体的な暴力まで伴う差別の状況を読むと、心がえぐられる感じがする。
アメリカのソウル・フードは、なんとなく想像がつく食べ物が多かったが…
ブラジルのフェジョアーダやムケカ -
Posted by ブクログ
【コメント】
自分は、部落差別を肌で感じたことは、
一度もない。だけど部落差別の一端を
垣間見ることはできた。
本書の興味深かったところは、
「部落のルーツ」と「同和利権」の
トピックだ。それは、穢多非人がどう
いった人たちで何を生業にしていたの
かということだ。
著者は路地の差別を憂えている。
路地の現状はかなり改善されている
ものの、差別はなくなるには至って
いない。それは悲しいことだが、
文字通り危険な路地はあるわけで、
避けられるのは仕方のないことだろう。
その路地を形作っているのは人なのだ。
ニュースでよく聞く人間性を疑うような
素行の悪い事件は、特定の地区が多く
絡んでいるよ -
Posted by ブクログ
被差別部落のことを「路地」と呼んだのは、作家の中上健次だそうです。
この本は、被差別部落出身の作者が、全国各地の被差別部落を訪ね歩いたルポルタージュです。
残念ながら私は中上作品は読んでいませんが、中上自身も和歌山の被差別部落の出身なのだとか。
恥ずかしながら、この本を読むまで作者の上原善広氏のことを全く知りませんでしたが、「橋下徹研究」で結構有名人だったんですね(^_^;)
さて、橋下氏のことも含め、被差別部落のことをいろいろ書いてきて賛否両論ある作者のようですが、このルポルタージュ自体はなかなか良いと思いました。
エピローグで作者自身が語っているように、この旅は、作者自身の生まれた「路地」