Posted by ブクログ
2012年10月24日
本書はかつて中上健次が「路地」と呼んだ被差別部落。自身もその出身者である著者が日本全国に存在する路地を旅する異色のノンフィクションです。ある意味で貴重な記録であると思います。彼らの息遣いが聞こえます。
「被差別部落」行政用語で言うところの「同和地区」。作家の中上健二氏はそこを「路地」と称していた...続きを読むことや、彼自身の「路地」の出身者であることを僕はこの本を読んで知ることができました。この本は自身も「路地」の出身者である筆者が日本全国の「路地」を訪ね歩き、そこで暮らしている人の生活や生業などについて記した異色の一冊です。
この本の元になった連載を掲載していた雑誌は僕も愛読している「実話ナックルズ」ですが、残念ながら僕は読み飛ばしてしまい、こうして単行本になったことで読むことができて少し安堵したことを覚えております。
印象に残っているのは東北で生皮をなめして太鼓や剥製をを作る職人や山口の「路地」では幕末の際に「屠勇隊」という「路地」の人間で構成された部隊があったり、威信のさきがけとなった吉田松陰が獄中で通した純愛の相手である高須久子が身分違いの相手と情を交わしたことがきっかけで獄に入ることになったという話などは、非常に衝撃を受けたことを覚えております。さらに「山口、岐阜」のくだりで描かれている猫の皮を使った三味線を作る話と動物愛護団体の軋轢や、牛肉偽装問題についての地元の見識。さらには彼らが先述した東北で太鼓に張る皮を作り、剥製も作る職人のことを知っていた、というくだりには「路地」の人間独自のネットワークが息づいているのだな、という感慨深いものを読みながら覚えてしまいました。
僕の中でなぜかはまだわかりませんが、どうもこういう本を読む傾向があるらしく、日のあたらない問題だからこそ、自分の中で追求してみたい、というものがどこかであるのかもしれません。筆者が自らの足で訪ね歩いた「貴重な記録」だからこそ、これは後世に残ってほしいなと、個人的にそう思える一冊でありました。