鳥山まことのレビュー一覧
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丁寧に読んで良かったと思えるフィクションでした。できれば挿絵が欲しかったくらい。取っ手の形や、タイルの絵とか、建築の専門用語も知らないので。芥川賞受賞作として手に取っては見たけれど、きっかけとしてだけでいつかはこの小説に行き着いていた気がする。その家に住んだ家族の物語、決して交わらないけれど「家」を軸としての、そして震災も絡めての月日の流れに実際心惹かれる。
解体される時の鋭さまで共感でき、スケッチブックを手にして傍観しかできなかった青年の痛い気持ちも。
出版不況とやらで以前ほど報道は熱く感じられないこの頃だけど、こういったいい本はもっとたくさんの人に読んでいただきたいものだ。 -
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家の歴史を、キズを、ちょっとしたへこみを、スケッチしていく青年。
青年は幼少期、この家で薮さんとスケッチをした。
薮さんは棟上げ式の時に谷川俊太郎の詩を読んだ。大黒柱に籐を巻きあげ、左官には厳しかった。
二代目の緑さんは、夫の東南アジアへの転勤について行ったが、現地の暮らしに慣れずに犬のマルタを連れて帰ってきて数学の塾を開いた。マルタは大黒柱の籐を齧った。緑さんは子供たちと話しながら丸つけをした。震災で亡くなった友人を想う。
三代目の圭さんと脩さん。脩さんには背中にイボがあった。愛とは何かを圭さんはいつも考えていた。彼らは子供を持つことを諦めたのだった。
「別れないために、できることって -
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ネタバレ「〇〇をすることは、まるで人生のようだ」と
表現することがよくあると思う。
社会や環境によって〇〇は人によって異なるだろうし、
感じ方捉え方も十人十色ある。
私の場合、あなたの場合が人の人生を彩ってゆくものだと思っている。
この物語の舞台は一軒家。
それを作ったのは薮さんという建築家の男性で、
妻亡き後にこの建物をデザインしたというのだった。
薮さんがこの家を作り、薮さんの亡くなった後には、
緑さんに受け継がれた。
緑さんは数学塾をしながらこの家で暮らしていた。
緑さんの後には、圭さんとその夫が暮らし、
老朽化した家は取り壊される。
この家が建てられ、壊されるまでには
3つの家族がこの -
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これは傑作と言ってもいいのでは。
純文学の「よき形」(という表現が正しいのかどうかわからないが)だなと思いながら読んだ。
つまりは、独りよがりや自意識過剰の「厨二病」的な要素が無くて、気韻がある作品だなと。(難しい言葉使ってみた)しかも、偉そうぶってないところがまた!
怒りのような負のエネルギーに由来している純文学が多い中、稀有な佇まいの作品。
負のエネルギーに満ちた小説も、これいいなと思うものはもちろんたくさんあるのだけれど、食傷する時もあるし、まあ、そういうところからそろそろ離れようよ、と思うこともある。(いや、やっぱり大事と思うことももちろんある)
とにかく、この小説はそういうところか -
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ネタバレ1つ1つの細かなディテールから始まり、読み進めていくにつれて設計図書が完成、完成した空間に想いを馳せ、記憶として刻む。そしてあっけなく解体。
この物語の構成自体が、設計から解体その後までの建築そのものの物語で、共感を覚えました。
形や部材やキズ1つ1つに、家と一緒に過ごした人の物語がある。
それを意図し、意図しない。
美しく儚い建築の物語。
細部にわたる空間の息遣いまでリアルに読み手に感じさせるためにはここまで必要だったのか、専門書以外でどんどん出てくる建築用語を読み進めたのは初めてだったので、著者の変態具合にわくわくが止まりませんでした。 -
Posted by ブクログ
とある放置された売物件に潜り込む青年。彼はこの家の設計者であり住人である藪さんにスケッチの楽しさを教えてもらった。愛おしみながらこの家のスケッチをする。語られる人物がコロコロ変わるのでうたた寝厳禁本でした。短いので一気に読みましょう。
この家の3代目住人だった脩さんと圭さん夫婦が少しずつすれ違っていく様子や、2代目の住人の緑さんが海外赴任の夫の元から海外での生活が上手くいかなくて帰国し小さな塾を開く様子、彼女の友人が震災で亡くなり、死んでしまったことと、長く会えないことって、どう違うんやろと思うこと、などが無くなってしまう家という存在を軸に語られていく、少し切ないお話です。語られる主がコロコロ -
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第174回芥川賞受賞、第47回野間文芸新人賞W受賞。
読み始め、難しいのかなと思いながら、美しい繊細な表現に引き込まれてしまいました。
藪さんを知っている青年が、取り壊しされる藪さんの家に忍び込み詳細にスケッチしていく。
そこには藪さんの家に込められた熱い思い、次に住む緑さん、そして3番目に住んだ圭さん、そして青年の4人の話が時空を超えて出てくる。
心に刺さる描写は沢山ありました。
口から出ていく言葉たちはいつもその深いところに溜まったものたちを上滑りする。上層にある部分だけが出ては入ってまた出て入れ替わり、下層の部分はいつまでも動かずに止まったまま。
死んでしまったことと、長く会えない