あらすじ
第47回野間文芸新人賞候補作!
ここで暮らしていた人々の存在の証を、ただ、描きとめておきたい。
三田文學新人賞でデビューした注目の小説家が、傑出した完成度で紡いだあたらしい建築文学。
**********************
いしいしんじ氏&松永K三蔵氏、推薦!
「大切に建てられた一軒の家に、ひとの気配がやどる。流れる時のすきまから、あまたの声がもれだしてくる。いつかまた、この本のなかに帰ってこようと思った。」
――いしいしんじ
「紐解かれていく「時の家」の記憶は、語られなかった想いに繋がる。物質(モノ)がこれほど繊細に語り得る小説を私は知らない。」
――松永K三蔵
**********************
青年は描く。その家の床を、柱を、天井を、タイルを、壁を、そこに刻まれた記憶を。
目を凝らせば無数の細部が浮かび、手をかざせば塗り重ねられた厚みが胸を突く。
幾層にも重なる存在の名残りを愛おしむように編み上げた、新鋭による飛躍作。
【装幀】水戸部 功
感情タグBEST3
Posted by ブクログ
芥川賞候補に選ばれて欲しいと思ったくらい面白かった。
時間と共に変化していく人々の感情や記憶、考え方。それらの変化は悩みの種になり得るが、大きなプラスにもなる。一つの家に刻まれたいくつかの歴史の中でも、皆に平等に与えられた時間の使い方に対して後悔が多くあった。それならば苦しい選択となるが、自分自身を見つめ直さなければならない。時間による変化は残酷で避けられないけど、後悔しながら向き合いたい。
Posted by ブクログ
面白かった!
最初にくどいほどに描かれる建物の描写にしんどさを感じたけど、終わってみれば必要だった。
ある家の中をスケッチする男、家を作った建築家、別時期に家に住んだ女と夫婦、それぞれの視点が入り混じりながら、家と人が紡いできたものを見せてくれる
住んでいた女と夫婦は「家」として住んでいたけど、同じ凹みを触ってそれぞれの事情に思い悩み、その空間に住んでいた
家は全部知っている、と感情的になるわけではないけど、そこで人が生活していた、その湿度や温度を積み重ねて存在する家と時間の移ろいが丁寧に描かれていた
Posted by ブクログ
『芥川賞ノミネートに期待!』
ある一軒家の歴史を紡いだ建築文学。「家」とは一体何か。生活の基盤であり、人生で一番高い買い物であり、常に思い出と共に寄り添うもの。いずれも正解であり、答えは人それぞれだ。そんな中、作者の鳥山氏は作中で家を「時の幹」と表現する。この言い回しにこそ、本書のすべてが詰まっている。
本書はこの家にかかわりのある人々の視点から描かれる。この家を設計した建築士の藪さん、夫の海外赴任先から単身で帰国して学習塾を開校した緑、夫の脩さんとともに暮らした圭さん。そして空き家になり、解体の危機に瀕した家に忍び込む青年。
家の歴史とともに家族の思い出があり、木材の匂いや人の気配、時間の経過が描写から感じ取れる。滑らかな文章で、シームレスに視点と時点が切り替わってシンクロする。「時の幹」の描写がとても美しい純文学作品である。次の25年下半期 芥川賞候補作にノミネートされることを期待したい。