あらすじ
第174回芥川賞&第47回野間文芸新人賞受賞作!
ここで暮らしていた人々の存在の証を、ただ、描きとめておきたい。
三田文學新人賞でデビューした注目の小説家が、傑出した完成度で紡いだあたらしい建築文学。
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いしいしんじ氏&松永K三蔵氏、推薦!
「大切に建てられた一軒の家に、ひとの気配がやどる。流れる時のすきまから、あまたの声がもれだしてくる。いつかまた、この本のなかに帰ってこようと思った。」
――いしいしんじ
「紐解かれていく「時の家」の記憶は、語られなかった想いに繋がる。物質(モノ)がこれほど繊細に語り得る小説を私は知らない。」
――松永K三蔵
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青年は描く。その家の床を、柱を、天井を、タイルを、壁を、そこに刻まれた記憶を。
目を凝らせば無数の細部が浮かび、手をかざせば塗り重ねられた厚みが胸を突く。
幾層にも重なる存在の名残りを愛おしむように編み上げた、新鋭による飛躍作。
【装幀】水戸部 功
感情タグBEST3
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Posted by ブクログ
誰も住まなくなって汚れ、荒れてしまった家の前に青年は立っている。
家に侵入し、リビングに座り、見えるものをスケッチブックに描く。
家は住んだ人の記憶を刻んでいる。その記憶を少しでも残すために、青年は描く。
自分が子どもの時、この家を建てた建築家の藪さんが住んでいた。ここで彼にスケッチを教えてもらった。
次に住んだのは緑と飼い犬のマルタ。彼女はこの家で塾を開いた。
その次は圭さんと脩さん。夫婦だったと思うのだが…。何やら隙間の空いたような関係性。
それに、藪さんが家を建てる時の記憶。左官屋さんや大工さんと一緒に作業をしている。
それぞれのタイミングにそれぞれの生き方がある。
同じ家を見ていても、そこで感じた気持ちなんかはみんな違う。
それらをみんな記憶してきた家、その家の記憶を読者はなぞることができる。
傷跡一つから立ち上がってくる住人たちの生活感がとてもリアル。
青年は、家を丸ごとスケッチしていく。
真っ白な漆喰の壁とか。収納庫の中まで。
住人たちの様子は淡々としているが、その時その時を誠実に生きているだけで、家の歴史の一部になっていくのが、何ともいえず感傷的な気分になる。
古いアルバムをざっと見た感じ。
なんか胸が詰まるような、満たされたような、この感じは何と言えばいいのか?
自分が歴史の一部として、次の人に何かを伝えるという想像はむずがゆいけど満たされるような。
歴史になったよ、と担保してくれるのが家なのかなと思う。
最後、家は解体される。
現実には子ども時代の思い出がある場所はなくなったけど、青年はスケッチをして、忘れないように留めておいた。
なんだか、亡くなった人を見送るかのようだった。
Posted by ブクログ
丁寧に作られたであろう平屋の一軒家にまつわるお話。現在に生きる青年が壊される前の家をスケッチしてゆくのと同時進行で過去の住み手の記憶が差し込まれて重層的に語られる。それだけなのに心に染み入るストーリー。長島有の「三の隣は五号室」に通じる設定ではあるが、家が建てられてから無惨に解体されるまでを描き、家に対するこだわりを感じた。それもそのはず、著者は建築士だった。ちょうどBRUTUSの特集に載っていてお顔も拝見したけど、想像と雰囲気ごぴったり合っててビックリ。お家の描写から伊礼智や中村好文に影響を受けたというのにもうなずけた。とても素敵な一軒家なんだろうと想像できます。だから後半の解体シーンは胸が痛んだ。
もう亡くなった大切な人ととの会えない時間の捉え方が良い。青年がこれまでの人生を振り返り呆然とするところは自分と重なった。それでも生きてきた自分を肯定したいとも思う。何度でもゆっくり読み返したい本です。
Posted by ブクログ
ああ、きたよ、芥川賞だよ、これは!
ってなくらいとっつきにくくセリフがほぼなくてひたすらシーンのあちこちで登場人物の考えや見たもの、感じたことが延々と書き綴られ、しかもいきなり登場人物が増え、切り替わり、彼女が誰を指しているのか、一体だれがだれに対して言っているのか、思っているのか頭がこんがらがってそのまま瞑想の世界に飛び立ちそうになりながらも読み進めていく。最初は建築関係の用語がずらずらと出てくるんだけど、どうも建築の話とも思えないし、主人公が入れ替わるような文体で、で、誰が主人公なのよ?ってなかなか頭がついていけなかったのが、ようやく一人の男が自分が住むことになる平屋一戸建てを一から設計し、こだわりぬいたその家に時と共に住む人が入れ代わり立ち代わり、その家の住人と関わった青年が、廃屋となった家にスケッチブックをもって戻ってきた。そう、もうだれも住む人がおらず更地にするために取り壊そうという前に。青年が手にしたスケッチブックは初代の住人からもらったものでそのスケッチの書き方まで教わっていた。また、その後3代目の住人は個人塾をこの家で開いており青年はその生徒でもあった。
思い出をスケッチブックで残そうとやってきた青年が家に入ると次々に歴代の住人の記憶が行間を開けずに飛び交うのでこれが混乱を引き起こしている。三分の一も読み進めるとそれらにも慣れ、慣れてくると家の細部のこだわった一部一部が愛おしく、またその一部を見ることで当時の記憶が呼び覚まされる。
自分も両親を亡くし古い実家を手にすることとなり、生まれた時に建てられた家で、途中増改築したことも、両親だけが住み、補修やリフォームしてきた歴史もずっと見てきたので壊すことも売ることもできず、日々愛でるように毎日のように通って時間を過ごしているからこの小説の本質が身近に感じられた。一軒の家を大事に想い、そして解体されるその悔しさというかどうしようもないやり切れぬさ、そして思い出はすべてスケッチブックに収められ、更地になったあとも残し続けられる安堵感。タイトルがぐっと余韻を残してくれた。
決してエンタメな内容じゃないし、関西大震災の話やコロナの話なんかも出てくるが読みやすくもない。なにしろ無秩序に前置きもなく時間と登場人物が切り替わる。家の各所の思い出が噴き出してくる。実家で一人時間を過ごす自分にはわかりすぎて面白いというよりはグッと来たけど他の人にはどうかなぁ~
Posted by ブクログ
「家って言うのは時の幹やから」
うるさがたの建築士が自分の終の棲家として建てた一軒家、建築士の後、主婦が住み塾の教室を営み、夫婦が住み、次の入居者が決まらない「売り家」の看板が立った状況下で、一人の青年が忍び込む。
この家に住んできた3代の記憶と青年のスケッチ描写が、延々と書き連ねられていく。時系列順ではなく家に沁み込んだ記憶を掘りだすかのような無作為な描写。初めは戸惑うが、記憶をたどる時の脳裏に浮かぶ光景ってこういう感じやな、と分かってからは文章にゆだねることができた。
凄いインパクトがあるとか、荒唐無稽に面白い小説ではないが、何かの折に脳みそのひだから、この本の断片がフワッとにじみ浮かんでくるんだろうな。