テッドチャンのレビュー一覧 あなたの人生の物語 めちゃくちゃ面白かった。 特に表題作は秀逸で且つ新しくて凄く面白かった。 自分もヘプタポッドの言語を理解して未来と過去をリアルタイムで経験したいって思った。絶対ヘプタポッド的なスタートとゴールを知った上で始まる俯瞰的な人生の方が映画見てるみたいで面白いだろうなあと思った。 ルッキズムについての話も割...続きを読むと現代では身近になりつつあるテーマだけどかなり面白くて、個人的に自分がルッキズムに抱く感覚がタメラという登場人物を通して言語化されていることに感動した。 今の10代後半から20代前半の若者にこの「顔の美醜について」の短編を読ませて、美貌失認措置を受けるかどうかとその理由を討論させたら面白そうだなとか思った。 あと天使がでてくる話も皮肉めいてて最高だった。 テッド・チャンの他の作品ももっと読みたくなった! Posted by ブクログ 息吹 『あなたの人生の物語』から18年ぶり2冊目の短篇集。 相変わらずどれも完成度が高く、世界設定や近未来的なガジェットは明らかになるたびワクワクさせてくれるだけでなく、私たちの現在を鋭く照射して思考を促してくる。 だが、前作に比べて幻想的なモチーフがグッと減り、倫理的な問題を扱う傾向が強くなった。そ...続きを読むのためなのか、前作では割り切ってばっさりとバッドエンドを書く作品もあったが今作はどれも道義的な決着がつくところが教訓じみていて、個人的な好みと少しズレたなぁと思った。 読んでるあいだは夢中で楽しめたけど、良くも悪くもたとえ話が上手な科学ノンフィクションの読後感。 以下各篇感想。 ◆商人と錬金術師の門 千夜一夜風の枠と語りを使ってタイムリープを描くというフォーマットがめちゃくちゃ好み。この枠組みを共有してSFアンソロジーを編んだら面白そう。「不安は自由のめまい」もそうだけど、異なる時空間や並行世界の自分と会って情報を交換することになんの忌避感も持ってないのが新鮮。もしかしてタイムパラドックスってSF界ではもう古いの? ◆息吹 機械生命の一人称小説、っていうのがもえもえ。ロボ視点とかクローン視点ってそれだけで好きになっちゃうな。機械生命のカルチャーが面白いので解剖学の話になる前の部分が倍くらいほしい。でもブラックジャックみたいに自分の脳を解剖して感心しているところなどとても可愛い。結末も、エントロピーを食い尽くすしかない生命というものを見つめながらも性善説に基づいたメッセージがピュアだ。 ◆予期される未来 決定論と自由意志をテーマにしたショートショートだが、そのために必要なガジェットがおもちゃみたいなボタンひとつというのがスマートでさすがだなぁ。実際こんなのあったら流行りそう、プッシュ耐久生配信とかやられそう。 ◆ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル ここから育児をテーマにした作品が三作続く。ディジエントはAIBOを連想せずにいられないけど、元々はバーチャルな存在なのでポストペットとかリヴリーのほうが近いのかなぁ。 タイトル通り、ディジエントというソフトウェアが生まれてから繁栄、衰退し需要が変容していく経過を淡々と描いていく。現実にこの技術があったら性産業に傾くのはもっと早いんじゃないか(というか誕生と同時ではなかろうか)と思うんだけど、問題はディジエントが自我を発達させたあとに自由意志としてその仕事を選ぶならば、というところなのだろう。 この宙ぶらりんな終わり方が不穏だ。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』になる未来しか見えない。 ◆デイシー式全自動ナニー 20世紀初頭に育児ロボを発明した男とロボに育てられたその息子、そして孫の物語を評伝風に描く。なんでそんなオーバーテクノロジーが実現したのかではなく、家庭生活が破綻した父と息子のドラマのほうにスポットを当てているので本書で一番SF色が薄い。 ◆偽りのない事実、偽りのない気持ち 最近Twitterで見た、生まれたときはみんなカメラ記憶能力を持っているけど、言語能力を身につけていくと同時に失われていってしまうという話を思いだした。オリヴァー・サックスも赤ん坊は絶対音感を持っているが言葉を覚えると消えていくと言っていたなぁ。 リメンの設定はジョン・クロウリーの「雪」という短篇を思い起こさせる。あれは全ての記録にランダムアクセスしかできないというサービスの不完全さが不思議に人間の記憶そのもののように感じられてくる話だったが、リメンにランダム要素はない。こんなの気が狂いそうだけど人はそれにも慣れてしまうのだろう。 日記をつけない人はエピソード記憶を外面化したくないのだという説に子ども時代から日記がつけられない私は深く頷いたけれど、それもSNSをはじめるまでだ。記録を付けはじめると過去の自分に対して今の自分が正直かどうかが気になる感覚もわかるなぁ。 ◆大いなる沈黙 オウムたちからの沈黙のメッセージ。私も地球で一番の知性が人類だなんて絶対間違ってると思うね。ジョージ・R・R・マーティンの『タフの方舟』の「守護者」みたいなの大好きなので、テッド・チャンにも別の知性体が人類に復讐する話書いてほしい。 ◆オムファロス キリスト教と考古学。以前、新国立劇場のアーカイブ配信で見た「骨と十字架」というティヤール・ド・シャルダンを題材にした作品にとても近いテーマ。ただ、こちらでは創世記と矛盾しない発掘品が実際に出土する。ファンダメンタリストの語り手なのかと思っていたら世界自体がパラレルなのだと徐々にわかってきて、頭のなかで景色がぐにゃっと歪む感じがたまらない。 科学者が世界の根幹を突き崩す発見によって自身のアイデンティティを失いかけるというのは「息吹」と同じプロット。「息吹」の機械生命は異なる宇宙のどこかに同じような生命がいる可能性に救いを見いだすけれど、「オムファロス」の科学者たちは地球を見つけて神の恩寵を失ったように感じる。だが、そこから自由意志という概念を初めて手にする最後の手記はローレン・アイズリーが書いたかのよう。 ◆不安は自由のめまい いいタイトル。魅力的なガジェットを提示するだけじゃなく、そこから派生しうる犯罪やグループカウンセリングを描いているのが面白いしこのままドラマにできそう。プリズム使いたくないけどなぁ(笑)。まず電源オンにした瞬間に並行世界が生まれるっていうのが怖すぎる。 結末が納得いかないというか、うーんと唸ってしまった。販売員と購入者の経済的格差にスポットを当てる一方で、大枚叩いてプリズムで不安を解消することを善として描いてしまうのか。ヴィネッサという人物が急にこの展開のために用意された薄っぺらいキャラクターになってしまったように感じた。 SFやミステリーなどのジャンル小説には読みながら物語の設計図をなぞる快楽があるが、テッド・チャン作品はその点でも一級なので「作品ノート」が面白い。一つ読むたびにノートでアイデアの起点とどのように組み立てていったのかを知るのは楽しかった。 Posted by ブクログ 息吹 寡作で知られるテッド=チャンの2冊目の著作. テッド=チャンには「未来がわかっている時に,人はどのような選択をするのか?」というテーマが多いようだ.個人的に本書のベストである「不安は自由のめまい」も,少し設定は違うが近いパターンである.これは「ある場面で別の選択肢を選んだことによって分岐したパラレル...続きを読むワールドとコンタクトができる」世界を描くが,登場人物たちは別の世界の自分を見て,自分自身の選択の結果に,ある場合は安堵し,ある場合は嫉妬し失望する.あまり詳しくは書かないが,ある登場人物は,過去の自分の行動について責任を感じて罪悪感を抱き続けていたが,実は....という救いのある話である. Posted by ブクログ 息吹 書店で目立つ場所に置いてあり深く考えずに購入しました。恥ずかしながらテッド・チャンのことをよく知らず本書で初めて読みましたが、とても満足しています。 本書は9つの短編が盛り込まれていますが、それぞれがとてもユニークで粘着性があり、ストーリーやそこから浮かび上がる情景を当分忘れないだろうなと感じまし...続きを読むた。クライマックス感やラストの驚きなどはないかもしれませんが、まるでカズオ・イシグロ作品のような静かな深い感動を与えてくれる作品とも思いました。さらに言えば、SF作品というよりは未来社会の課題や機会を純文学作家がSF調で書きました、というような印象すら持ちました。時間や空間、自由意思などを哲学的に扱う点は、ミヒャエル・エンデ作品をほうふつさせます。ただエンデ作品よりはだいぶリアリティ度が高いですね。AIや量子コンピュータなどの進化によって近未来に実現していそうなストーリーが描かれています。 本書のタイトルになっている「息吹」という作品も非常に面白かったですが、私が個人的に最も興味を持ったのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」です。これは長編とでもいえるような分量なのですが、AIが進化し、バーチャル世界だけでなく、フィジカル世界にもハードウェアをまとって登場するのは時間の問題です(というかすでにまとっているロボット犬などもいる)。そのような新しい「存在」が一般社会に浸透した世界観がかなりリアリティをもって語られていて、いろいろと考えさせられました。もはやSF作品を超えて、学校の哲学や社会学、心理学などの授業でも教材として取り上げられるべきではないかと感じました。 繰り返しになりますが、あっと驚くような結末や、クライマックス感には乏しいかもしれませんが、感動が長時間持続するような、味わい深い短編集でした。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 「理解」 アルジャーノン的な話かと思ったら、ラストは少年漫画のバトルものみたいだった。 「あなたの人生の物語」 映画を先に観てて良かった。じゃなきゃさっぱり理解出来なかったと思う。 「地獄とは神の不在なり」 ドラマ「地獄が呼んでいる」と映画「ノック」を連想した。 「顔の美醜について」 1番解り...続きを読むやすくて楽しめた。 "カリー"やってみたい。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 面白かった。 難解な話がいっぱいあったけど、全体的に楽しめた。 映画のメッセージからしったけど、どの話も深みがあってとてもよかった。 匿名 息吹 オムファロス 科学者であることとキリスト教徒であることは両立するのかずっと疑問だった。これはこういう世界だったら…の話だけど、現代の科学者はどう折り合いをつけているのだろう? 不安は自由のめまい クリストファー・ノーランの映画になりそうな設定。選択をした時点でもう一方とは違う自分。その選択が次の...続きを読む選択に影響を与える。 ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル ディジェントの流行とブーム終了。プラットフォームの廃止で動かせる場所が無くなるとか、ありそーな展開。 が、我が子のようにディジエントに感情移入するアナには全く共感出来ない。 Posted by ブクログ 息吹 錬金術の話は心に響いた。 パラレルワールドと交信できる話も、面白い。 積み重ねが未来の自分を作り出す。 Posted by ブクログ 息吹 『あなたの人生の物語』のテッド・チャンによる 17年ぶりの短編集。映画化もされた世界的な有名作家なのに専業ではなくものすごい寡作ぶりで、そのぶん一編一編が奥深く、消化するのに時間もエネルギーもかかる。 収録は全 9本、ネビュラ賞やヒューゴー賞など名だたる賞を獲得した珠玉の作品ぞろい。 この人の頭の...続きを読む中はどうなってるんだと思うようなぶっ飛んだ設定の上で、さらに話が想像もつかない方向に発展していくので、一度読んだだけではなかなか理解が難しい。 毛色の違う作品ばかりだが、「避けられない運命、受け入れ難い真実を知ったとき人はどうするか」というテーマは一貫している。 「息吹」 舞台が地球でもなく主人公が人間でもない幻想的な世界の中で、自己の存在と世界の真実について、文字通り身を切りながら考察する彼。「息吹」というタイトルからは息こそが生命そのものというギリシア哲学のプシュケーを連想させる。 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」 技術書かと思わせるようなタイトルで、本書中もっとも長い150ページ超の中篇。求職中の元飼育係に持ちかけられた仕事は、仮想ペットの訓練。ゲームは一時ブームになるもあえなくサービス終了、だが彼女はその後も私的に自分のペットの育成を続ける。 「偽りのない事実、偽りのない気持ち」 網膜プロジェクターを埋め込んでライフログを録ることが一般的になった世界。曖昧で主観的だった人の記憶が、デジタルデータで厳密に検証されるようになると何が起こるか。口伝社会だったアフリカの部族にヨーロッパ人が紙と文字を持ち込んだ逸話が交錯して語られる。 「オムファロス」 約8千年前にこの世が創造されたという証拠が存在する世界で、それでもこの宇宙は人間のために作られたものではないという天文学における発見が人々の信仰を揺さぶる。 「不安は自由のめまい」 分岐した並行世界と限定的に交信することができる装置「プリズム」が発明された。死んだ子の歳を数えるがごとくのめり込む人々と、それにつけ込んで金儲けをする人々が織りなす人間模様。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 機械的で無機質な美しさの中に、人間の感情や精神といったものが散りばめられているようで、大好きな本です。 個人の感想ではありますが、テッド・チャンさんの作品は救済と絶望、優しさと残酷さなど、相反するものが同時に感じられる気がして、そこがすごく魅力的だと思っています。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 数学も理科もわからないマンだけど、ほんとうにおもしろかった…! (もっと公式とか定理とか知ってればたのしめたのか、それとも無知故にストレスなく読めたのかはわからないが) 人生やそれぞれのきもちのことをSFで書くやつ、好きだな~ 理解っていうタイトルの話で、主人公がめっちゃめちゃに賢くなった先に自...続きを読む己への問をくりかえしていくところがまさに、ってかんじがする。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 表題作「あなたの人生の物語」他短編集で、すべてが珠玉の作品といってよい。 物理・数学・言語学・神学・心理学など雑多な学問のアラカルトで、物語でももちろん引きもまれるし、世界観の独創性が今まで読んだことのない衝撃。こんな世界がもしあったらというディーテルがある意味ぞっとする恐ろしさを誘発するし、SF...続きを読むの神髄ではないでしょうか。 すべてがお気に入りといえるが、あえて一つ絞るなら「顔の美醜について」かな。容姿の優劣でそこから生まれる社会的個性というのは逃れられないものという認識を、テクノロジーが打開するきっかけになったらという世界。近未来感があるし、もし現実になったら自分はもう乗り越えて受け入れている境地だけど、ティーンエイジャーやトラウマから抜け出せない人々にとっては悲願となるのか、社会的にどういった影響がありうるのか、思考実験がノリノリに刺激される。賛成・反対派の意見が角度を変えながら述べられて、そこから派生して異なる価値観も均一化、平等に強制的に統一することが善なのか、非常に考えさせられる作品です。 それぞれのテーマに一家言成したくなる、まずは読んで作品の魅力に浸ってからにしましょう。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 全部で8編の短編SFを収めた、テッド・チャンの処女短編集。 テッド・チャンを読むのは、2作目の短編集「息吹」に次いで2冊目。「息吹」も傑作揃いだと思ったけれども、この「あなたの人生の物語」も傑作揃い(個人的には、それでも「息吹」の方が好きだけれども)。 SFにも色々な種類のものがあるが、本書の最後の...続きを読む短編「顔の美醜について」等は、一種の思考実験のようなものとしても読める。「カリー」という処置を施した者は、人間の顔の美醜の判断が出来なくなる。人は他人を見かけの良し悪しで判断する傾向が強いと思うが、カリー処置を受けた者は、そういった判断が出来なくなる。見かけの良し悪しで人を判断するのは、一種の差別だと考えると、このカリー処置を更に広い範囲に適用することを、つい、考えてしまう。人は人種・肌の色で差別されるべきではない、人は性別によって差別されるべきではない、人は体型によって差別されるべきではない、等々。顔の美醜を判断できなくする処置を施すだけの技術が確立された世界においては、きっと、人種の判断を出来なくする処置、肌の色を判断できなくなる処置、性別を判断できなくなる処置、体型を判断できなくする処置、等も可能であろう。そういった処置をすることによって、色々な意味での差別をなくすことが出来るかもしれない。でも、そのような処置を施された人は幸せなのだろうか、そのような処置を施された人は人間の持つ本能的な部分を捨ててしまっていないのだろうか、等という思考実験を展開することも可能だ。 それは、大げさに言えば、人間って何?ということにも繋がるような話だ。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 調べたところ、著者は、寡作かつ作品全てが傑作、と言われている。 この作品集のなかで、「あなたの人生の物語」が一番好き。映画「メッセージ 」の原作でもある。映画を観た後に原作を知った。映画も 良かったが、小説も良かった。 ある日突然、宇宙人から地球に「メッセージ」が送られてきた。地球のいろ...続きを読むんな場所に。宇宙人の目的とは? 「メッセージ」を解読するために、多言語分析家が登場する。多言語分析家は、宇宙人と対話する方法を探っていく… しっとりとした描写のSF小説という印象。世界観がいいなぁ。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 作者の圧倒的な知性と学識の豊かさに感服。現実の事象や論理を極限化して見せられるのがフィクションの醍醐味だと実感した。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 1990〜2002年のあいだに発表された8つの短篇を収録したSF作品集。 テッド・チャンを読むのは初めて。横目で見ていた2019年の『息吹』刊行時のフィーバーだったけど、今なら気持ちがよくわかる。以下、各作品について。 ◆「バビロンの塔」 宇宙観が明らかになる前の〈バベル工学〉的な部分がとても...続きを読む楽しい。鉱夫が天蓋を逆向きに掘りだしていくという絵面がちゃんと想像できることの面白さ。科学ではなく神学で解釈された世界をSFのハッタリでリアルに感じさせる書き方は、「七十二文字」とも共通する。 ◆「理解」 アメコミのヴィラン誕生譚みたい。ものすごい早回しで進むピカレスクロマンで、鏡像関係のライバルが現れて…。知能向上処置を受けた男の一人称語りは『アルジャーノンに花束を』のパロディでもあるような。一人称なので陰謀論者の暴走とも読めるのが面白いところ。 ◆「ゼロで割る」 超人的頭脳をもつ天才数学者の苦悩の物語であると同時に、精神を病んだ人と共に暮らすことの困難の物語でもある。かつて救われる側だった語り手が、自分は妻を救う側に成りえないと悟るまでの辛い道のりを、「ゼロで割る」数式に重ね合わせている。しんどい。 ◆「あなたの人生の物語」 完全言語をめぐるSF。「言語体系とそれを操る者の宇宙観は不可分であり、ことばを学ぶことは異なる宇宙観を取り込むこと」というテーマで、未知との遭遇譚ととある母娘の人生が並行して語られる。この人はこういうどっちがどっちの例え話かわかんなくなる語り口を生みだすのが上手なんだな。 ◆「七十二文字」 一番のお気に入り!カバラ+ゴーレム+前成説(ホムンクルス)という錬金術の世界観が現実になったパラレルワールドのヴィクトリア朝で、王立協会がこっそり優生学に基づく遺伝子研究をしているという変格スチームパンクみたいな設定、も〜〜〜たまらん。種村季弘読者に向けて書かれたみたい(笑)。素晴らしいオチまで含め、これも「リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン」のようなアメコミのヴィジュアルが浮かんでくる。 ◆「人類科学の進化」 皮肉の効いたショートショート。初出が科学雑誌の「ネイチャー」っていうのが面白い。 ◆「地獄とは神の不在なり」 最萌えの作品。キリスト教の死生観が物理的に現実化した世界。確実に地獄に堕ちる方法はあるが絶対に天国にいける手段はないなかで、神を呪う男が天国にいくために模索する、これが萌え。会話を排したルポ風の文体で世界観にリアリティを与えている。身体障害者と宗教というテーマが共通するキャサリン・ダン『異形の愛』も連想させる作品。 ◆「顔の美醜について」 意図的に容貌失認を起こす技術が開発されたら、人はルッキズムにとらわれなくなるのか、という問いがまずワクワク。ドキュメンタリー映画を模したインタビュー形式の語りもぐいぐい読ませる。ただ、作中で容姿に悩む男性がギャレットしかでてこず、当事者として語る人物のほとんどが女性。これはやはりどこまでもルッキズムは"女性の問題"として語られるだろう、ということを示す意図的なものだとは思うが、少し物足りなくも感じる。 物語として生理的に不快を感じるラインを決して超えない賢さに若干苛立つ部分もあるが、この完成度には平伏するしかない。全てがバラバラの、そして最上級の楽しさをもったエンタメ小説群だった。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 自分の当然のちっぽけさを思い知る。 自分のことは自分では全て分かることはない。 全部が全部であることは全部がないことを証明する。 心から無条件に信じていたことが真実でないと自分で論証していしまう。それが人生。カートコバーンに似てる。 無条件の愛は何も求めない。神は不平等だと認め、それでも神を愛する...続きを読むことが大切。 障害も自分のアイデンティティとなり、逆にそれなしでは生きてなくなってしまう。みんなができる、長所ということも障害なのである。 精神と肉体の適切な関係 視覚から得るバイアス、情報を百パー遮断する事はできない。 自分に対しての思いと、他の人に対しての思いがある。 広告はそのものではなく、美をおとりに引き付けている。 メイクはいきすぎたドラック 美を感じれることによって、老いを悲しく感じてしまう。 その感情とどう付き合うかが大切。 問題は誰かが悪用、ズルをすること。 Posted by ブクログ あなたの人生の物語 2012年7月初読。 2023年10月再読。 先日読んだテッド・チャンの第二短篇集があまりにも面白かったので、10年ぶりにこちらを再読。相変わらず面白い。 再レビューにあたり、初読時のレビューを読み直しましたが、なんと若い…SFを読み始めたぐらいの時期でもあり、今読むととても恥ずかしい内容ですが...続きを読む、まあそのまま残しておこう。 第二短篇集は、テクノロジーの進化が人間の挙動にどのような影響を与えるか、といった作品が数を占め、全体的にスマートな印象。 第一短篇集でもそういった作品はありました(「顔の美醜について」とか)が、こっちの方がバラエティに富んでいる気がします。まさかのバトル展開に突入する「理解」のような作品もあれば、魔術のようなものを科学的に採用した「七十二文字」のような作品もある。読後、言葉で言い表せない気持ちにさせる「あなたの人生の物語」をメインディッシュに、フルコースを楽しんでいるようでした。 さて、表題作。 初読時は物語のからくりを把握した時のインパクトが強く、とても印象に残った作品でした。再読時は、そのインパクトはもちろん抱きつつも、ヘプタポッドの時間認識のあり方、つまり原因と結果を同時に知る同時的思考に興味を抱きました。よくこんなこと思いつくな、というありきたりの感想はさておき、この思考に対して、悲しさを覚えるのは私だけでしょうか。第二短篇集でも感じる著者の運命論的な主張にも通じる思考だと思いますが、何事も、何をなすにしても結果を知らないからこそだと思うんですよね。でもこれは人間的な発想であって、ヘプタポッドはそうではないのか。原因と結果を同時に知るって、どんな気持ちなんでしょうね。それこそ、物語の結末で「わたし」が行き着くところなんでしょう。だから、この作品には、言葉で言い表せない気持ちにさせられるのです。 <以下、初読時のレビュー> 新進気鋭のテッド・チャンが紡ぐ8つのストーリー。 そのうち以下に示す作品は、栄えたる賞を受賞した。 ・バビロンの塔*ネビュラ賞 ・表題作*ネビュラ賞*スタージョン賞他 ・地獄とは神の不在なり*ネビュラ賞*ヒューゴー賞*ローカス賞他 『バビロンの塔』にいたっては、デビュー作にしてネビュラ賞を獲得するという史上初の快挙。 なんたる才人!読む前に変な先入観を抱いてはいけないのだが…知ってしまったのだから、仕方がない。 そして、読破。 期待を裏切らないテッド・チャン。 なんといっても表題作!これがズバ抜けて素晴らしかった。 優しいモノローグに記された驚くべき運命。 エイリアンとのコンタクトにより獲得した力は、果たして幸福に通じるものなのだろうか… 何かを隠喩した描写が節々で見られるからであろう。 読後に包まれる微妙な余韻は、表題作に限らず。 また、作品を通して物理学や数学など著者の嗜好が見受けられたが、なかでも言語学についての見識が深く、興味をそそられる内容であった。 他のお気に入りは、『ゼロで割る』『地獄とは神の不在なり』『顔の美醜について-ドキュメンタリー-』の三篇。これらもまた優れた作品。 まったく、面白い視点で物事を捉え、面白い物語に仕上げる人だ。 Posted by ブクログ 息吹 全作面白かったけど特に「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」と「不安は自由のめまい」が面白かった! 「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は、ロボットもの特有の切なさがあって面白い。 「不安は自由のめまい」はプリズムというガジェットを使って並行世界の自分とやり取り出来るとかいうめちゃ...続きを読むくちゃ映画映えしそうな設定でワクワクした。 それと表題作の「息吹」は面白いというよりも世界観に圧倒される感じで凄く印象に残った。 個人的には前作の「あなたの人生の物語」の方が読みごたえがあって面白かった印象だけど、本書も流石のクオリティでとても良かった! Posted by ブクログ あなたの人生の物語 名誉か不名誉か、寡作作家たるテッド・チャンの短編集。 これと『息吹』を読めばだいたい網羅できる。君も2冊読んで「テッド・チャンはだいたい読み切った」と言おう! 正直『息吹』の方が好みの作品に溢れていたのでちょっと肩透かし。 まぁ単純なSFと言い切れず、人の認識を揺るがすような作品という意味ではこっ...続きを読むちの方だったりするかな。表題の「あなたの人生の物語」や「顔の美醜について―ドキュメンタリー」は特に深く考えさせられる作品だった。 でも「地獄とは神の不在なり」は結構悪趣味…というより、SF作家らしい論理的思考が行き着いた宗教観という感じが出すぎてちょっと引いたな。いや、面白いんだけどさ…。 Posted by ブクログ <<<123・・・・・・・>>>