【感想・ネタバレ】息吹のレビュー

あらすじ

AIの未来を描く中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」他、全9篇を収録。『あなたの人生の物語』に続く第2作品集

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Posted by ブクログ

シンプルなアイデアでも、それの「カタリ」方が、僕を掴んで離さない。翻訳者はもちろん、作者の技巧をひしひしと感じる。 どこを読んでも鮮烈な素晴らしい短編集。

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2025年12月06日

Posted by ブクログ

文庫化で再読。避けられない運命とそれに対峙する人間の知性という通底するテーマを感じた。SFでありながら、世界の説明よりも知性の行動にフォーカスしている点が、ジャンルを越境した魅力の源なのだろう。

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2025年09月18日

Posted by ブクログ

凄まじいSF短編集だった。短編集はあまり良い出会いが無く、長編の方が没入できるし感動できるなぁと思い込んでいた自分の価値観を見事にひっくり返された。
特に「商人と錬金術師の門」「偽りのない事実、偽りのない気持ち」「不安は自由のめまい」には心が打たれた。
誰しも過去のあの時に戻れたら、見れたら、もし変えたら今の自分はどうなるか、とか人生に悩む時に空想してしまうが、それをSFの世界観の中で、高い解像度と抜群のリーダビリティで描かれていて、色々と考えさせられる。

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2025年09月05日

Posted by ブクログ

短編集の中で息吹が最も心に残った。
探検家と呼ぶ同志、宇宙に存在する者に対して遠くから応援されているような感覚になった。

今、自分がここに刻む、一呼吸が奇跡であると。息吹なんだと。

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2025年08月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

SF × 哲学の魅力
単なるSFではなく、哲学的な問いや人間の根源的な悩みと自然につながっている点が素晴らしかった。高度な設定を土台にしながらも、難解さより「人間の感情」に重心があり、読んでいて心に残る。自分はSFに身構えていたけれど、むしろ哲学小説として楽しめた。

短編集ならではの多様さ
長編のように構えて読む必要がなく、それぞれの物語に個性があってリズムよく読めた。とくに冒頭とラストは印象が強く、最短の「予期される未来」にも思想の鋭さがあり、「短さ=軽さ」ではないことを痛感した。一方で「デイシー式の進化論」は難解すぎて、自分にはまだ理解が追いつかなかった。再読したら違う景色が見えるのかもしれない。

お気に入りの一編(冒頭の章)
時間を遡行できる、という一見ありがちなSF設定。しかしそれを用いて「過去を変えられるのか?」を突き詰めていくと、むしろ「変えられない」という結論に行き着く。この逆説に惹きつけられた。自分自身に当てはめても、もし時間を遡行できたとしたら何をするだろうか? もしかすると今の自分の行動も、すでに過去から干渉してきた“もう一人の自分”によって決まっているのかもしれない——そんな想像が止まらなくなった。

自由意志の問い
読み進める中で最も強く感じたのは「自由意志は存在するのか」という問題だった。過去に戻っても選択は変わらない、その時の自分はその時の最善を尽くしている——この考え方は妙に納得できた。実際の人生でも、選んでいない選択肢はそもそも存在しないのかもしれない。だとすれば飲み会での失言も「不可避の摂動」なのだろう。そう考えると少し救われる。

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2025年12月01日

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すげぇ本。
下手な学術書を軽く凌駕する含蓄。
「偽りのない真実、偽りのない気持ち」が特に刺さった。真実によって変わる人と、真実を呑み込む人と。

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2025年08月05日

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本屋では毎回ハヤカワSF文庫の棚を凝視している自分ですが、ちょっと厚めの本作「息吹」は毎回視界に入って印象に残って、しかし購入はしないというパターンが続いてました。

決して軽くはないボリュームですが、2日で一気に読んでしまいました。
SF小説の最高峰とネットのあちこちで書かれていますが、読んで納得。SF小説に求めるものが全部入っていると思います。

私がとりわけ感銘を受けたのは作品のラストを飾る中篇「不安は自由のめまい」です。
人生の選択によって分岐した別並行世界と通信できる装置が、この中篇の中心的なギミックです。誰しも思い描いたことのある「あの時こうしていれば自分の人生はこうなったんじゃないか」という逡巡。有り得たかも知れない自分の人生を覗き見たとき、人は何を思うのか、人は何をするのか。
ラストは感動的な締めくくりで、最高の読後感で本を閉じました。

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2025年03月30日

Posted by ブクログ

ネタバレ

時間をかけて読み終わりました。
SF作品の中でも、特に人間の感情に訴えかけるものが思いの外多く、現代にも地続きに通じるような考え方に心を打たれました。

タイムトラベルから始まり、遠い宇宙の違う種族、自由意志など存在しなくなった世界、AI等等、短編ごとにSFのテーマが全く変わっていて全体を通して読み応えのある作品でした。

特に「予期される未来」は5ページほどで終わってしまう非常に短い短編なのですが、負の時間遅延が実装された事によって自由意志が存在しないという証明になる事実に繋がること、それを知った上で我々がこの先どう生きれば良いのか、これをたった5ページで表現しており、良い読後感を受け取りました。

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2025年03月05日

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ネタバレ

読みごたえのある作品集だった。こんな一冊にはなかなか出会えないんじゃないかと思うくらいひとつひとつの作品が濃密で、いくらでも深く掘り下げることができる。テーマと読者への問いかけがしっかりしていて、完成度が高い。どれも短編・中編とは思えないくらい、作品の世界に没頭させてくれる。
作品を通してここまで何度も考えさせられる体験は他ではあまり味わえないものだった。前作よりも断然こちらが好みだ。
どれも凄い、けれど特に印象的だったのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だろうか。AIの育成がテーマだが、失敗を重ねて悩み、意見が分かれながらも、現状をよりよくしようとする人間たちのリアルな歩みを見せられている点が良かった。人間とAIの歴史のようで。
AIを人間のように扱うほうがいいのか、そうではないと認めることが結果的に彼らを尊重することになるのか、という問いには悩まされた。AIたちに感情移入していたし、まだ先を読んでいたかった。

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2025年02月10日

Posted by ブクログ

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」がよかった。事実の正確性はどのくらい必要でどのくらい不要か?
SFを通して人間を考えるの、好きだ。

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2025年01月22日

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当代随一のSF作家、テッドチャンの2冊目。前作は心に残るけれど難しい、と思ったんだけど、今作は泣けた。
もう1作目の「商人と錬金術師の門」から文字通り泣いたもんね。事実は変えられないタイムマシンで亡くなった妻に会いに行く夫。泣くしかない。悲しいんじゃなくてよかったよねって。
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は心に残った。アナとデレク、どっちの決断を自分なら支持するだろうか…デレクがかわいそうじゃん、みんな結局自分が可愛いんじゃん、と思っちゃったけど。
「不安は自由のめまい」はタイトルが美しすぎて。自由意志ってないかもだけど、だけどその時自分がした決断に意味がないってことはないよ!ってことかな?
本全体から、人間って美しい存在でもないし、完璧じゃないけど、それでも生きることの意味は確実に存在してるっていうメッセージが感じられて、その前向きさが大好きだった。難しいけど。また読み直そう。

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2024年08月11日

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ネタバレ

テッド・チャン作品がハードSFでありながら広く受け入れられている理由は、映画化のタイトルに象徴されるように「メッセージ」が明快で、美しいことにあると思う。ハードSFらしい現実離れした世界観やアイデアがありながら、詩的で流麗な筆致が読者を引き込み、力強いメッセージを胸に刻んでいく。本当に稀代の作家だと思う。

様々な価値観、背景を持った人間たちが「運命」(世界の運命かもしれないし、自分の運命かもしれない)に直面した時、何を考え、どう振る舞うのかを徹底的に突き詰めていく作品が多い。ここまで多様な価値観を一人で想像できるのか、と驚かされる。

著者は死ぬほど頭が良く、人間の知性を強く信じてもいるので展開は理詰めで緻密で淡々としている。バカが出てきて引っ掻き回したり、暴走して地球が壊滅したりするケレン味の効いた展開は無いに等しい。エンタメ抜群の現代SFにどれほど舌を慣らされているか、思い知らせてくれるという点でも面白い。

テッド・チャンは寡作で、本は第一短編集『あなたの人生の物語』と本書しか出ていない。「テッド・チャンは全部読んだ」と言えるのが嬉しい一方、さみしくもある。

本書で一番好きな話はトリの「不安は自由のめまい」。違う選択をした並行世界の自分と連絡を取る話。SFではお馴染みのコペンハーゲン解釈ネタを、じれったい制約付きで並行世界と通信できるガジェットにする発想が天才的。「あの時こうしていたら…」とは誰しも思うことだろうが、ここにも作者は強いメッセージを放ってくる。
自分の受け取り方は「自由意志があっても無くても、選択をすることには意味がある。あなたを形作っているのはあなたの過去の行動で、未来のあなたを作るのは今の行動だ。」
テッド・チャンが綴ってきたテーマの総決算と言っては過言だろうか。

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2024年07月04日

Posted by ブクログ

『三体』繋がりでサジェストされたので読み始めた。短編集のタイトルと同じ2つめの『息吹』はほんの2〜30ページだけど、長いあいだ私が考えてきたことそのものだし、きっと誰もが考えてきたことそのものなんだと思う。

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2025年03月15日

Posted by ブクログ

『あなたの人生の物語』から18年ぶり2冊目の短篇集。


相変わらずどれも完成度が高く、世界設定や近未来的なガジェットは明らかになるたびワクワクさせてくれるだけでなく、私たちの現在を鋭く照射して思考を促してくる。
だが、前作に比べて幻想的なモチーフがグッと減り、倫理的な問題を扱う傾向が強くなった。そのためなのか、前作では割り切ってばっさりとバッドエンドを書く作品もあったが今作はどれも道義的な決着がつくところが教訓じみていて、個人的な好みと少しズレたなぁと思った。
読んでるあいだは夢中で楽しめたけど、良くも悪くもたとえ話が上手な科学ノンフィクションの読後感。
以下各篇感想。

◆商人と錬金術師の門
千夜一夜風の枠と語りを使ってタイムリープを描くというフォーマットがめちゃくちゃ好み。この枠組みを共有してSFアンソロジーを編んだら面白そう。「不安は自由のめまい」もそうだけど、異なる時空間や並行世界の自分と会って情報を交換することになんの忌避感も持ってないのが新鮮。もしかしてタイムパラドックスってSF界ではもう古いの?

◆息吹
機械生命の一人称小説、っていうのがもえもえ。ロボ視点とかクローン視点ってそれだけで好きになっちゃうな。機械生命のカルチャーが面白いので解剖学の話になる前の部分が倍くらいほしい。でもブラックジャックみたいに自分の脳を解剖して感心しているところなどとても可愛い。結末も、エントロピーを食い尽くすしかない生命というものを見つめながらも性善説に基づいたメッセージがピュアだ。

◆予期される未来
決定論と自由意志をテーマにしたショートショートだが、そのために必要なガジェットがおもちゃみたいなボタンひとつというのがスマートでさすがだなぁ。実際こんなのあったら流行りそう、プッシュ耐久生配信とかやられそう。

◆ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
ここから育児をテーマにした作品が三作続く。ディジエントはAIBOを連想せずにいられないけど、元々はバーチャルな存在なのでポストペットとかリヴリーのほうが近いのかなぁ。
タイトル通り、ディジエントというソフトウェアが生まれてから繁栄、衰退し需要が変容していく経過を淡々と描いていく。現実にこの技術があったら性産業に傾くのはもっと早いんじゃないか(というか誕生と同時ではなかろうか)と思うんだけど、問題はディジエントが自我を発達させたあとに自由意志としてその仕事を選ぶならば、というところなのだろう。
この宙ぶらりんな終わり方が不穏だ。飛浩隆の『グラン・ヴァカンス』になる未来しか見えない。

◆デイシー式全自動ナニー
20世紀初頭に育児ロボを発明した男とロボに育てられたその息子、そして孫の物語を評伝風に描く。なんでそんなオーバーテクノロジーが実現したのかではなく、家庭生活が破綻した父と息子のドラマのほうにスポットを当てているので本書で一番SF色が薄い。

◆偽りのない事実、偽りのない気持ち
最近Twitterで見た、生まれたときはみんなカメラ記憶能力を持っているけど、言語能力を身につけていくと同時に失われていってしまうという話を思いだした。オリヴァー・サックスも赤ん坊は絶対音感を持っているが言葉を覚えると消えていくと言っていたなぁ。
リメンの設定はジョン・クロウリーの「雪」という短篇を思い起こさせる。あれは全ての記録にランダムアクセスしかできないというサービスの不完全さが不思議に人間の記憶そのもののように感じられてくる話だったが、リメンにランダム要素はない。こんなの気が狂いそうだけど人はそれにも慣れてしまうのだろう。
日記をつけない人はエピソード記憶を外面化したくないのだという説に子ども時代から日記がつけられない私は深く頷いたけれど、それもSNSをはじめるまでだ。記録を付けはじめると過去の自分に対して今の自分が正直かどうかが気になる感覚もわかるなぁ。

◆大いなる沈黙
オウムたちからの沈黙のメッセージ。私も地球で一番の知性が人類だなんて絶対間違ってると思うね。ジョージ・R・R・マーティンの『タフの方舟』の「守護者」みたいなの大好きなので、テッド・チャンにも別の知性体が人類に復讐する話書いてほしい。

◆オムファロス
キリスト教と考古学。以前、新国立劇場のアーカイブ配信で見た「骨と十字架」というティヤール・ド・シャルダンを題材にした作品にとても近いテーマ。ただ、こちらでは創世記と矛盾しない発掘品が実際に出土する。ファンダメンタリストの語り手なのかと思っていたら世界自体がパラレルなのだと徐々にわかってきて、頭のなかで景色がぐにゃっと歪む感じがたまらない。
科学者が世界の根幹を突き崩す発見によって自身のアイデンティティを失いかけるというのは「息吹」と同じプロット。「息吹」の機械生命は異なる宇宙のどこかに同じような生命がいる可能性に救いを見いだすけれど、「オムファロス」の科学者たちは地球を見つけて神の恩寵を失ったように感じる。だが、そこから自由意志という概念を初めて手にする最後の手記はローレン・アイズリーが書いたかのよう。

◆不安は自由のめまい
いいタイトル。魅力的なガジェットを提示するだけじゃなく、そこから派生しうる犯罪やグループカウンセリングを描いているのが面白いしこのままドラマにできそう。プリズム使いたくないけどなぁ(笑)。まず電源オンにした瞬間に並行世界が生まれるっていうのが怖すぎる。
結末が納得いかないというか、うーんと唸ってしまった。販売員と購入者の経済的格差にスポットを当てる一方で、大枚叩いてプリズムで不安を解消することを善として描いてしまうのか。ヴィネッサという人物が急にこの展開のために用意された薄っぺらいキャラクターになってしまったように感じた。


SFやミステリーなどのジャンル小説には読みながら物語の設計図をなぞる快楽があるが、テッド・チャン作品はその点でも一級なので「作品ノート」が面白い。一つ読むたびにノートでアイデアの起点とどのように組み立てていったのかを知るのは楽しかった。

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2024年04月26日

Posted by ブクログ

ネタバレ

寡作で知られるテッド=チャンの2冊目の著作.
テッド=チャンには「未来がわかっている時に,人はどのような選択をするのか?」というテーマが多いようだ.個人的に本書のベストである「不安は自由のめまい」も,少し設定は違うが近いパターンである.これは「ある場面で別の選択肢を選んだことによって分岐したパラレルワールドとコンタクトができる」世界を描くが,登場人物たちは別の世界の自分を見て,自分自身の選択の結果に,ある場合は安堵し,ある場合は嫉妬し失望する.あまり詳しくは書かないが,ある登場人物は,過去の自分の行動について責任を感じて罪悪感を抱き続けていたが,実は....という救いのある話である.

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2024年02月23日

Posted by ブクログ

書店で目立つ場所に置いてあり深く考えずに購入しました。恥ずかしながらテッド・チャンのことをよく知らず本書で初めて読みましたが、とても満足しています。

本書は9つの短編が盛り込まれていますが、それぞれがとてもユニークで粘着性があり、ストーリーやそこから浮かび上がる情景を当分忘れないだろうなと感じました。クライマックス感やラストの驚きなどはないかもしれませんが、まるでカズオ・イシグロ作品のような静かな深い感動を与えてくれる作品とも思いました。さらに言えば、SF作品というよりは未来社会の課題や機会を純文学作家がSF調で書きました、というような印象すら持ちました。時間や空間、自由意思などを哲学的に扱う点は、ミヒャエル・エンデ作品をほうふつさせます。ただエンデ作品よりはだいぶリアリティ度が高いですね。AIや量子コンピュータなどの進化によって近未来に実現していそうなストーリーが描かれています。

本書のタイトルになっている「息吹」という作品も非常に面白かったですが、私が個人的に最も興味を持ったのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」です。これは長編とでもいえるような分量なのですが、AIが進化し、バーチャル世界だけでなく、フィジカル世界にもハードウェアをまとって登場するのは時間の問題です(というかすでにまとっているロボット犬などもいる)。そのような新しい「存在」が一般社会に浸透した世界観がかなりリアリティをもって語られていて、いろいろと考えさせられました。もはやSF作品を超えて、学校の哲学や社会学、心理学などの授業でも教材として取り上げられるべきではないかと感じました。

繰り返しになりますが、あっと驚くような結末や、クライマックス感には乏しいかもしれませんが、感動が長時間持続するような、味わい深い短編集でした。

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2024年01月23日

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ネタバレ

オムファロス
科学者であることとキリスト教徒であることは両立するのかずっと疑問だった。これはこういう世界だったら…の話だけど、現代の科学者はどう折り合いをつけているのだろう?

不安は自由のめまい
クリストファー・ノーランの映画になりそうな設定。選択をした時点でもう一方とは違う自分。その選択が次の選択に影響を与える。

ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
ディジェントの流行とブーム終了。プラットフォームの廃止で動かせる場所が無くなるとか、ありそーな展開。
が、我が子のようにディジエントに感情移入するアナには全く共感出来ない。

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2023年10月25日

Posted by ブクログ

『あなたの人生の物語』のテッド・チャンによる 17年ぶりの短編集。映画化もされた世界的な有名作家なのに専業ではなくものすごい寡作ぶりで、そのぶん一編一編が奥深く、消化するのに時間もエネルギーもかかる。
収録は全 9本、ネビュラ賞やヒューゴー賞など名だたる賞を獲得した珠玉の作品ぞろい。

この人の頭の中はどうなってるんだと思うようなぶっ飛んだ設定の上で、さらに話が想像もつかない方向に発展していくので、一度読んだだけではなかなか理解が難しい。
毛色の違う作品ばかりだが、「避けられない運命、受け入れ難い真実を知ったとき人はどうするか」というテーマは一貫している。

「息吹」
舞台が地球でもなく主人公が人間でもない幻想的な世界の中で、自己の存在と世界の真実について、文字通り身を切りながら考察する彼。「息吹」というタイトルからは息こそが生命そのものというギリシア哲学のプシュケーを連想させる。

「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
技術書かと思わせるようなタイトルで、本書中もっとも長い150ページ超の中篇。求職中の元飼育係に持ちかけられた仕事は、仮想ペットの訓練。ゲームは一時ブームになるもあえなくサービス終了、だが彼女はその後も私的に自分のペットの育成を続ける。

「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
網膜プロジェクターを埋め込んでライフログを録ることが一般的になった世界。曖昧で主観的だった人の記憶が、デジタルデータで厳密に検証されるようになると何が起こるか。口伝社会だったアフリカの部族にヨーロッパ人が紙と文字を持ち込んだ逸話が交錯して語られる。

「オムファロス」
約8千年前にこの世が創造されたという証拠が存在する世界で、それでもこの宇宙は人間のために作られたものではないという天文学における発見が人々の信仰を揺さぶる。

「不安は自由のめまい」
分岐した並行世界と限定的に交信することができる装置「プリズム」が発明された。死んだ子の歳を数えるがごとくのめり込む人々と、それにつけ込んで金儲けをする人々が織りなす人間模様。

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2023年10月15日

Posted by ブクログ

骨太SFだった。。。
かなり読書筋が必要だけど、唯一無二の読後感があり、何食べたらこんな設定を思いつくのかと感じるほど斬新なテーマが多かった。全体を通して透明でキレイなSFでした!

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2025年10月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ようやく文庫を発見した。
待ちに待ったテッド・チャン二冊目。

『商人と錬金術師の門』はハヤカワ文庫のSF傑作選『ここがウィトカなら、きみはジュディ』で、『息吹』は『SFマガジン700』でそれぞれ読んでいたが、テッド・チャンの文庫として入手できてとても嬉しい。

私がテッド・チャンの文章を表現する時よく「緻密」という言葉を使用するのだけど、今回も改めて。もっとも緻密なのは表題作の『息吹』。静かで、息を殺して主人公の一挙手一投足を見守るような、そんな読書体験。

そして『息吹』もそうなのだが、構築された世界観にも言及したい。
『息吹』は人間ならざるもの(ロボット?)が生きる世界。
そして神が世界を作ったことが科学的/考古学的に証明されている世界(『オムファロス』)。
『商人と錬金術師の門』はイスラムの世界。イスラム社会は現実にあるが、自分とな異なる文化をあそこまで違和感なく書けるものなのかと唸る。
それぞれ違ったアプローチだが、その発想と完成度が素晴らしい。

物語はSFをベースにしながらそれぞれ考えさせられるものも多かった。人とは、人生とは?
『偽りのない事実、偽りのない気持ち』は今の社会が徐々に向かっている世界でもある。人が都合良く解釈し記憶しそれにより起こり得る諍いは、記録で解決することも多いだろう。しかし一方で、実際に起こったことが真実かというと、そうではないこともある。それは記録では解決しない。そしてその価値観が失われていっている(我々が生きるこの社会でも)。
『不安は自由のめまい』は、いいタイトルと思ったらキルケゴールからの引用だそうだ(キルケゴール、一度挫折しているけど読むか)。今流行りのマルチバースものだが、誰しもが思う「もしあの時」の選択がテーマ。私個人はプリズム使用の誘惑に勝てる自信がない。ラストはそんなプリズム依存に陥りそうな人の目を覚まさせるような結果。
テッド・チャンの人間としての素晴らしさも感じさせる。

一点ケチをつけるとすれば、私は『大いなる沈黙』の最後のメッセージがあまり好きじゃない。なぜなら、オウムは人間を愛しているとは思えないから。
キーワードとして使いたい気持ちは分からなくはないけど。

テッド・チャンはあまり多作の人ではないのが残念だが、この濃さを考えると、それも仕方がないのかもしれない。

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2025年09月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

第一作品集は全作面白かったが、本作9編もまた、全作面白い。
ひとつひとつ感想は書かないが、第二作品集は親子のテーマが多いせいか、人の善性を歌い上げるような話が印象的。
もちろん、徹底した思弁と、辛い状況をふまえて、なお人には自由意志があるのだ、と。
絵面としては「息吹」が可愛くてお気に入り。

■「商人と錬金術師の門」
■「息吹」
■「予期される未来」
■「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
■「デイシー式全自動ナニー」
■「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
■「大いなる沈黙」
■「オムファロス」
■「不安は自由のめまい」
◇作品ノート
◇大森望 訳・解説

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2025年03月07日

Posted by ブクログ

やたら推されているようなので読んだが、自分にはあまりピンとこなかった。表題の「息吹」はこんなものを読者に想像させて大丈夫か?と思うほど読んでると頭がおかしくなってくる。あとは「オムファロス」のキリスト教的な世界観が本当に科学的だとしたら?という逆転の発想は面白かった

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2024年10月28日

Posted by ブクログ

面白かった

短いSFってちょっと苦手でしたが、ダントツで良かった。自由意志があるように振る舞う必要があるよね

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2024年08月18日

Posted by ブクログ

全作面白かったけど特に「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」と「不安は自由のめまい」が面白かった!
「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」は、ロボットもの特有の切なさがあって面白い。
「不安は自由のめまい」はプリズムというガジェットを使って並行世界の自分とやり取り出来るとかいうめちゃくちゃ映画映えしそうな設定でワクワクした。
それと表題作の「息吹」は面白いというよりも世界観に圧倒される感じで凄く印象に残った。

個人的には前作の「あなたの人生の物語」の方が読みごたえがあって面白かった印象だけど、本書も流石のクオリティでとても良かった!

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2024年05月11日

Posted by ブクログ

読むのにほんとうに頭を使った。
集中力が途切れると、「バンド・オブ・ザ・ナイト」を読んでいるような、意味の繋がらない散文のように見えてしまうから、気力が要った。

しかし、面白かった。架空でありながらいつか実現しそうなシステムの数々、それが人のいざこざに上手く絡み合っており、面白かった。

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2024年01月29日

Posted by ブクログ

表題の息吹 SFの要素と将来くるかもしれない未来を感じさせる作品 どんなに永遠の命を得たつもりでいても いつか必ず終わりが来る
偽りのない事実、偽りのない気持ち 自分の行動が全て記録される事は事実を知る事ではあるが私は嫌悪感を感じた

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2025年11月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

重厚なsfとページ数の多さに読むのを尻込みしていたが、最初の「商人と錬金術師の門」が面白くてその後一気に読み進めた。
けど面白かったのはそれだけで、あとはハマらなかった。科学の知識が豊富なだけあって意外な知識も得られたけど、後半の短編になるにつれて、小説より解説書とかで出した方がいいんじゃないの?となった。
あと文化圏の違いだからか、理解も共感もできなかった価値観や表現が多々あった。主よ、とか。自分は主に選ばれた人間、とか。それは度し難かった。
あとカウンセラーの質問とかあったけどいやカウンセラーそんな質問しないし、なんでカウンセラーがクライエントが出してない言葉を出して決めつけてるんや……とか、なんやその二者択一の質問となぜなぜの質問の多さは……詭弁にならんかそれ……と後半に連れてツッコミが多くなって、そこは単純につまらないと思った。

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2025年10月29日

Posted by ブクログ

時間論とか決定論と自由意志とか記憶とか知性とか責任とかとにかく哲学的なテーマを題材としている。それを物語にする技巧は上手いとは思うものの,物語としての完成度はどうなんだろう。描写という意味では一般文学とは違う気がする。
普段,上記の哲学的テーマを哲学的に考えることに慣れすぎているので,深掘りが足りないように思う。エンターテイメントで哲学的問題に気付くきっかけになるという意味では意義はあるのかもしれないけれど,その問題それ自体を考えている人には物足りないのではなかろうか。
これが当代最高の短編SFなのだとすれば,SFの楽しみは哲学的テーマ以外に見いださねばならないのではないかと。
兼業作家である著者の寡作ぶりとそれにもかかわらず最高の評価を得ているという作家としての在り方には感銘を覚える。

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2025年05月29日

Posted by ブクログ

商人と錬金術師の門は面白く、なるほどという感じでした。
SFだけど結構現実的で自分でも納得感がありました。

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2024年11月26日

Posted by ブクログ

表題作が素晴らしい。
人類とは全く異なる宇宙、異なる世界観を持つ異質な生命体の生き様を、平易な筆致で淡々と、かつリリカルに描き出した短編。SFという文学ジャンルにしか描けない爽やかな感動を覚える、正に「瑞々しい」という表現がピッタリくる傑作です。

ただ、鴨的には他の作品群がちょっと物足りないところも、正直ありまして・・・
これが現代の「世界標準」のSF、なんだと思います。物語としてリーダビリティが高いし、ロジックもしっかりしてるし、登場人物の内面描写も豊かに描き出されていて、本当によくまとまっています。・・・でも、なんだか綺麗すぎて、あっさりと感じてしまうんですよねー。
贅沢な意見だとは思いますが、鴨はもっと熱量のあるSFが読みたいです。良くも悪くも今風、なんでしょうね。

決して面白くないわけではありませんので、そこは誤解のなきよう。ただ、鴨にはしっくりこなかったという、好みの問題だと思います。
そして、表題作「Exhalation」を「息吹」と訳した大森望氏、名和訳だと思います。この作品の本質を、日本語として的確に言い当てていますね。

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2024年05月04日

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