あらすじ
AIの未来を描く中篇「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」他、全9篇を収録。『あなたの人生の物語』に続く第2作品集
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Posted by ブクログ
SF × 哲学の魅力
単なるSFではなく、哲学的な問いや人間の根源的な悩みと自然につながっている点が素晴らしかった。高度な設定を土台にしながらも、難解さより「人間の感情」に重心があり、読んでいて心に残る。自分はSFに身構えていたけれど、むしろ哲学小説として楽しめた。
短編集ならではの多様さ
長編のように構えて読む必要がなく、それぞれの物語に個性があってリズムよく読めた。とくに冒頭とラストは印象が強く、最短の「予期される未来」にも思想の鋭さがあり、「短さ=軽さ」ではないことを痛感した。一方で「デイシー式の進化論」は難解すぎて、自分にはまだ理解が追いつかなかった。再読したら違う景色が見えるのかもしれない。
お気に入りの一編(冒頭の章)
時間を遡行できる、という一見ありがちなSF設定。しかしそれを用いて「過去を変えられるのか?」を突き詰めていくと、むしろ「変えられない」という結論に行き着く。この逆説に惹きつけられた。自分自身に当てはめても、もし時間を遡行できたとしたら何をするだろうか? もしかすると今の自分の行動も、すでに過去から干渉してきた“もう一人の自分”によって決まっているのかもしれない——そんな想像が止まらなくなった。
自由意志の問い
読み進める中で最も強く感じたのは「自由意志は存在するのか」という問題だった。過去に戻っても選択は変わらない、その時の自分はその時の最善を尽くしている——この考え方は妙に納得できた。実際の人生でも、選んでいない選択肢はそもそも存在しないのかもしれない。だとすれば飲み会での失言も「不可避の摂動」なのだろう。そう考えると少し救われる。
Posted by ブクログ
時間をかけて読み終わりました。
SF作品の中でも、特に人間の感情に訴えかけるものが思いの外多く、現代にも地続きに通じるような考え方に心を打たれました。
タイムトラベルから始まり、遠い宇宙の違う種族、自由意志など存在しなくなった世界、AI等等、短編ごとにSFのテーマが全く変わっていて全体を通して読み応えのある作品でした。
特に「予期される未来」は5ページほどで終わってしまう非常に短い短編なのですが、負の時間遅延が実装された事によって自由意志が存在しないという証明になる事実に繋がること、それを知った上で我々がこの先どう生きれば良いのか、これをたった5ページで表現しており、良い読後感を受け取りました。
Posted by ブクログ
読みごたえのある作品集だった。こんな一冊にはなかなか出会えないんじゃないかと思うくらいひとつひとつの作品が濃密で、いくらでも深く掘り下げることができる。テーマと読者への問いかけがしっかりしていて、完成度が高い。どれも短編・中編とは思えないくらい、作品の世界に没頭させてくれる。
作品を通してここまで何度も考えさせられる体験は他ではあまり味わえないものだった。前作よりも断然こちらが好みだ。
どれも凄い、けれど特に印象的だったのは「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」だろうか。AIの育成がテーマだが、失敗を重ねて悩み、意見が分かれながらも、現状をよりよくしようとする人間たちのリアルな歩みを見せられている点が良かった。人間とAIの歴史のようで。
AIを人間のように扱うほうがいいのか、そうではないと認めることが結果的に彼らを尊重することになるのか、という問いには悩まされた。AIたちに感情移入していたし、まだ先を読んでいたかった。
Posted by ブクログ
テッド・チャン作品がハードSFでありながら広く受け入れられている理由は、映画化のタイトルに象徴されるように「メッセージ」が明快で、美しいことにあると思う。ハードSFらしい現実離れした世界観やアイデアがありながら、詩的で流麗な筆致が読者を引き込み、力強いメッセージを胸に刻んでいく。本当に稀代の作家だと思う。
様々な価値観、背景を持った人間たちが「運命」(世界の運命かもしれないし、自分の運命かもしれない)に直面した時、何を考え、どう振る舞うのかを徹底的に突き詰めていく作品が多い。ここまで多様な価値観を一人で想像できるのか、と驚かされる。
著者は死ぬほど頭が良く、人間の知性を強く信じてもいるので展開は理詰めで緻密で淡々としている。バカが出てきて引っ掻き回したり、暴走して地球が壊滅したりするケレン味の効いた展開は無いに等しい。エンタメ抜群の現代SFにどれほど舌を慣らされているか、思い知らせてくれるという点でも面白い。
テッド・チャンは寡作で、本は第一短編集『あなたの人生の物語』と本書しか出ていない。「テッド・チャンは全部読んだ」と言えるのが嬉しい一方、さみしくもある。
本書で一番好きな話はトリの「不安は自由のめまい」。違う選択をした並行世界の自分と連絡を取る話。SFではお馴染みのコペンハーゲン解釈ネタを、じれったい制約付きで並行世界と通信できるガジェットにする発想が天才的。「あの時こうしていたら…」とは誰しも思うことだろうが、ここにも作者は強いメッセージを放ってくる。
自分の受け取り方は「自由意志があっても無くても、選択をすることには意味がある。あなたを形作っているのはあなたの過去の行動で、未来のあなたを作るのは今の行動だ。」
テッド・チャンが綴ってきたテーマの総決算と言っては過言だろうか。
Posted by ブクログ
寡作で知られるテッド=チャンの2冊目の著作.
テッド=チャンには「未来がわかっている時に,人はどのような選択をするのか?」というテーマが多いようだ.個人的に本書のベストである「不安は自由のめまい」も,少し設定は違うが近いパターンである.これは「ある場面で別の選択肢を選んだことによって分岐したパラレルワールドとコンタクトができる」世界を描くが,登場人物たちは別の世界の自分を見て,自分自身の選択の結果に,ある場合は安堵し,ある場合は嫉妬し失望する.あまり詳しくは書かないが,ある登場人物は,過去の自分の行動について責任を感じて罪悪感を抱き続けていたが,実は....という救いのある話である.
Posted by ブクログ
オムファロス
科学者であることとキリスト教徒であることは両立するのかずっと疑問だった。これはこういう世界だったら…の話だけど、現代の科学者はどう折り合いをつけているのだろう?
不安は自由のめまい
クリストファー・ノーランの映画になりそうな設定。選択をした時点でもう一方とは違う自分。その選択が次の選択に影響を与える。
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル
ディジェントの流行とブーム終了。プラットフォームの廃止で動かせる場所が無くなるとか、ありそーな展開。
が、我が子のようにディジエントに感情移入するアナには全く共感出来ない。
Posted by ブクログ
ようやく文庫を発見した。
待ちに待ったテッド・チャン二冊目。
『商人と錬金術師の門』はハヤカワ文庫のSF傑作選『ここがウィトカなら、きみはジュディ』で、『息吹』は『SFマガジン700』でそれぞれ読んでいたが、テッド・チャンの文庫として入手できてとても嬉しい。
私がテッド・チャンの文章を表現する時よく「緻密」という言葉を使用するのだけど、今回も改めて。もっとも緻密なのは表題作の『息吹』。静かで、息を殺して主人公の一挙手一投足を見守るような、そんな読書体験。
そして『息吹』もそうなのだが、構築された世界観にも言及したい。
『息吹』は人間ならざるもの(ロボット?)が生きる世界。
そして神が世界を作ったことが科学的/考古学的に証明されている世界(『オムファロス』)。
『商人と錬金術師の門』はイスラムの世界。イスラム社会は現実にあるが、自分とな異なる文化をあそこまで違和感なく書けるものなのかと唸る。
それぞれ違ったアプローチだが、その発想と完成度が素晴らしい。
物語はSFをベースにしながらそれぞれ考えさせられるものも多かった。人とは、人生とは?
『偽りのない事実、偽りのない気持ち』は今の社会が徐々に向かっている世界でもある。人が都合良く解釈し記憶しそれにより起こり得る諍いは、記録で解決することも多いだろう。しかし一方で、実際に起こったことが真実かというと、そうではないこともある。それは記録では解決しない。そしてその価値観が失われていっている(我々が生きるこの社会でも)。
『不安は自由のめまい』は、いいタイトルと思ったらキルケゴールからの引用だそうだ(キルケゴール、一度挫折しているけど読むか)。今流行りのマルチバースものだが、誰しもが思う「もしあの時」の選択がテーマ。私個人はプリズム使用の誘惑に勝てる自信がない。ラストはそんなプリズム依存に陥りそうな人の目を覚まさせるような結果。
テッド・チャンの人間としての素晴らしさも感じさせる。
一点ケチをつけるとすれば、私は『大いなる沈黙』の最後のメッセージがあまり好きじゃない。なぜなら、オウムは人間を愛しているとは思えないから。
キーワードとして使いたい気持ちは分からなくはないけど。
テッド・チャンはあまり多作の人ではないのが残念だが、この濃さを考えると、それも仕方がないのかもしれない。
Posted by ブクログ
第一作品集は全作面白かったが、本作9編もまた、全作面白い。
ひとつひとつ感想は書かないが、第二作品集は親子のテーマが多いせいか、人の善性を歌い上げるような話が印象的。
もちろん、徹底した思弁と、辛い状況をふまえて、なお人には自由意志があるのだ、と。
絵面としては「息吹」が可愛くてお気に入り。
■「商人と錬金術師の門」
■「息吹」
■「予期される未来」
■「ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル」
■「デイシー式全自動ナニー」
■「偽りのない事実、偽りのない気持ち」
■「大いなる沈黙」
■「オムファロス」
■「不安は自由のめまい」
◇作品ノート
◇大森望 訳・解説
Posted by ブクログ
重厚なsfとページ数の多さに読むのを尻込みしていたが、最初の「商人と錬金術師の門」が面白くてその後一気に読み進めた。
けど面白かったのはそれだけで、あとはハマらなかった。科学の知識が豊富なだけあって意外な知識も得られたけど、後半の短編になるにつれて、小説より解説書とかで出した方がいいんじゃないの?となった。
あと文化圏の違いだからか、理解も共感もできなかった価値観や表現が多々あった。主よ、とか。自分は主に選ばれた人間、とか。それは度し難かった。
あとカウンセラーの質問とかあったけどいやカウンセラーそんな質問しないし、なんでカウンセラーがクライエントが出してない言葉を出して決めつけてるんや……とか、なんやその二者択一の質問となぜなぜの質問の多さは……詭弁にならんかそれ……と後半に連れてツッコミが多くなって、そこは単純につまらないと思った。