テッドチャンのレビュー一覧
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ネタバレ「地獄とは神の不在なり」が意外と印象に残った。神は祝福だけじゃなくて災害ももたらす。神は公平じゃない。私は神もあの世も信じていないけど、ラッキーとか不幸とかは日常で起こるわけで。すべては偶然だから、起こることは平等じゃなくて。だから関係あると思った。
結局は、ささやかな日常を楽しむことが大事なんだと思った。コントロールできる範囲でしかどうにもならないから。この話の最後のように、自殺のようなことをして一か八かするのはよくない。ただ、愛する人が亡くなるって経験はしたことがないから、どれほどショックなものなのかは想像ができないから、そんなふうになってしまうのも仕方がないのかもしれないけど。 -
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ヒューゴー賞4回受賞の現代を代表するSF作家らしい。中短編集。
商人と錬金術師の門:手の込んだタイムパラドックス。クール。
息吹:異世界の異種生物が自分の種族の将来の限界を発見する話。人類への風刺。
予期される未来:超短編。自由意志とは何か。
ソフトウェア・オブジェクトのライフサイクル:けっこう長い。実録のような味わい。
デイシー式全自動ナニー:これはあまり響かなかった。
偽りのない事実、偽りのない気持ち: 原タイトルは、The Truth of Fact, the Truth of Feeling 多くの人の視覚と聴覚の内容をデータベースとして利用できるようになったために、個人的な事柄についてまで客観的な記録を遡って確かめられるようになった時代に、10年以上前の自分と娘とのいざこざの原因が娘だったと信じていたのに、実際は自分であったことを知るジャーナリストの話と、初めて文字を西洋人から習った部族の若者が、西洋人の40年前の記録によれば、自分の尊敬する長老の記憶が間違っていることを知り、迷った上、そのことを書いた自分のメモを破棄する話が、並行して語られる。これは、深い洞察を含む名作。
大いなる沈黙: オウムが、人間と音声で会話することのできる異種生物として、人間にメッセージを送る。超短編の佳作
オムファロス: 神が世界を作ったことが実証されている世界において、新たな天文学の発見が、神が人類を作ったのは、他の星系において生態系を作るための試作に過ぎないという理論が成立することの衝撃を描いている。キリスト教的なベースが無い私にはあまりピンとこない。
不安は自由のめまい: 無限に分岐する平行世界と交信ができる装置(ただし、使用時間に限界があり、かつ高額)が発明された世界で起きる依存症や犯罪を描く。これは、シリーズ化した欲しいくらい面白い。
380ページまで読んだく -
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どれも非常に読みごたえがある、文章密度の高いSF短編集だ。中には設定が難解すぎて脳内でイメージするのにひと苦労するものもあり、いくら短編集とはいえ一冊に詰め込みすぎている感もある。なので一気読みはお勧めしない。連作集ではないので、自分にとっては毎日一編ずつ読み進めていくくらいがちょうど良かった。
SFということで物理や数学が関わってくる作品が多いが、これらをストーリーを進めるための単なるツールとしてではなく、「ゼロで割る」あたりが顕著だが、原理や定理にまつわる思想そのものを作品のテーマに昇華させている点が面白かった。
一番印象に残ったのは「地獄とは神の不在なり」。以前本作にインスパイアされた国内作家の作品を読んだことを思い出したが、その時はミステリの中途半端さとキャラクター設定のチープさに辛い評価を付けたのだけど、本作は(短編ということもあるけど)シンプルな設定で問題なく楽しめた。まあ神様を扱っている時点で「そういうお話」ということを前提として受け入れる必要はあるんだけど、もちろんそこにケチをつけるつもりは全く無い。キリスト教の影響が強いアメリカで、神様を災いの元として描くというのは結構勇気のいることだったのでは、といった点も興味深いところ。 -
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テッド・チャン2作目にして最新刊。どうしてこんなに寡作なの、かなしいね、テッドチャン。
全作品を通して破滅と隣り合わせでひやひやするが、すんでのところで持ち直し希望を見出す展開が読み取れる。SFってどこかディストピアを描き救いがないって方向もあるが、本作品は善のSFである。
キーワードとしての「自由意志」。オートマトンとしての人間観が科学の発展におって否応がなしに突き付けられる世界。それでも人間の知性や感性を駆使して、自由意志消滅の現実にもがきながら人間として生きる道を模索する。まさに人間賛歌、オーバードライブである。
もう一つ、科学の産物との関わり方。
生成AIが跋扈する今まさに。巷ではチャッピーとの友情を育み、誰にも言えないことを密かに相談しているという。ただのツールとして捉える枠から超越した存在になってきているという気がする。
生成AIによって現在の仕事の半分が奪われるなどの負の側面がフューチャーされやすいが、対等な関係性として共存するという正の側面を描き出してくれている。テッド・チャンの将来に対する信頼が垣間見れて、だからこそ作品を通して勇気をもらえる。
SFって専門用語とか世界観が突飛で入り込めないとかたまにあるけど、本作品群はぐーーっと没入感。ストーリーとテーマが秀逸なのはもちろん、登場人物たちの感情の揺れを丁寧物語ってくれている。これからも読み継がれる名作であること間違いなし、次回作なる早やでお願いします。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ初テッドチャン。ごりごりのSF作家だと思い込んでいたのですが、結構神話の世界を物理で語りきる作品もあって、なんだかちょっとファンタジーな雰囲気もあり新鮮な感じ。スターウォーズのように、観たり読んだりしている最中よりも、考察を余儀なくされる感想文を書くこの時間が一番楽しくなる作品。
考察すればするほど、そもそも欧米と日本の価値観の違いが浮き彫りになる。
日本語に ままならない という言葉があるように、人間や人生というものはどうしようもない側面があるものだという前提を含んでいるのに対し、
欧米は 人間=この世の支配者 説明がつけばコントロールできるものである というスタンスがあるように思う。
この欧米の前提を、テッドチャンは 本当にそうだろうか? という考えを、科学ネタを織りまぜながら読者に問いていると思った。
なので、読む際は是非、自分は欧米人である!!(なったことないけど!!)と思いこんで読んでほしい。
そうすると、人間に対する愛しさと嫌悪感が同時に湧いてくる奇妙な作品となるし、実際、自分の価値観が欧米化されてる部分があるという発見もできます。
純ジャパメンタルで読むと、こいつらごちゃごちゃ小難しいことして意味不明って思って終わる笑
<バビロンの塔>=努力は必ず報われる→報われることも無いが、罰もない。(信仰を手放す幸せ)
バビロンの塔という神話と聖書の宇宙観を元ネタにしながら、あえて拍子抜けなオチにもっていく。
キリスト教に親しみのある人たちと日本人とで、この物語の感じ方は違うのかな?
さとりは「ひらくもの」っていう文化圏で生きてると、偉業を成し遂げることで超越的存在からの啓示に期待する行動ってあんまりピンと来ないんだよな。神頼みに似てるけど、バビロンの塔のような物質的な成果や偉業を成し遂げるというより、現状の苦しみについて受身的に解釈を深める感じだし。
<理解>理論の完璧さは幸福をもたらす→必ずしももたらさない(理解を手放す幸せ)
コンピューターのような演算マシーンが搭載された、まさに脳にインテル入ちゃった人の話。とっつきにくさをだいぶ感じた。
天才科学者の生きてる世界ってこういう体感することあるのかな?理論では見えるのに、現実世界は追いついてない感じ。
最初の方は新しい言語形態構造の取得し、それが(理屈は分らんが)宇宙の理解に結び付く。それを楽しむ主人公。
後半は、同じような身体機能をもつ他人と対峙することで、武器を使わずに死に至らしめる理論を考え付く。
相手の毛細血管をコントロールして死に至らしめるって、なんじゃそりゃって思った笑
「理解」が進んだ人間の早すぎる処理能力を逆手にとって、相手のストレスを最大出力できるような何かを行使するとか?
それに似たことは、現実の世界でも派閥・権力争いという形式でやってるような気がする。
演算に拘りすぎた結果が短絡思考って皮肉だな。
<ゼロで割る>=数学は神のように完璧である→完璧ではない(信仰を手放す幸せ)
「理解」に似ている感じの作品。数学という宗教に捕らわれた人間の物語。こういう人を極端なプラトニストって言うらしい。
多分、「理解」もこのプラトニストに捕らわれた人間のシミュレーションなんだと思った。
ゼロで割ると無限大っていう話題、初めて知りました。私、理系なのにそんなこと考えたことなかった・・・。
アインシュタイン、いいですね。最近映画オッペンハイマーでも彼を見たんだけど、彼の科学に対する眼差しや姿勢が自然で親しみが沸く。
<あなたの人生の物語>=人生は自由だ→自由意志は存在しない(理解を手放す幸せ)
やっと本命にたどり着いた。読む前に映画で見たけど、内容割とそのままだったかも。
元々youtubeの積読チャンネルで知って気になってた作品。
未来は同時に存在する、人間に自由意志は存在しないという残酷な事実の中で生きる人の作品。
積読チャンネルの紹介によると、この作品は読む時期によって感じ方がだいぶ違うとのこと。
私は元ネタの相対性理論が何なのかっていう考え方の構造の方が気になったけど、人生そのものが無性に愛おしくなる感覚になったりするらしい。
昔、東大生だった知人が「いつか、人が何年も時間をかけて感じることを、一瞬で感じられるような方法を考えたい」って言ってたのを思い出した。
<七十二文字>=繁殖は愛情深い営みである→生存戦略として最適解の中に愛情行動自体がプログラムされている(理解を手放す幸せ)
ファンタジー。錬金術っぽくもある。
人の人工的繁殖について、人工的な発明でありながら、最後は意外なとある方法にたどり着く。
作中様々な繁殖方法が検討されますが、例えば女性だけで出産可能とする仕組みは今の常識で考えれば驚き且つ混乱を覚える機能だけど、ミジンコとかシュモクザメなど、単独で子孫を残す生物が既に存在しているんですよね。
なぜそういった進化に至ったのか考察にとどまるところだけど、前述のように、結果的にそうなる可能性は十分考えられるし、それに慣れ切った世界はとても合理的に運用されている気もする。(実際、既に行為そのものは娯楽という文化に変化しているように)
ゴーレムが元ネタと考えると、なんとなく、
人工繁殖=元々が無生物→これは人間なのか?ロボット?繁殖し続ける意味ある?
という妙な疑問を持つ。繁殖したい欲望って、人間誰しもが持ってるわけじゃない。
でも、もし、この繁殖に対する知的好奇心や義務感の強い人間のDNAを持った個体や教育環境が拡大していけば、世の中の倫理観も変化して、そのうちその方法が実行されることが普通になり、結果的に人間が生き延び続ける唯一の方法だった、となることも考えられる。
(物語ではこそこそ研究してますが)
<人類科学の進化>=科学は神の領域に至りつつある→後から解明しているに過ぎない文化的行動にすぎない(信仰を手放す幸せ)
最初読んだとき、最近流行ってる「量子力学を理解したら引き寄せの法則で人生思い通りになります!」!みたいスピが流行る現象を揶揄してるのかな?笑
と思ったけど、そんな低レベルな風刺をテッドチャンがするだろうか?と思い直し、超人類=自然とか宇宙とか現象そのもの、人類=地球上の人類すべて(科学者含む)と考えることにした。
ちょっとインターステラーっぽい。
科学は文化だ(神ではない)と言い切ってますね。
<地獄とは神の不在なり>神は救ってくれる→救わない(信仰を手放す幸せ)
神の降臨=自然災害&啓示&祝福の機会っていう、不平等・不条理に振り回されてる人々の世界。
死者が天国もしくは地獄へ落されることまで観測可能な世界で、主人公が神を愛するに至った経緯を描いている。
主人公の知能で解釈(意味づけ)が可能な出来事を苦悩しながら経験していったにもかかわらず、最後は人知を超えた(=神の意図を放棄せざるを得ない経験)イベントによって、その後の人生で主人公は神を愛するに至った。
チ。~地球の運動について~に出てきた、過酷な状況に置かれた科学者達が、それでもこの世界を愛している、と言っているあれに似ていると思った。
ここまでの作品の流れで、この世の真理の理解を突き詰めた人類が、理解手放した結果、真理に行き着くという逆説が発生している。
<顔の美醜について>人間は頭が良く理性的な生き物だ→容姿に過剰反応する動物だ(理解や信仰みたいな考えはもともと持ってない)
やっと最後の作品!真理みたいな壮大なテーマから、急に俗っぽい題材になってびっくりした。でも意味ある設定なんでしょうね。
カリーという処置を施すことで、ルッキズム社会を緩和しようとする社会の話。
カリー自体の適用・解除は気軽にできるという設定だが、その処置に対する議論やプロパガンダの様子を発言集のような形式で構成されている。
人は容姿に思考が左右されてしまうほど弱い生き物だと認めるコミュニティと逆張りコミュニティと、そもそも業界として生存危機に立たされる化粧品業界の争い。
皆、自分を「自分は理性的な生き物」だと信じて行動しているけど、これは完全に逆説で、登場人物全員、美醜・容姿に対する過剰反応をしている。
高尚っぽい内容から俗っぽくなったのも、この人間のままならなさ、どうしようも無さが強く感じられて、良い舞台設定だと思う。 -
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テッド・チャン「息吹」大森望訳を読み終える。
間違いなく傑作の短編集!
積ん読になってたけど、読んで良かった。
ひとつひとつの作品が深い思考のもと、入念に作り上げられた緻密な絵画のよう。
物の見方や既定の認識についてに改めて見直させ、深く考えさせてくれる。
SFの部分だけではなく人の心も描いていて、とにかく凄い作品ばかり。
出会えて良かった1冊だ。
表題作の息吹も良かったけど、その他には、タイムトラベルを扱った「商人と錬金術の門」、神の信仰と科学を描いた「オムファロス」、ある分岐点で別れるパラレルワールドはなにをもたらすのかをテーマとした「不安は自由のめまい」が特に印象に残ったかな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレSF × 哲学の魅力
単なるSFではなく、哲学的な問いや人間の根源的な悩みと自然につながっている点が素晴らしかった。高度な設定を土台にしながらも、難解さより「人間の感情」に重心があり、読んでいて心に残る。自分はSFに身構えていたけれど、むしろ哲学小説として楽しめた。
短編集ならではの多様さ
長編のように構えて読む必要がなく、それぞれの物語に個性があってリズムよく読めた。とくに冒頭とラストは印象が強く、最短の「予期される未来」にも思想の鋭さがあり、「短さ=軽さ」ではないことを痛感した。一方で「デイシー式の進化論」は難解すぎて、自分にはまだ理解が追いつかなかった。再読したら違う景色が見えるのかもしれない。
お気に入りの一編(冒頭の章)
時間を遡行できる、という一見ありがちなSF設定。しかしそれを用いて「過去を変えられるのか?」を突き詰めていくと、むしろ「変えられない」という結論に行き着く。この逆説に惹きつけられた。自分自身に当てはめても、もし時間を遡行できたとしたら何をするだろうか? もしかすると今の自分の行動も、すでに過去から干渉してきた“もう一人の自分”によって決まっているのかもしれない——そんな想像が止まらなくなった。
自由意志の問い
読み進める中で最も強く感じたのは「自由意志は存在するのか」という問題だった。過去に戻っても選択は変わらない、その時の自分はその時の最善を尽くしている——この考え方は妙に納得できた。実際の人生でも、選んでいない選択肢はそもそも存在しないのかもしれない。だとすれば飲み会での失言も「不可避の摂動」なのだろう。そう考えると少し救われる。