八木詠美のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
最近読んだ同じ著者の『空芯手帳』より、私的にはだいぶわかりやすいし面白く感じた!
不眠の描写も、形だけの働き方改革でよりしんどく非人間的な労働環境となっているフルリモートの職場も、微妙に理解が足りないけれど世間的に見たら優しい夫も、読んでいて苦しくなるほどリアル。
仕事のせいでプライベートが侵食され、誰も本気では心配してくれない状況の中で「賢いふりをしながらインスタントな手段を取り続け、ご自身を少しずつ弱らせている」社会人として、この小説が刺さる人は多いのでは。
どんどん技術は進歩し、本来なら働くのは昔より格段に楽になっているはずなのに、どうしても問題は生まれ続けるのだなあ、人の世の悩みは絶えず、だからこそ文学も生み出され続けるのだなあと思わされた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ本を1冊読んで、自分の生き方の痛いところを突いてくるようなセリフにひとつでも出会えたなら、その読書はそれだけで儲けものだと思う。
野上さんが倒れて飯沢さんが助けに来た場面。バッグの中を整理しながら、こちらの問いを聞き流さずに淡々と放たれたこの一言が、ずっと頭に残っている。
「賢いふりをしながらインスタントな手段を取り続け、ご自身を少しずつ弱らせているということです」
向き合って詰問するのではなく、手元を動かしながら逃げ場をなくすように吐き捨てられる描写のうまさも相まって、胸にぐさりと刺さった。
なぜここまで響いたのかといえば、完全に自分の癖を見透かされていたからだ。
これまで自己分析のノウハウを調べたりハウツー本を読んだりして、「やり方を学んだ」段階でどこか満足してしまうことがよくあった。
手軽でインスタントな手段を身につけ、賢くなった気になっていただけ。
実際には「学んだ」だけで、何ひとつ「変わって」などいないのに。
手軽な解決策に飛びついて分かった気になるのは、自分を守る「受け身」のようでいて、わかったフリで満足してしまっていた。
ノウハウを集めて満足するのをやめて、ちゃんと自分の行動を変えなきゃいけない。
つまり「やれ」ってこと。
それにしてもマジックリアリズムが村上春樹っぽく感じますね。私が村上春樹で育ったようなものだからそう感じるのかもしれませんが。 -
Posted by ブクログ
初めて読んだ八木詠美さんの本。
なぜ小説を書いているのか、小説家から見た今の世界の嘆きにとても共感。次は小説を読んでみたいな。
"自分が小説を書くのは、さびしいからだと思う。ふと思いついた想像の切れ端、すぐには声にできなかった疑問や反発、そこからにじんだ心のうちの何かを誰かに伝えたいのにどうすればいいのかわからなくて、でもそれらをなかったことにしたくなくて、行き場なく蓄積していくうちに、言葉がこぼれ、物語が始まる。小説は言わなかった言葉でできている。"
"大して説明もしないうちに「結局さ」と、結論めいたものを突然話し出す人を目にすると、いつもそっと心が冷える。"
"わからないから書き、わからなさを比喩にし、どうしてかわからないけれど物語が動く瞬間がある。その一行に、私は驚いていたい。"
"人の気持ちがあまりにカジュアルに軽んじられる場面も多い中で、自分で自分を認めなくては毎日やってられない。" -
Posted by ブクログ
留学でお世話になった先生から久しぶりに連絡が来て、この本を紹介してもらった。
タイトルの“空芯”とはどういう意味なのだろう、と思いながら読み進める。
主人公の柴田さんは、「名前のない仕事」を押し付けてくる会社へのちょっとした抵抗のつもりで、妊婦を装うことにする。
定時帰りから始まり、マタニティビクス、アプリへの記録と着々と出産への過程を辿る彼女の姿は、活力に満ち溢れていて頼もしい。
しかし、その反面、空っぽのお腹を抱えたその姿は、どこか痛ましく、空虚にも思える。
偽装妊娠なのだから、もちろん夫も存在しない。夫無しで出産まで辿り着けてしまう──その事実に気づいた時、ある種の怖さが込み上げる。
人類誕生以来、脈々と続いてきた妊娠・出産のシステムは、どうして今も周知されず、隔離され、孤独を生んでいるのだろう。
そして、私もこれから経験するのだろうか、乗り越えられるだろうか、過去に生きた女性たちのように。 -
Posted by ブクログ
不眠に悩む女性の物語。朝方、浅い眠りのなかでみる悪夢のような小説でした。現実と夢の境がわからなくなるような。
不眠経験のあるわたしは、この本で当時の追体験をしている感覚でした。わかるわかるーと思いながら、苦しくもなりました。
不眠に陥った時は、思い当たる大きなストレスはないと思っていたけれど、今思えば頑張り過ぎていたのは明らか。有休なのにギリギリまで仕事に応じてしまい、結局ドツボにハマって抜け出せなくなる感じとか、いつも自分を削っている感じ。まさにこの小説の主人公と思考回路が同じだったなと。
アンガーマネジメントとかポジティブシンキングとか受け身を取ることを必死に学んで来た結果、「あらゆる侮辱を受け流し、あらゆるルールに合わせて身体を歪め、あらゆる犯罪を許してきた。上司を合法的に殴る方法を調べていたはずがいつのまにかストレスによい食べ物を教えられ、それはストレッチや呼吸法へと変わった。けれど、いくら受け身を取ろうと痛みは痛みのままだった。」
心の中の「飯沢さん」の声を無視しないように生きていかねば。 -
Posted by ブクログ
世界に期待することにも飽きたけど、呪うことにも飽き飽きしたから
不眠に悩む主人公。リモートワークで通知音にせき立てられ、オンライン研修を倍速で視聴する。眠れない日々は続き、やがて現実との境界を失っていく。
芥川賞候補作。風刺の効いた作品。現代の「ウェルビーイング」に対して、それって思考停止で馬車馬量産したいだけですよね?って唾を吐きかける。文章は引き込まれるんだけど、主人公の設定や行動が作者の作為を感じさせるのがすごくもったいない。休暇日なのにスマホに届く仕事の通知を見てしまうところ、なんや胸が締め付けられてしまった(179頁★3.5)