八木詠美のレビュー一覧
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主人公は突然不眠症になった会社員の女性だ。
福利厚生が手厚く、社員のウェルビーイングな働き方を推奨する会社に勤めている。リモートワークが推奨され残業は月30時間以内と決められていて、社会の健康に気を遣う企業として評判が良い。
また、アンガーマネジメント等の研修が頻繁にあり、ビーポジティブ!が合言葉。しかし、残業時間に違反した者は評価が下がるため、無給の隠れ残業をしていたり、有給を取っているのにひっきりなし社内チャットで仕事が飛んでくるなど、主人公は仕事に疲弊している。
不眠症で苦しむ主人公に研修用ビデオの出演者が突然話しかけてきたり、その出演者から睡眠が取れる代わりに魂を差し出す取引を持ちかけられたり、物語は次第に幻想小説のようなテイストを帯びていく。
登場人物の一人は、不眠症は「これまで無視してきたものが復讐しにきた」のだという。
確かに、不眠とは、この世界に適応できないことのサインなのだろう。
しかし、この理不尽な世界と労働環境に本当に適応しなくてはいけないのか…ということを問いかける作品だった。
物語としてとても面白かったのですが、働き方の問題はテーマとして少し今更感もあるな…と(もちろんいまだに解決されない問題ではありますが)。芥川賞じゃなかったのはそういうところなのかな…(新しかったり意外な視点ではないという意味で)(その分、誰でも分かるテーマで描かれていて分かりやすく共感しやすいお話でした)。 -
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主人公は34歳独身女性会社員・柴田。職場でのうむを言わせぬ雑用の強要にキレ、「妊娠している」と口走ってしまい、そこから辿る彼女の偽装妊婦生活が綴られます。著者のデビュー作にして太宰治賞受賞作です。
この嘘がどこで破綻するのかと思いきや、空虚な日常が色づき始め、彼女は妊婦生活に没入していきます。母子手帳アプリ、妊婦健診、エコー検査?と続き、これは妄想なのか願望なのか…、嘘がジワジワと現実を侵食していきます。
物語は、「妊娠5週目」〜「妊娠40週目」、そして「生後12か月目」と続きます。ぜひ彼女の行く末を見届けてほしいと思います。彼女が作中で発する「自分だけの場所を嘘でもいいから持っておく」という言葉が、本書の肝なんでしょう。
社会の不公平、女性への抑圧、周囲の不快なあれこれに強く言えない欝屈。だから嘘を持ち、唱え続ければ別のどこかに連れ出してくれるかもしれないと…。控えめだけど、切実で痛烈な社会構造批判となり、今を生きる女性の共感を得るのでしょう。
本作は新人のデビュー作にもかかわらず、2020年の刊行前に翻訳のオファーが殺到する異例の事態となったそう。失礼ながら存じ上げませんでした。
平凡な女性が職場の理不尽を静かに訴えるという内容が、2017年ハリウッドの#MeToo運動や2018年韓国の『82年生まれ、キム・ジヨン』の世界的ヒットの潮流に乗ったとの評もあるようです。
ちなみに主人公は、紙管を扱う会社に勤務しています。紙管は紙芯とも呼ばれ、ラップやトイレットペーパーの軸になる紙製の筒のこと。タイトルの「空芯」は、一般的には茎の中が空洞になっている葉物野菜のことらしいですが、芯がない状態は会社で扱っている物であり、自分自身の象徴なのでしょうか? だとすれば、彼女の芯にあるものは、やはり世の中への抗い?と想像をかき立てる物語でした。
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「寝てても起きてても最悪なこの世界で。」
「だって朝は勝手に来るから、どうやったって光が射すから。世界に期待することにも飽きたけど、呪うことにも飽き飽きしたから。(p.177)」
ひっきりなしに届く通知やポジティブを押し付ける会社に憔悴する社会人のリアルさに心が削られ、
さらに不眠の夜描写…リアルすぎて吐き気がしてきそうでした。
私事ですが20代である病を発症し一番強く出たのが不眠で、精神科にかかり今でも睡眠導入薬のお世話になっているんですが、不眠当時の、「寝よう!」と思っても今関係ないことが頭に浮かんできてずっと考えてしまう……まんまでした(そもそも「寝よう!」と真剣にやるのがダメ)
前半は仕事&不眠&理解のない家族のトリプルパンチですっかりダウンしそうでしたが、
「魂を…」と言われ始めた辺りでおやおや?八木さんさすが!!となり前のめりで読みました。
淡々とイカれだすのいいな〜出冬覚だけフルネーム。
諦める、の本来の意味は「物事の道理を知り、納得して断念する」らしい。
なんと前向きな。
この場合の『前向き』は、決してキラキラポジティブではないです。
けれども、なんだか力をもらえた作品でした。
「空心手帳」から気になる八木詠美さん、この「アンチ・グッドモーニング」もどうかしてて面白かったです。 -
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普通の日常の中に、少しずつ混ざってくる変な違和感。
現実と妄想の境界が曖昧になっていく感じ。
不条理なことが起きても、主人公が妙に淡々としているところ。
そんなところが大好きな村上春樹っぽくて、個人的にはかなり好みだった。
そして何より、会社社会の不条理さや、現代社会を生きることのしんどさに共感しかない。
誰のためなのかわからない社内制度や謎の取り組み、便利にするために導入したのになぜか不便さが増していく職場のあれこれ。
もう「わかるわかる」と頷きっぱなし。
思わぬところで出会えた、うれしい発掘本。初読み作家さんだけど、他の作品も読んでみたい。 -
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あらすじにて、現代社会に疲弊する社会人という設定が面白く表現されていたので、気になって本作を手に取りました。面白いけど、2度目読むのは辛いんだろうなぁと思います。特に社会人歴が長くなればなるほど…
本作は、ウェルビーイングを形だけうたう企業で、心身ともに疲れ切り、不眠症になってしまった女性の物語。旦那さんが不眠対策を紹介するが、一向に不眠症が治らない。そんな中、主人公はメンタルクリニックに行くことを決意し…という物語。
極限環境下での人の精神状態が見事に描写されていて、社会人としては正直辛かったです。極限環境下での視野の狭さとか自分では気づかない体の限界等は、振り返ると思い当たる節があるなぁとヒシヒシと感じます。無自覚のストレスってやっぱり怖いですね…
個人的に1番印象に残ったのは、不思議な世界で出会った講師の言葉ですね。怖いですよね、安眠の代償に魂の一部を貰うって。そして、それが無自覚に行われてる現代社会の怖さも…
そんな社会人の怖さをヒシヒシと感じた本小説は社会人1年目とかで読みたい作品かなと思いました。 -
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ネタバレ職場で無意識に課せられてる雑用にキレて「妊娠している」という設定になった柴田さん…すごい。
いつバレるかとヒヤヒヤしましたが、そんなありきたりな展開ではありませんでした。
「妊婦」として抱えていた嘘が実体を持つ終盤には驚愕しました。
しかしそれも、柴田さんの“嘘”だったのかもな。産科でのエコーにまで嘘を吐き通して……
「妊婦」というカテゴリーにいるけど、外側から見ている柴田さんが冷静な目で描写してて面白かったです。エアロビとか。
本当の自分をわかってあげられるのは自分しかいない、というのを改めて考えると、孤独だけどなんと心強いものでしょう。
当たり前なのだけれど、日々に忙殺されると簡単に忘れてしまうな。
東中野さんが空人くんに注目しなくなる日はこないだろうと思いました。柴田さんが転職するしかない。
バームクーヘン切ってる田中は、飲み会の田中なんだろうな
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来客後のコーヒーの片づけ…
煙草の吸殻が突っ込まれている
放置されたままだ…
「今日は片づけ、代わってもらえませんか!今、妊娠してて、コーヒーのにおいも、煙草の煙もダメだし…」
こうして主人公は妊娠5週目に入った…
もう冒頭からこの偽装妊娠がどうなっていくのか、心配で、心配で…
と思ったら、全く大丈夫だった…(笑)
妊婦になった主人公に余分な仕事や雑用を押し付けてくる人もいないし、定時に帰られるし、なんならみんな体を気遣ってくれる!
とにかく主人公の妊娠生活は淡々と進むのだ…
母子手帳アプリに記録をつけ、食事に気をつけ、マタニティビクスに通う…
しまいには、本当に妊娠しちゃたの?って思ったくらい…(笑)
そして妊婦になり見えてくる世界がまたイチイチ納得!(妊婦になったことはないが…
とにかくありえない設定だけど、この主人公が気になってたまらなくなってしまうのよ…
いや、わたしも妊婦になってみようかしら?なんて思ってしまうもん…
というかやれてしまいそうな、勘違いしてしまいそうな不思議な作品…(笑)
いや、さすがに無理やで!分かってるで…
とにかく
「空芯手帳」ってタイトルも最高!
ラスト一行も最高です〜 -
Posted by ブクログ
マジック・リアリズムになんの抵抗もないのですらすら惹き込まれる様に読んだ。海外の小説の様な、短編映画の様な。
登場人物の描写に、他者との距離感やパーソナルスペース、コンフォートゾーンといった表面的な部分に身をつまされることもありながら、自他との境界線が曖昧な感覚を覚えたりもする。
一箇所、とてもいいなと感じた文章があったけれど忘れてしまった。物語的に特にそんなに重要ではないのだろうけれど、そういった場面、文章に出会えると偶然に感謝したくなる。
ところどころ惹かれるところはあるのだけれど、それがどういうものなのかうまく言語化出来ない。なのでもう一度読んでみたいと思わせる力のある作品でした。次回作も楽しみです。