八木詠美のレビュー一覧
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たまに寝れない時がある。寝たいと願えば願うほど、寝れない。頭は冴える一方で、ずっと何かを考えてしまう。でも、寝れないと思っていたら、実はいつの間にか寝てて、夢と現実の間を彷徨っていたような状態の時もある。長時間の心地良い眠りって難しい。
この主人公のようによく寝れるために枕や音楽などを気にした時期もあったけど、結局は自分で気にして守るルールに苛まれて眠れなくなっていたような気もする。
本書の最後のように全てを放り出したらスッキリしたほうがいいのだろう。
ただ本書の読書体験としてスッキリしたかというと微妙だったと思う。もう少しフラモレデイや出冬覚とかを深掘りしてほしかった。
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兵士よ怒れ
兵士よ叫べ
兵士よ!!戦え!!
諫山創.進撃の巨人.【第80話】名もなき兵士.エルヴィン・スミス
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八方美人の主人公。ある日、不眠に陥った。何故、不眠は訪れたのか?彼女を蝕む「熱」とは何か?そんなおはなし。
皆さんは眠れないという感覚を抱いたことはあるだろうか?羊を数えて夜を明かし、本を読んで思考が止まらなくなり、ホットミルクを飲んで腹痛をきたす。眠るための行動全てが徒労に終わる無力感を抱いたことはあるか?一度でもあるなら、本作は琴線に触れる作品となるだろう。不眠ということはそれだけで辛いことであり、多くの場合理解されない。大体の人は不眠にならないのだから。
さて、不眠とは何故起こるのか。本作の主人公は思考の制御を失う事に起因する。ドミノ倒しのように一つ一つの思考が連鎖し、思考の濁流に飲まれた結果、不眠となる。本来、睡眠中は意識はなく、思考が長期間連続することもない。睡眠とは最小単位の死であるという考え方もある。死とは苦痛である。主人公は苦痛と死から目を逸らすために不眠に陥ったのでは?
本作では悪魔的存在との魂のやり取りが描写される。これは、主人公が思考及び意識を他者に売り渡す行為を隠喩していると考える。本来であれば当たり前に行なっている思考。自分のために裂けるリソースであり、自意識とも呼べる「自身を大事にする権利」を他者に売り渡している。奪われるくらいなら自分から手放してしまおうという思考である。つまり魂=思考であり、魂を搾取されることを受け入れている訳だ。全くもってクソ喰らえである。我慢することは楽だろう。諦め、目を逸らし、耳を塞ぐ。戦わなければ傷づけられない。でも、辛い。怒り、権利を主張し、自由のために戦う。本当に苦痛から逃れるためには自分を大事にする戦いを挑まなければならない。生きる意味とはそこにあるのではないか。
いまいちテーマと主張が合致しない感覚がある。上述した通り、睡眠は小さな死と仮定すれば、睡眠は思考の輪から外れる行為であると考えられる。物語前半での主人公は対人関係であったりで思考すること自体に忌避感を抱いているようと私は感じた。後半で搾取への怒りを抱き、戦う覚悟を決めることで、不眠と決裂する。しかし、前半で不眠になるのはおかしくね?と思う。睡眠における死と思考の否定が作品のテーマと主人公の主張であるとすれば、主人公は不眠ではなく、過眠の方向に振れるのではと思う。寝ている間は現実の鬱陶しさもなく、他人のことも考えなくて済む。であればAnti good morning(最悪の寝起き)ではなくNot good morning(夜が明けない)といった具合になるのではないか。後半で覚悟を決めた段階で、思考するために不眠となるなら納得はできる。無論、考え過ぎているために寝ることができないということはあるが、フィクションとしていまいち納得し難い。
夢が関わる作品で整合性を考えるのもどうかと思うが、この作品自体が胡蝶の夢もしくは世界卵であった場合、割と納得できる。最初の一行目から夢の中の出来事であり、本を閉じるまで夢が続いている。寝られないという夢を見ている可能性。Antiという言葉には反転という意味もある。夢という現実とは反転的な世界をベースにすることで、途中式と結果も反転させる。全体的な描写としても脈絡のない描写からも納得はまぁできる。ただ、一つ確実に言えることがある。それだとつまらない。 -
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タイトルが秀逸。優しい夫と暮らし、福利厚生のととのった会社で在宅勤務をこなす平凡な日々は、不眠という突然の症状によって崩壊する。
眠ろう眠ろうとして、次々と脈略のない記憶ばかりよみがえってきてしまうようなシーンは身に覚えがあった。まんじりともせず白々と朝が来てしまったときのあの絶望感も。こちらの絶望などおかまいなしに、たやすく陽はのぼる。
〈平日に休みを取って出かけるのはNと観劇に行って以来だった。日差しは厳しいが空気はからりとし、わたしはPCの画面の外にもこうして世界が広がり、水曜日の午後が存在することに歩きながら黙って驚き続ける。途中で街路樹の下を通る。葉の一枚ずつが語りかけるように光り、風にのってさざめき笑う。わたしは息を止めてその様子に見入り、同時に少しだけ混乱する。30数年生きていても、いまだによくわからない。これだけの美しさを持ちながら、ときに信じられないほどの醜悪さを見せつけてくる世界をどのように信じればよいのか。〉
現代人はこのIT社会でつねに情報にさらされ、情報にアクセスするだけでなく情報からもアクセスされているのかもしれないと思った。
最近、我が家の夫の職場でも適応障害で休職する人が増えてると聞いたばかりなのでよけいに。
物語の終盤はマジックリアリズムで、ああそっちの方向性かーと少し残念だったけど、高熱のときにみる夢という感じで面白かった。 -
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ネタバレ今年の芥川賞候補作家の著作(ノミネート作品ではない)で、太宰治賞受賞作。
女性が社会的に無自覚に押し付けられているあれやこれやについて、わかりやすく考えさせる内容ではあるが、今回はこの本を読んで感じた「キモさ」について書こうと思う。
主人公は、ふとしたことから会社で「妊娠している」と嘘をつき……そのままその嘘をつき通して出産、産休育休まで迎えるわけだが……。
最後まで、別にこの嘘が暴かれるわけでもなく、物語は平和に(?)終わる。まぁ、これだけでもモヤモヤはするんだけど、なんかずーっとじわじわとキモかったのが、主人公が、この嘘をついたことに対して、1ミリも罪悪感を感じていないことだ。かといって、「やってやったぞ!」というわけでもない。なにを考えているのかわからないキモさ。淡々と、粛々と、妊婦生活をこなしていくその姿が、なんとも言えずキモいのは私だけだろうか。
文章自体は軽妙洒脱といっても良く、時には笑いも誘いながら、するすると読めるのだが……ふと気づくとずーっとキモさがつきまとっている。
そうだ、私にとって芥川賞系の女性作家の作品って、なんだか全体的にこの種のキモさがあるのが共通しているのかも、という気づきになった一作でした。 -
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ネタバレ表現が詩的だからか、表現は美しいのだけど、ストーリーが掴みにくかった。
週に一度、古代ラテン語が話せるアフロディーテの彫刻の相手になるバイトというほんのりSF設定(他の方の感想読むと、マジックリアリズムというのか…)なので、逆にその文体が丁度いいのかもしれないけど。
なので私にとってはあまり響かず、雰囲気を楽しむだけに留まってしまった感覚は拭えない。
人とのコミュニケーションが苦手な主人公が、その気持ちを強めると、レインコートが厚くなったり鬱陶しくなるのだというのは感じ。それがテーマな訳でもなさそうだし、かといって他にこれといった主軸が分からなかったので、ハマらなかったかな。 -
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空芯手帳は、軽い衝撃を受けた、笑
妊娠しているというウソをつき始めて、十月十日を超えても、ウソをつき通す主人公、柴田。
妄想なのだけど、やけに現実味があって、その塩梅が狂気を感じさせる。
時々、え、妊娠してるの?してないの?どっちなの?となる。笑
妊婦のコミュニティに溶け込んでいるのも面白い。笑
『妊娠というのは本当に贅沢、本当に孤独。』
とな。、
まだ体感としてはわからないけど、
同じ女性だろうと、他人だから完全には理解しえなくて当然で、だからこそそれを前提にして、
驕らず、謙虚に相手を思いやることが大切だと言いたいのかなぁ。
あとは、自分を守るためには、時に嘘もつくこと。
それが主人公にとっては妊娠だったのかな。 -
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何とも突拍子もない設定の物語です。主人公は普段は冷凍倉庫の荷出し係として働く若い女性。ある日彼女はラテン語の会話能力を見込まれ、博物館に展示されるビーナスの話し相手になると言うバイトを斡旋される。
大理石製のビーナスが会話をするというのも突拍子が無いですが、博物館も何処か非現実的な雰囲気があり、学芸員もなかなかの曲者。さらに主人公の住むアパートやその大家や住人も時代に取り残されたように奇妙です。意外に、奇妙そうで何故かまともなのが冷凍倉庫の仕事です。
何か深遠なテーマがあるのかと思えば、主人公がまとっている(と認識している)人からは見えない黄色いレインコート~これは一種の対人プロテクタで、他人との付き合い辛さを象徴しているようではあるものの、それがメインテーマとは思えず。
むしろマジックリアリズムや独特の表現方法をを楽しむ本なのかと思います。そういう意味では楽しめました。 -
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ネタバレ「職場にキレて偽装妊娠。」の帯に惹かれて手に取った一冊。
最初はコメディを読むくらいの感覚で面白おかしく読み始めたけど、主人公が母子手帳アプリを使い始めたり、マタニティビクスに参加したり…。妊婦健診でエコーに胎児が写った時には頭が混乱してこのお話をこの先どう読み進めて良いかわからなくなってた。
だけど、「自分だけの場所を、嘘でも良いから持っておくの。人が一人入れるくらいのちょっとした大きさの嘘でいいから。その嘘を胸の中に持って唱え続けていられたら、案外別のどこかに連れ出してくれるかもしれないよ。その間に自分も世界も少しくらい変わっているかもしれないし」(P.173)という主人公の言葉を読んだ時にスッと胸に落ちたというか、主人公のことを受け入れられた気がした。自分の心を守ることって本当に大切だよね。エコーに写った胎児は主人公の強い思いが生み出した自分を守るシェルターみたいなものだったのかなって思ってる。
解説もすばらしくて、この物語をわかりやすく噛み砕いてくれていて理解を深める助けになった。