一番初めに、皆さんご存知「アンパンマンのマーチ」の歌詞が載っていて、これを見ていたら鼻の奥がツーンとしてきた。やなせたかしさんが来し方を振り返ったり、アンパンマンに込めた思いを語っているのを読み進めていく間も、ずっと鼻はツーンとしたまんま。西原理恵子さんがやなせ先生の思い出を書いている所で、あ~ダメだ、とうとう涙が出た。
テレビや雑誌で見るやなせ先生はいつも笑顔だった。身内との縁が薄く、辛いことの多い人生だったというのは、亡くなって初めて知った。長いこと売れなくて、アンパンマンのヒットは七十近くなってからということも、いつも笑いのネタにされていた。本書を読むと、どこまでもサービス精神旺盛で、偉ぶらず、明るくふるまっていた先生の姿が、生き生きと浮かんでくる。同時に、秘められていた悲しみの深さを知り、粛然とした気持ちになる。
学生の頃だったか、「詩とメルヘン」を毎号買っていた時期があった。なんといっても生意気盛りだった頃のこと、タイトルといい優しげな絵柄といい、買うのがちょっと恥ずかしく、ましてや持ってるのを友人に見られるなんて論外で、本棚の隅っこでママコ扱いしてたのを覚えている(ひーん、先生ごめんなさい)。今にして思えば、難しいところのないやさしい語り口の文や、温かい絵のタッチに、「通俗的」と斬って捨てることのできない真実味を感じていたのだろう。いつ頃か処分してしまって、これはとても悔やんでいる。
アンパンマンについては、もう語るまでもない。うちの子二人も大好きで、保育園のお昼寝布団、トレーナー、パンツ、靴、スリッパ、お絵かき帳…、とにかくみんなアンパンマン、なんて時もあった。親子ともにお気に入りだったのは、元祖フレーベル館の絵本で、なんとも渋い色合いが良かった。今でも大事にしている。きっと、これからもずっと、幼い子(とその親)に愛されていくに違いない。
西原さんの文章から。
「辛いとき、悲しいときにこそ、身近な所に小さなロウソクを灯すクセ。小さな希望や、小さな楽しみを見つけて、それに火を灯す。その小さな炎の小さな力で、持たされてしまった負のカードを、明るく楽しいカードへと交換していく」「戦争、飢餓、孤独、別離…そういう負のカードすべてを、とても楽しいお話に変えることで、幸せのカードにしてしまった」「先生、あなたの悲しみは、それはそれはきれいな花になって、今、あちこちで咲き誇っています」