小松亜由美のレビュー一覧
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法医学教室で検死にまつわるミステリ。作者さんがガチの解剖技官さんということでそのあたりのリアリティは(この手のが苦手は人はきついんじゃないかなと思うくらい)がっちり。まあ解剖技官や検死官みたいな立場の人が捜査に・・ってのはさすがにないんじゃないかと思いますが。
なかなかに面白かったです。ミステリ自体はなんというかそこまででもなかったんですが、特殊な業界のいわゆる「お仕事小説」という意味でとても興味深かったです。キャラクターもいかにもな感じでシリーズ化とかするのだろうか?楽しみにしています。
ただまあ、実写であれアニメであれ映像化はまずもって無理そうな作品ですね。 -
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小松亜由美さん2冊目。『イシュタムの手 法医学教授・上杉永久子』よりも本作の方が早い刊行だったんですね。こちらも法医学・遺体鑑定に係る医療ミステリーで、法医学(解剖)のリアルを描く原点なのかと感じました。
主人公は法医学解剖医・加賀谷千夏。寡黙だけれども腕はピカイチ。彼女の握るメスが、死者にまつわる謎を解き明かしていく展開です。解剖場面の描写がリアルで濃く、事件や死者の背景が薄い印象もありました。
エピローグあってプロローグなし? 代わって冒頭に秋田の地方紙の事件記事が…。この意味するところは最終話まで不明(ほぼ見当が付いてましたが)。
4篇それぞれで視点人物が変わり、優秀だけれども陰のある加賀谷千夏の、人物像としての輪郭が徐々に浮き彫りになっていく構成の工夫が読み手を惹きつけます。
千夏の司法解剖に向き合う姿勢からは、声無き声を掬い上げ対話する、死者への敬意と行為の矜持が感じられます。また、新米解剖技官の成長譚を盛り込むのも、次作以降に引き継がれているようです。
作者自身も現役解剖技官であり、鋭い観察眼と解剖技能への向上心が、魅力的な2人(優秀な千夏・新米の久住)を創り上げたのでしょう。隣り合わせの死と生が浮き上がる描かれ方に好感がもてました。 -
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久坂部羊、小松亜由美、中山祐次郎、七尾与史、南杏子『謎解き診察室、本日も異状あり』幻冬舎文庫。
5人の医師作家による医療ミステリー短編アンソロジー。
中山祐次郎と南杏子は初読みの作家。七尾与史が医師作家だとは知らなかった。
七尾与史の『患者は二度死ぬ』がピカイチで、後は並以下の出来だった。
久坂部羊『悪いのはわたしか』。そういうオチであったかと納得するも、真実は一体何処にあるのかと頭の中が混乱した。新聞で人生相談の連載を持つジャズピアニストにして精神科医である女性医師の元に怪文書が届く。怪文書が届いてから女性医師は次第に精神的に弱っていくのだが……
小松亜由美『半夏生のトルソー』。瓢箪から駒の迷推理。本作に描かれた殺人死体遺棄事件もそうだが、最近は身勝手で猟奇的な事件が多いように思う。トラックの運転手により山中で偶然発見された頭と手足が切断された胴体だけの男性の遺体。誰が何の目的で男性を殺害し、遺体を切断し、遺棄したのか。
中山祐次郎『クリスマスイブの診断書』。医療用語を連発し、どうだと言わんばかり。よく意味の解らぬストーリー。だからどうしたのという感じ。オーバードーズで病院に運び込まれた若い女性が手当の甲斐もなく、死亡診断を受ける。しかし、その後に女性の手が何度か動き、死亡していないことが判明する。
七尾与史『患者は二度死ぬ』。七尾与史は歯科医師であったのか。非常に巧く組み立てられたミステリーだった。そして、結末までも計算されているかのようだ。夜間の歯科医院に大金を持って、痛む親不知を抜いて欲しいと訪れて来た謎の男。
南杏子『サイレント・ペイシェント』。介護認定というのはかなり適当だと思う。ケアマネの胸算用で介護度が決まっているような気がする。この短編はその介護認定に関わる話である。母親の年金で暮らし、困窮する女性が介護保険金目当てに他人の認知症の母親を借りる。
本体価格630円
★★★ -
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法医解剖。異常死と判定された死体を司法に基づき解剖する検屍行為のことだ。
死亡推定時刻や致命傷、使用された凶器などのほかにも、法医解剖によってわかることは意外なほど多い。
遺体を詳細に調べ、犯人の計算外の隙を見出し事件解決に導く解剖医と技官の活躍を描く、法医解剖連作ミステリー。
◇
暗く重い空気の中、ホルマリンの臭いと飛び交う数匹の小バエに不快さを感じつつ、私は解剖の準備に取り掛かった。
ここは仙台市にある杜之宮大学医学部の法医解剖室だ。間もなく宮城県警から遺体が到着する。それまでに解剖の準備を済ませなくてはいけない。
解剖台の脇に、メスや剪刀、ピンセット、鉗子、骨膜剥離子などをセットしていく。それぞれで必要数が違うが、法医学教室で解剖技官を務める私にとっては手慣れた仕事だ。
解剖台の準備が予定どおり終わったとき、遺体を乗せた警察車両が到着した。
ストレッチャーから解剖台へと移された遺体をざっと見たあと、写真撮影をする。全身と各部位の他、創(キズ) もアップで撮っていく。
最後に直腸温を測り身長も計測して、解剖前の準備作業を済ませたとき、「遺体外表の写真撮影は終わったのか」と声がした。
私のうしろで偉そうに仁王立ちする小柄な男こそ、私の上司で当大学が誇る新進気鋭32歳の法医学者、今宮貴継准教授だった。
( 第1話「恙なき遺体」) ※全4話。
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法医解剖による事件へのアプローチがテーマの作品と知り、興味が湧きました。
岩井圭也さんの鑑定人シリーズがおもしろかったので、同じようなプロフェッショナルを描いた硬派の作品をイメージしていましたが、テイストはまったく違いました。
主人公は梨木楓。杜之宮大学医学部の法医学教室に勤務する27歳の臨床検査技師です。
小学校時代からミステリーファンで、特に法医学や科学捜査に強く興味を持った楓は、大学で医療技術を学びます。
卒業後は、そのまま大学の医学部で臨床検査技師に採用され、強く希望して法医学教室の解剖技官に収まったという、筋金入りの法医学ヲタクです。
楓の相棒を務めるのが、法医学教室の准教授で、まだ32歳という若手の法医学者、今宮貴継です。
この今宮という男、オレ様気質で子どもっぽいところも多々あるのですが、頭脳のキレや執刀の腕は抜群で、謎解きの中心になる存在です。
今宮と楓は、ちょうどシャーロック・ホームズとジョン・ワトソンのような関係でとらえればわかりやすいと思います。
この2人の掛け合いがコミカルなのと各話が短編であるのとで、ミステリーとしてはよく考えられているわりに、事件がトントン拍子に解決に向かいすぎる感があります。
そのあたりが読んでいて少し物足りなさの残る点でした。
ただ、楓と今宮の間の恋愛感情はいっさい書かれていないので ( 何か雰囲気めいたものは感じるものの ) 、表面的にはラブコメ要素がほとんどなくてよかったと思います。
また、司法解剖や解剖学、人体学についての知識は適宜、端的に要点説明をしてくれているので、謎解きには説得力がありました。
遺体に事件性を感じるとミステリー小説仕様で解釈する楓。そんな楓に対して「オレはミステリーなど読んだことがない」と言ってバカにするわりに、何かの拍子にミステリーファンらしき片鱗を見せてしまう今宮。
このコンビによる謎解きミステリーは、解剖シーンさえなんとかクリアできるなら、映像化に向いていると思うのですが……。 ( 内臓をすべて摘出したりするので深夜帯のアニメでもムリかな!? ) -
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著者は、臨床検査技師免許を持ち、法医学教室で解剖技官を務めるという、ちょっと変わった経歴。
それが遺憾なく発揮されている本連作。
主人公は秋田医科大学の法医学教授である上杉永久子(とわこ)。語り手は上杉教授の教室に所属する博士課程院生の南雲瞬平。
タイトルの「イシュタム」の由来はなかなか出てこないが、中盤以降で南雲が説明している。マヤ神話に出てくる、「自殺を司り、死者を楽園に導く女神」のことだという。
収録作は5話。
いずれも検死のため、永久子の元に運ばれた遺体の解剖から、事件の背後にある意外な事実が現れる形式。
火災後に発見された老夫婦と思われる二体。
食中毒で倒れた家族。
乳児の不審死。
かつて、南雲の親友だった男との思い出。
夏祭りでの複数の原因不明死。
著者の職業柄、解剖シーンは詳細なのだが、過度に生々しくはない(このあたりは読者によっては受け入れにくい人もいるかもしれないが)。永久子らの死者に対する敬意も描かれており、解剖の知識に対しても信頼が置け、安心して読める手堅さがある。
事件のトリックや真相はあっと驚くようなアクロバティックなものではなく、現実と地続きで、こちらも手堅い印象。
著者がこの連作をさらに続けるのかどうかはわからないが、本書の範囲では、永久子が「イシュタム」と呼ばれるべきであるほど、各事件が自殺寄りのものであるようには思えない。
南雲と永久子はそれぞれに過去に起きた重い出来事を背負っており、それには自殺が絡んではいる。南雲の方は本作中で明らかになるが、永久子の抱える過去の真相は不明のままである。もし、続編があるのであれば、そちらの方も描かれてほしいところだ。
舞台は秋田なのだが、著者は秋田出身なのだそうで、風景描写の美しさは郷土愛の賜物か。 -
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ネタバレ今宮准教授が主人公の物語を読んでいるというよりは、被害者は何が原因でどうやって死に至ったのかを科学的根拠をもとに、作者さんが説明してくれているのを黙々と聞いている、といった気分になった。
解剖に関する知識や情報、病理学的な所見に関する解説は、さすがに凄いな、へーそうなんだと感心しきりだったけど、授業や講義を聞いている感覚に近くて、キャラに感情移入するとか、今宮准教授カッコいい!とか、物語の流れ没入してハラハラするといったことにはならなかった。
物語の大きな謎の一つでもある、被害者が犯人を含む関係者を集めた理由が何だったのかの答えが、死期が近いからお礼を言いたかったんだとなっていたけど、彼らに対して被害者がストーカー、セクハラ、脅迫などをしていたという前フリがあってこの理由というかオチは、あまり腑に落ちなかったし、主人公を含めステレオタイプの見本市みたいな登場人物たちに共感は覚えなかったな。
人というより記号に見えてしまった。
次巻も出てるみたいだけど次も読みたいな、とはあんまり思わなかった。著者さんが法医学や監察医のお仕事についての解説本みたいな本を書かれるのなら、それは読んでみたいなとは思った。