【感想・ネタバレ】イシュタムの手 法医学教授・上杉永久子のレビュー

あらすじ

現役解剖技官が描く、リアル法医学ミステリ。

大学受験に失敗し、東京の実家を出て秋田医科大学に進学した南雲瞬平。ある出来事をきっかけに、大学卒業後は博士課程に進み、法医学教室に所属している。秋田県内で発見された異状死体の法医解剖は全てここで行われる。上司の上杉永久子教授は自殺研究の第一人者だ。抜群の解剖技術と観察眼を持ち、死者と死者を見送る者への敬意を尊重する一方、その想いが先走り、周囲を振り回すこともたびたびだった。
年末、運び込まれてきたのは二体の焼死体だった。高齢で寝たきりの妻とその夫とみられる。無理心中事案と思われていたが、上杉は両者の臓器に似たようなポリープがあることに着目、警察にある指示を出した。これにより、意外な事実が明らかになり――。
一家の食中毒事案、生後二か月の乳児の死亡事案、夏祭りでの毒物混入事案、そして、南雲の過去に起きたある人物の死にまつわる衝撃的な出来事。常識に縛られない上杉と、執刀医を目指す南雲のコンビが事件の真相に迫る。
現役解剖技官が描く、司法解剖のリアル。そして、自然豊かな秋田の風物や風景。圧倒的な描写力で、私たちの隣にある「死」について深く考えさせられる、新たな領域に踏み込む法医学ミステリ。

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Posted by ブクログ

小松亜由美『イシュタムの手 法医学教授・上杉永久子』小学館文庫。

秋田県大仙市出身の現役解剖技官が描く、秋田県を舞台にした5話から成る連作短編形式の法医学ミステリー。

秋田の自然豊かな風土や文化を背景にリアリティあふれる司法解剖の現場、人間の生み出す業やドラマを描いた佳作である。第一話と第二話を読む限りでは、司法解剖の現場を描いたノンフィクションのような味気無さを感じたのだが、第三話から最終話まで、一気に面白くなっていく。

家族は皆、優秀な医師という東京の家に生まれながら、三流医大の秋田医科大学に進学し、ある出来事を切っ掛けに卒業後に博士課程に進み、現在は法医学教室に所属する南雲瞬平の視点で物語は描かれる。

秋田県内で発見された異状死体の法医解剖は全てこの秋田医科大学の法医学教室で行われるという設定である。

南雲の上司である定年退官まで後3年という上杉永久子教授は抜群の解剖技術と観察眼を持つ自殺研究の第一人者であった。そして、永久子の夫で歯科医を開業する英世も度々法医学教室に呼ばれ、死体の口腔内の検死を担当していた。

『第一話 業火の棺』。普通に司法解剖の現場を描いたノンフィクションという感じで、ミステリー色は余り感じられない。年末に法医学教室に司法解剖のために運び込まれてきた2体の焼死体。上杉永久子と南雲瞬平は焼死体の解剖を行う。高齢で寝た切りの妻とその夫とみられ、無理心中事案と思われた。しかし、上杉は2人の臓器に似たようなポリープが多数あることに着眼し、警察にあることを依頼する。その結果、明らかになった事実とは。

『第二話 胡乱な食卓』。偶然に便乗したような犯罪が描かれる。この短編でもミステリー小説としてのドラマが余り感じられない。一家3人の食中毒事案。夫婦が死亡し、嫁だけが中等症で命が助かる。司法解剖の結果、妻と嫁はスイセンを食べたことによる食中毒で、夫の死因は他にあったことが判明する。

『第三話 子守唄は空に消える』。ようやくミステリー小説らしく、人間ドラマを垣間見ることが出来た。仙台で開催される学会に出席しようと秋田駅に着いた南雲瞬平に上杉永久子から乳児の司法解剖の要請があったので直ぐに法医学教室に戻るよう連絡が入る。前日、仙台入りしていた永久子も急遽、法医学教室に戻る。突然死した生後2ヶ月の乳児には足に変形が見られ、臓器にも肥大が確認され、ネグレクトの疑いもあったのだが……

『第四話 出会いと別れの庭』。それぞれの人に忘れられない過去があり、それが未来へとつながっていく。南雲瞬平が法医学を目指す切っ掛けになった過去と上杉永久子が自殺を研究テーマにすることになった過去が明らかにされる。

『第五話 真夏の種子』。最終話になり、もっとも法医学ミステリーらしい、驚くべき事件が描かれる。秋田の県南部で夏祭りの日に4人もの不審死が相次ぎ、同様の症状で2人が病院に運ばれるが、直ぐに亡くなってしまう。6人には吐血、嘔吐、血液混じりの下痢、腹痛、発熱、手足の痺れといった症状が出ていた。上杉永久子、南雲瞬平、永久子の夫の英世、さらには鈴屋玲奈までが手分けして司法解剖にあたるが、なかなか死因が特定出来なかった。そんな中、南雲瞬平があることに気付く。

本体価格710円
★★★★★

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2024年07月09日

Posted by ブクログ

法医学ってすごいな、と率直に思いました。

亡くなってから身体の中を見て、生前どんな状態だったか、どのような亡くなり方をしたのか、そういう事が分かるなんて、と感動も覚えつつ読みました。
途中涙する場面もあったりして、とても読み込める作品でした。

0
2025年07月31日

Posted by ブクログ

 ひょんなことから手にした本書、小松亜由美さん初読です。秋田県大仙市出身で現役法医解剖技官の著者が描く、秋田を舞台とした医療系ミステリーです。法医学(解剖)のリアルを秋田の風景・食・方言が支える、強い秋田県愛を感じました。

 南雲瞬平(医科大の院生)視点の連作5話。指導教官の上杉永久子と連携し、事件現場で不明の真実を解剖ご遺体から知る展開です。瞬平の立場は解剖技官で、あくまで法医解剖医(上杉)の執刀補助です。
 まだ自分に自信のない瞬平と、彼をいじり圧が強い上杉の絡みが面白く、上杉を頼る県警の捜査一課検視官や瞬平の後輩女子が脇を固めています。

 「イシュタム」は、マヤ神話の自殺を司る女神で、死者を楽園に導くという。上杉が自殺研究の第一人者、瞬平が神話好きというのも出来過ぎ設定か…。
 また、遺体解剖のリアルと人間関係の(表面上の)軽さのギャップ、そして犯行動機や心情描写を物足りないと、好みの分かれるところかもしれません。

 著者は瞬平を通して、秋田を自虐しながらも自然の豊かさやローカルフードをアピールし、ふるさとへの(離れて感じる)愛着の裏返しでしょうね。
 また、自身の解剖技官や作家としての未熟さを瞬平に重ねているのでしょう。ふるさと秋田への想いを伝えながら、成長を目指そうと奮闘する姿勢がうかがわれ、今後を応援したくなりました。

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2025年05月15日

Posted by ブクログ

架空の私立大学ではあるものの、秋田の地名がたくさん出てきて県民的には面白かった!秋田弁は聞き慣れていますが文字で読むのが新鮮でした笑
他の県の方、ちゃんとわかったのかな…??
法医学の勉強にもなるので医学生におすすめ!
解剖中の描写に重きをおいており、ミステリとしては短編であることもあってか真相サッパリ系。ぜひ長編をお待ちしています!!

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2025年04月05日

Posted by ブクログ

失恋後25作目
永久子先生…すごい言葉吐きます。しかもサラッと。ガサツなフリして温かい言葉を。
「自分の常識は他人の非常識。みんなが自分と同じと思っちゃいかん。世の中には色んな人がいて、自分の考えが及ばないことが多々ある」
私が1人になってから、こんなに時間が経ったのに、こんなに色んなジャンルの本を読んでるのに、なかなか気持ちが切り替えられないのは…最近そんな渦の中(自分の及ばないところへ)投げ込まれたのかもしれないな、と思いながら読破。
秋田弁が魅力的。胸の内に抱えた問題を気にしながら生きて頑張っている登場人物と一緒に物語が進む。面白かった。

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2024年07月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

秋田弁や土地の描写が地元民にはうれしい!
司法解剖の話だからグロかったり怖いのかなと思ったけれど、それ以上に死の真実に迫る姿がとても面白かった。短編なのもありがたい。
上杉教授のキャラクターが強くてキャッチーだから、難しそうな内容でも分かりやすく読めた。
火事だから焼死、家族みんな倒れたから食中毒、って、安易に考えてはいけないんだなと。
幼い乳児を亡くし虐待の疑いをかけられている母にかけた「家族を弔う義務がある」の言葉が、生きる救いになった気がした。
シリーズ化できそうだし、してほしい!

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2025年03月23日

Posted by ブクログ

著者は、臨床検査技師免許を持ち、法医学教室で解剖技官を務めるという、ちょっと変わった経歴。
それが遺憾なく発揮されている本連作。
主人公は秋田医科大学の法医学教授である上杉永久子(とわこ)。語り手は上杉教授の教室に所属する博士課程院生の南雲瞬平。
タイトルの「イシュタム」の由来はなかなか出てこないが、中盤以降で南雲が説明している。マヤ神話に出てくる、「自殺を司り、死者を楽園に導く女神」のことだという。

収録作は5話。
いずれも検死のため、永久子の元に運ばれた遺体の解剖から、事件の背後にある意外な事実が現れる形式。
火災後に発見された老夫婦と思われる二体。
食中毒で倒れた家族。
乳児の不審死。
かつて、南雲の親友だった男との思い出。
夏祭りでの複数の原因不明死。

著者の職業柄、解剖シーンは詳細なのだが、過度に生々しくはない(このあたりは読者によっては受け入れにくい人もいるかもしれないが)。永久子らの死者に対する敬意も描かれており、解剖の知識に対しても信頼が置け、安心して読める手堅さがある。
事件のトリックや真相はあっと驚くようなアクロバティックなものではなく、現実と地続きで、こちらも手堅い印象。

著者がこの連作をさらに続けるのかどうかはわからないが、本書の範囲では、永久子が「イシュタム」と呼ばれるべきであるほど、各事件が自殺寄りのものであるようには思えない。
南雲と永久子はそれぞれに過去に起きた重い出来事を背負っており、それには自殺が絡んではいる。南雲の方は本作中で明らかになるが、永久子の抱える過去の真相は不明のままである。もし、続編があるのであれば、そちらの方も描かれてほしいところだ。

舞台は秋田なのだが、著者は秋田出身なのだそうで、風景描写の美しさは郷土愛の賜物か。

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2025年02月10日

Posted by ブクログ

法医学物の連作短篇5篇
大学院生2年の南雲が上杉法医学教授の指導の下成長していく話。検死がポイントとなるので医療に関する描写の後の謎解きが興味深い。ただ死体だからいいようなものの、南雲くんの失敗の数々に外科医でなくて本当に良かったと思った。

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2024年10月25日

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