リチャード・パワーズのレビュー一覧
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『子供、女性、奴隷、先住民、病人、狂人、障碍者。驚いたことにそのすべてが、この数世紀の間に、法律上の人格を持つ存在に変わった。それならば、樹木や鷲、山や川が、自分たちに果てしない危害を加えて窃盗を働いた人間相手に訴訟を起こしてなならない理由があるだろうか?ー 話すことができないので当事者適格性が認められないというのは理由になっていない。法人も国家も口をきくことができない。弁護士がその代弁をするのである』
昨秋に、隣地の裏山に自生したオニグルミを幹の半分まで切ってもらった。我が家の雨樋が落ち葉で詰まるから。
僕が家を建てる前から生きてきた木の生存権を侵害し、無用な苦しみを与えていると告発された -
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Posted by ブクログ
昔、吉祥寺に知久寿焼のライブを観に行ったことがある。彼はMCで、吉祥寺の街中にあるとても古い木について話していた。その木は不思議なことに、つららのようにいくつもの「こぶ」が太い枝から下に向かって伸びているのだという。自分はその木を幼い頃から当然のように認知していたが、そんな形状が目に入ったことは一度もなかった。ライブのあと、何気なくその木の前を通って例の「こぶ」を目にした時、身近な世界のなかには不可視の領域が含まれているのだと知り、愕然としたことを憶えている。
この本に充満しているのは、そうした視えないものたちのむせかえるような気配だ。そしてパワーズ特有の、途方もなさから詩の様相を帯び始める事 -
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核酸を増殖するPCR(polymerase chain reaction)の過程をこれ程まで詩的に記載された文章はあっただろうか?!僅か2ページの出だしの文章に、いきなりやられてしまった。
音楽の物語、否、音の物語。音は楽器から奏でられるものだけではない。あらゆる物、あらゆる言葉、あらゆる事象の中に音は内包されている。例えば、朝焼けには朝日のメロディーが、夕焼けには夕日のメロディーが、降雪も雪の種類により各々のメロディーが内包されている。この世は音に溢れている。世界中から音が聴こえ、それを譜面に著わそうとするピーター。それが高じてDNA塩基をkeyとしてメロディーを作ろうとする。それが周囲の誤 -
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リチャード・パワーズは以前から友人のひとりに読め読めと言われ続けていたのだが、なにしろ長大で難解な印象があり(事実そうなのだが)、読書会というきっかけがなければこのままずるずる読まずにいたと思う。その点で読書会に感謝、そしてまた、リチャード・パワーズという小説家、『オルフェオ』という作品に出会えたことを心から感謝する。
結論から言うと、本書『オルフェオ』は2015年の個人的ベスト級の作品です。今現在『グールド魚類画帖』のフラナガンとパワーズによる、熾烈なWリチャード首位争奪戦が繰り広げられている次第。ちなみにわたしは音楽的な知識は絶無なので、本書に出てくる曲の十分の九は名前すら聞いたことがな -
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ネタバレ【木々の描く物語を想像してみる】
世代を超えて存在する木と森林と生態系と、そこに異なる形で関わることになった人が想像する物語の話。
人は木材を生産する時、木を守ろうとするとき、木を学問する時、自然に対する自らの視点を示すのかもしれない。
木にまつわる神話や言い伝え、木材の伐採、森林占拠運動、科学、生物多様性…
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環境保護が欺瞞になる社会。
この世界で、人間が特別なのは、私たちが人間だから当たり前だと思う。
自分の家族が自分にとって避けられず特別な人間であること、
自分の国が自分にとって特別であること、
自分が自分にとって特別な人間であること。
それは避けられない。
けど、
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下巻に入り、読み方をつかんできたこともあってだいぶ物語を楽しめるスキーマが頭の中にできる。
展開的にも、結末へ向けてぐっと動いていくところなのでどの章にも躍動感が出てくる。
ただ、それでもやっぱりものすごい読み応え。この物語は、この写真を偶然デトロイトで見かけた「私」、写真の中に写る農夫たち、理系の雑誌編集者であるメイズの視点でそれぞれ語られつつ、彼らの物語が一つの場所で交差し、そしてそのときに解説で論じられるところの「20世紀全体」の輪郭がくっきりと浮かび上がるという形式になっている。
とりわけ「私」が語る認識論にも似た写真論は、少なくとも私には再読必至。一度読んだだけではその半分も理解でき -
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ボストンへ移動する途中、乗り換えのために下車したデトロイトで出会った一枚の写真。そこに写った3人の若者を見たところから始まる壮大な思索。
なんと言えばいいのだろうか。物語(そもそも物語なのか、これは)に登場する人物を、圧倒的な量の歴史的事実の中に編み込んでいくことで、何が虚で何が実なのかがわからなくなる。
読むのにかなり苦労はする。箴言のオマージュなども多用されているが、もとを知らないのでなんのことかピンとこなかったり、理解できない部分も多々ある。
それでも随所に見られる皮肉的な記述が面白く、彼の膨大な知識に溺れながらも読み進めることができる。
上巻が終わって、ようやく読み方がつかめてきた -
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現代アメリカ文学の作家、リチャード・パワーズのデビュー作。
最も信頼できる翻訳家、柴田先生が翻訳を担当され、そして私が近年に最も愛好するSF・ミステリー作家の小川哲が解説を書いているという点で手に取ったのだが、極めて奇妙で構築された現代小説であった。
この本は表紙にある3人の農夫を写した1枚の写真から始まる。時代は1914年、場所はプロイセン。そう、第一次世界大戦の前夜とも言える時代である。
”20世紀の始まりは1914年である”というのは、近現代の歴史研究における一つのテーゼとされている。このたった1枚の写真から、著者の途方もない文学的想像力によって幕を開け放たられた20世紀の物語が描 -
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現代アメリカ文学の作家、リチャード・パワーズのデビュー作。
最も信頼できる翻訳家、柴田先生が翻訳を担当され、そして私が近年に最も愛好するSF・ミステリー作家の小川哲が解説を書いているという点で手に取ったのだが、極めて奇妙で構築された現代小説であった。
この本は表紙にある3人の農夫を写した1枚の写真から始まる。時代は1914年、場所はプロイセン。そう、第一次世界大戦の前夜とも言える時代である。
”20世紀の始まりは1914年である”というのは、近現代の歴史研究における一つのテーゼとされている。このたった1枚の写真から、著者の途方もない文学的想像力によって幕を開け放たられた20世紀の物語が描