ファン・ジョンウンのレビュー一覧

  • 誰でもない

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    ハン・ガン作品から韓国文学に入り、こちらの作家も読むべしと聞いて読んだ。
    どの短編も、大小様々の不幸に見舞われた人々の懸命に生きた物語が、淡々とした語り口で進んでいく。
    ハン・ガン作品と比較することが適切かはわからないが、ハン・ガンさんが逃げようのない大きな不幸を描くのに対して、ファン・ジョンウンさんの不幸は直視を避けたり逃げたりできるくらいの大きさの不幸なだけに登場人物に選択肢があり、動けちゃうだけにその人間のありかたが湿度を持って立ち現れる感じがする。

    淡々とした語り口の中に、どうしても胸に刺さる言葉が多く混ざってくる。共感できない主人公もたくさんいたが、どれも嫌いにはなれない痛さがある。

    「上流には猛禽類」主人公の若さゆえの残酷さに、彼女の言葉には冷たい手で心が掴まれた気持ちになる。
    「誰も行ったことがない」実子の死に疲弊した夫婦がそれぞれの傷つきを持ち出して知らない国を心許なく旅をしている姿には、一触即発の危うさがありずっと目が離せなかった。

    物語の見せ方のうまい作家だと感じた。すごい感性。

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    2026年06月06日
  • 続けてみます

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    「無理してがんばったって、人生はある日突然断ち切られて、それでおしまい。」
    人生なんて、「どうでもいいことと、どうでもいいもの」
    子供の頃から母親に繰り返し聞かされて、どこかでその言葉に縛られているソラとナナ。
    姉妹と壁一枚を隔てた半地下で育った幼馴染のナギ。
    生きるということは、思い通りにならないクソの繰り返しで、自分も大した人間ではないけれど、3人で肩寄せ合って笑ったり悲しんだりして、毎日は続いていくし、そういうのってそう悪いものでもない。
    「続けてみます。」って続けていってみるしかないよね。

    ナギが不良の男の子を愛してしまって、絶対に報われないし非常に軽く扱われる中で、ボコボコに殴られて、それを享受(初めて真っ直ぐに自分に向けられた行為だから)して、彼が折ってくれた歯(彼の痕跡)も治さないの、そういう恋愛もあるのかと、驚いた。

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    2026年02月23日
  • 年年歳歳

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    “ハン・ヨンジンは赤ん坊との間隔がちょっと開いて初めて、相手と関係を結ぶことができた。子供をじっと見ていたい気持ち、次の表情や次の行動を不思議に思い、知りたくなる気持ち、子供のしかめっつらをかわいそうだな、かわいいなと思って見ていられる気持ち、寛大に対応してやりたい気持ち、忍耐力・・・・・・すべてはその間隔の後に来た。自分の母性にはそれを呼ぶもっと適切な名前が必要だとあるときハン・ヨンジンは思ったが、それは生まれつきのものではなく、その間隔と関係から学習され、形成されたものだった。”(p.64)

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    2026年01月11日
  • 年年歳歳

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    家族それぞれの話だが、家族がテーマではない。韓国の歴史の中で生きた「無名の人たち」の深い有りようを詩的に綴られ、その詩的さ故にシンプルで美しいのに哀しみが重く伝わり…忘れられそうに無い。訳者の後述の解説にも糸口を教えてもらった。
    スンイルの人生は大きな時の山を飲み込み続けて来たのだろう。
    私もあなたも皆、人生にゴールなどなくそれぞれの時を飲み込んでいるのだと感じた。

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    2025年10月06日
  • 百の影

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    ネタバレ

    あっさりと日々を暮らしているように見えるウンギョと、不思議な柔らかい雰囲気を纏ったムジェさんの、そのどちらにも孤独の影は確実に忍び寄っていることを、「影法師」の存在で思い知らされた。自身について多くを語らない2人だけれど、それがかえって、それぞれが抱えているものの大きさを表していると思う。
    本人さえきっと気づかないうちに絶望の深みに入り込んでしまって、自力では抜け出せなくなっているような状態のときに「影法師」が立ち上がってくるのかなと思った。
    冒頭に戻ると、ウンギョを助けにきたムジェさんというたった一人の存在の有り難さが身に沁みる。予備知識なく読み始めても、ページを進めていくうちにだんだんと、何をテーマとしているのかが分かってくる。彷徨ったときに寄り添ってくれる、手を差し伸べてくれる誰かの存在が大きな救いとなったりすることを、無理なく描いている作品だった。
    考えることと伝えていくこと、想像力を働かせて他者と接することが重要であり、それが少しずつでも人々の間に広がっていけば、誰もが生きやすい世の中になるのではないか。
    あとがきも素晴らしかった。

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    2025年08月04日
  • 誰でもない

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    すごかった。
    今の社会で生きるままならなさというか、なんともいえない感情がクッキリとらえられていて…ありふれているけどみんな真正面から見ないようにしてる残酷さを、私たちの社会ってこうですよね、と目の前に差し出されるような感じの読書だった。

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    2025年06月15日
  • 誰でもない

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    人の心の中にある、他人に話すことではないが影を落とすような出来事を淡々と聞いているような気持ちになった。小説を読むというより、他人の打ち明け話を聞いているような気持ちになる。
    明るさは無いけど、とんでもない暗さでもない。

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    2025年05月31日
  • 誰でもない

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    “適切な鎮痛剤を充分な量。それは常に、充分なお金があるときにだけ可能な話です。単なるお金じゃなくて、充分なお金。それが前提で、前提が整ってなかったらただ立って見てるしかないんです、間抜けみたいに。いつもそのことを考えておかなくちゃいけないの。それを想像して、余力を確保しておかなくてはなりません。人間らしさの条件は、余力の有無じゃないですか。”(p.218)

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    2025年03月22日
  • ディディの傘

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    「「有事の際」という言葉は、非常なことが起きるときという意味だが、非常なことはいつも、日常の中に兆しを見せているんだとパク・チョベは言った。突然‥というものは、本当はそんなに突然ではないという話」d

    登場人物や物語の流れが独特なリズムがあって油断していると見失いそうになってしまうのだが、註釈や時代背景として語られるキーワードに気が付くとバラバラだった記憶が一気にいろいろ繋がりだし、現実のニュース映像で見た場面が蘇ってくるような感覚がおもしろい。
    『韓国文学の中心にあるもの』で紹介されていつか読もうと“積んで”おいた本なのだが、(衆議院選挙は終わったけれど米国の大統領選挙直前の)今、読むべきタイミングだった。

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    2024年10月31日
  • ディディの傘

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    ネタバレ

    晴眼者という言葉も、墨字という言葉も、私は知らずに今まで生きてこられた。
    「墨字の状態が常識だから、それをそうと呼ぶ必要もなく、それがあまりに当然だから、私たちはそうと自称することさえしない。」

    人生において、知っている事よりも知らない事が遥かに多く、知らないことを知りたいという意思が無ければ、それは永遠に知らないまま。

    「私たちが常識について語るとき、それは何らかの考えを述べるというより、まさにそれを考えていない状態に近い」「常識的にはね、と言う瞬間、それは何てしょっちゅう、なんにも考えていない状態」「それは固まってしまった思い込み」

    これまで生きてきた社会と時間に育てられた考え方や物の見方は全身に染み付いていて、それに逆らわずに流されるほうが楽だけれど、そうすることで誰も苦しめず傷つけず生きているとは言えない。

    人は、誰にも踏みつけられたくないくせに、他の誰かが目の前で踏みつけられている時、知らないと傍観したり関係ないと簡単に沈黙し拒絶する。

    なぜか。
    自分は小さく取るに足らない存在だと考えているから。

    でも、
    人はひとりではないし、取るに足らない存在でもないと信じている人がもっと増えたらいいなと思います。
    自分の意思とは関係なくとも、今までもこれからも一生、社会の中で他者と共に生きるのだから。
    隣に立つ人が、雨に濡れないようにと気遣うことは難しいことじゃないから。


    「私たちが常識について語るとき、それは何らかの考えを述べるというより、まさにそれを考えていない状態に近い」

    同性婚で『社会が変わってしまう』のか。

    「ある人の言う常識は、その人が考えている面よりも、考えてない面を表すことの方が多く、その人が考えていないことはその人がどういう人間であるかをかなり赤裸々に示す」

    「埃を払ったり、カビの生えたものは拭いたり、壊れたものは捨てたり片付けて、新しい秩序を築いたりは…できないのだろうか、そうそうは。」

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    2023年02月07日
  • 年年歳歳

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    すばらしい小説だった。
    家族であろうと語られないこと共有されないことはその人個人の中に無限にあり、それは誰にも侵せない。朝鮮戦争の歴史と個人の歴史が交差して、それぞれ個人の、その人だけの人生が浮かび上がってくる。
    軽い物語ではないけれど、未来に開かれた小説だと思った。

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    2022年08月27日
  • 年年歳歳

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    「廃墓」「言いたい言葉」「無名」「近づくものたち」四つの短編からなる本書。登場人物の名前と関係は冒頭の人物図に詳しいが、忘れられないのはそのほかの名前の無い大勢の「スンジャ」達や韓国と日本の長きに渡る歴史。習慣や伝統と言ったちょっとしたエピソードに親近感を覚え、親世代への苛立ちや恐怖、いろんな感情で泣きたくなる。生き延びて著者のバトンを受け取った以上は、時代の記憶とキャンドルの灯を次世代へ渡していきたい。作家の言葉、訳者あとがきも含めて素晴らしい一冊。

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    2022年04月20日
  • 年年歳歳

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    植民地解放後、朝鮮戦争を経験し、苦難を背負い生きた世代。
    彼らの多くがスンジャ=順子という名前を持っていた。

    “従順”とか“順調”とか、そういう思いを込められていたのか、はたまた植民地時代からの流行りだったのか。

    彼女らと次の世代とが、語られる物語と語られない物語の間の余白に様々な思いを込め、それが読者の前に情念となり揺蕩う。

    ファンジョンウンはこの物語の中で決して声を荒げたりしない。

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    2022年03月27日
  • 続けてみます

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    韓国文学好きだなって自分でも思ってるんだけど、この本の最高なところは、主人公が妊娠への嫌悪感を露わにしているところ。
    私が知らないだけかも知れないけれど、妊娠出産を嫌がる女の話を私は初めて読んで感動した。自分も妊娠出産をしたくない人間だけど、世の中にはそれを美化してさも「良いこと」であるかのように(リスクを無視して)見せてる表現が沢山あるから、この作中でそんな女に出会えて安心した。
    ナギもいい奴で、ここにセクマイぶち込んでくるあたりが結構好きなんだけど、とりあえず妊娠を嫌悪する女が主人公として登場した時点でこの作品は最高です。

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    2021年08月15日
  • ディディの傘

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    「野蛮なアリスさん」「誰でもない」が大っ好きで今か今かと邦訳を待ち続けていた本作。読んでみると、これまでの作品と明らかにテイストが違う。テイスト?って言うのは適当じゃないか。例えば短編集の「誰でもない」は物語が太巻きだとすると最も米と具が詰まってておいしいところを、痛烈で切実なセンスで盛り付けてくれていたような作品だった。だが、本作は米粒一つぶ一つぶを確かめ疑いながら海苔に乗せてゆく様子を、読者もともに苦しみながら見守るようなそんな作品だ。ともに苦しむといっても、この作品は韓国の情勢、社会事情、街の様子、生活について実体験している人とそうでない人とでは入り込み方が違う。私にはその辺りに詳しくなくて、実感を伴って読むことが出来なくて残念だった。人としてぎりぎりの状態でいる前半戦はマイケル・kみたい。韓国の小説はテーマがあって、社会的正義とか使命を感じる点がすごく面白いし、そのうえで普遍性を感じさせるからファン・ジョンウンはすごいな。「生きてるものの生活がぐちゃぐちゃなのはどうしようもないことだろ、恥じゃない」っていうキム・グィジャの言葉が好き。ファン・ジョンウンがあとがきで「いまだに読むことと書くことを愛しているし、人が好き」って言ってくれてて、ありがとうって感じでした。めちゃくちゃなレビューですみません。LOVE

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    2020年10月02日
  • 誰でもない

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    生々しい不安と不満、絶望。現実に疲弊しているのに、本の中でもまたそれにあてられてぐったり。誰でもない、この人たちは私。
    知っている感情を認知することも読書の意味であるはずなのに、本作にはただ疲弊してしまい、「すでに知っている現実をわざわざ突きつけられることに=読書 に、意味なんてあったっけ?」とすら思わされてしまった。(褒め言葉)

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    2026年07月12日
  • 誰でもない

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    韓国が抱える社会問題が下地にその中で生きる人々を描いた作品
    IMF危機や都会で仕事をなくした人が田舎で職を探す、セウォル号沈没事故を思わせる水難事故などを織り込んで綴られる

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    2026年03月20日
  • 誰でもない

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    短編集の題名「誰でもない」という短編は収録されていません。冒頭に「誰でもない、をなんでもない、と読み違える」と書かれています。「誰でもないから、みんなのことでもある」って意味合いでしょうか。

    『上京』
    語り手の女性は、恋人のオジェとその母といっしょに田舎の唐辛子畑に行った。値上がりする都会の生活費、何でも安いけれど人がいない田舎。韓国経済の悪循環。
    オジェはソウル暮らしに疲れ、田舎に移住しようかと考えていたが、田舎でしっかり根を下ろすほどの確固たる決意もない。

    『ヤンの未来』
    語り手の女性は、就職難から契約職員として何度か転職し、その時はビルの地下の書店で働いていた。ある時店に来た女子高生と男たちが一緒にいる姿に嫌な感じを受けるが、何の対策もしなかった。そのままその女子高生は失踪した。
    語り手は「行方不明者最後の目撃者で、何もしなかった人」として人目に晒されるようになり、女子高生の母親は一日中書店の前の階段で娘の写真を広げるホームレスのようになる。
    語り手はそこから去った。
    この話は誰にもしたことがない。

    『上流には猛禽類』
    語り手の女性が、ずいぶん前に別れた恋人チェヒとのことを思い出している。
    チェヒの両親は北朝鮮からの避難民だったようだ。友人に騙されて巨額の借金を背負い、それでも逃げず、だがずっと貧乏ぐらし。子供たちは早く働き、チェヒの父はがんを患う。
    そんな家庭だが、語り手は自分もこの家族の一員になるのだろうと思っていた。貧しく進学もできないが支え合っている家族。
    だがチェヒの母は父への不満と怒りをずっと持ち続けていた。それが森林公園でのハイキングで露わになる。あまりにも人目を気にしない恥ずかしいふるまいをする両親、それを虚無の目で見つめるチェヒ。
    そんなチェヒとはずっと前に別れた。

    『ミョンシル』
    老婦人ミョンシルは亡くなった恋人(なのかな?)シリーの遺品を引き継いでいる。出版されたことのない作家のシリーが何万冊もの本を遺したのだ。シリー語ってくれた物語。
    ミョンシルは、万年筆を手に取りノートに向かう。
    ==登場人物の性別が分かりづらかった。シリーは男性ですか?ミョンシルがちょっと痴呆症も感じられるので、彼女が思い出すことがいつのことなのかも曖昧な感じ。原文もそうなのか、私の理解力なのか(-_-;) 終盤の、哀しさを越えて静かな感じが良かったです。

    『誰が』
    ヒロインは静かな家を欲していてやっと手に入れた。それまでのつらい勤務、うるさい住居環境。無理したけれど、念願の静かなマンションに入ったのだ。
    しかしドアを叩き理由のわからないことを喚く隣の中年女性がいる。夜になると上野回では女たちが大音響で大騒ぎする。ヒロインは爆発して天井に物を投げつけ続ける。
    ヒロインは「クソ女」と呼ばれる。彼女自身が「迷惑おばさん」扱いになったのだ。

    『誰も行ったことがない』
    初めてのヨーロッパ旅行に出かけた中年夫婦。
    かつて子供がいたが亡くしてしまった。それでも日々を送ってきたのだが、旅行の最中に少しずつズレが生じる。
    そして韓国政府が経済主権を喪失したというニュースが入る(1997年通貨危機を迎え、経済主権をIMFに委ねた)。彼らはそのまま旅行を続けるしかない。そして決定的な出来事。

    『笑う男』
    一人暮らしする男性がいる。なんか不思議な間取りで、リビングと台所と浴室と寝室が一列になっているんだって。寝室が一番奥なの?浴室じゃなくて?寝室から浴室・台所・リビングを通り抜けて玄関に向かう?
    実家の母親は病気になり、父親は節約のため家を改築してとても汚く臭く醜くさせた。
    男性は「なにもしない・無関心」で生きてきた。倒れた老人を見かけても素通りした。共に乗ったバスの事故でも恋人を抱き寄せなかった。今この住居で自分を単純化させて生きているのは、後悔を抱えているからなのか。

    『わらわい』
    冒頭の「私は笑いたくないんですが笑っています、しょっちゅう笑います毎日笑います、いまも笑ってるでしょ」という書き出しでなんかすごいの来たなーって感じです。
    彼女はデパートの店員で、貧乏な暮らし、おとなしかった幼少期、死んだ母のこと、就職難、客からの強烈なクレームを語っていく。
    その合間に「あなたは笑っていますか?どんなふうに笑うか詳しく教えてくださいよ、ねえ」というつぶやきが差し込まれます。
    自分を大切なものだと思えないから、人からバカにされるのか。そんな仕打ちをされても困ったことに笑うのが止まらないんです。これが笑いなのでしょうか?こんなのを笑いというからおかしくなるんじゃないでしょうか。
    ほら、私笑ってるでしょ。笑ってるのに。笑ってんだよ。
    笑ってんだよ。

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    2025年11月14日
  • ディディの傘

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    韓国の小説である。2篇の別々の小説が掲載されている。dはタイトル通りのdとddの話であり、傘の貸し借りをするところからタイトルがとられている。韓国の状態を如実に感じることができる。「何も言う必要がない」は、女性二人の話である。そこには大学でのデモやその後のデモの参加が描かれているが基本的には女性が韓国で暮らしていくことの大変さを描いている。

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    2025年11月09日
  • ディディの傘

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    斉藤美奈子さんの著作を読んで、これは絶対に読まないといけないやつだ、と思った本。
    「d」と「何もいう必要はない」の2作品収録。

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    2025年07月15日