戌井昭人のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
女性の書き手が綴る身体や性にまつわるエッセイ「私の身体を生きる」の、男性版。
女であり女であることに違和感なく生きてきた私にとっては、女性の書いたものの方が当然共感するところは多かったけれど、男性たちの綴る文章もとても興味深かった。
男女問わず、どんな属性の人だってそれぞれ尊重されるべきではあるけれど、同質である必要は全くないなと改めて思う。
女性と比べて、身体やジェンダー、性のことを直接的に書いている人がかなり少ない印象を受けた。
と同時に、男性が男性性を語ることの難しさとはこういうことかと納得させられる。社会において強い側とされる側が何をどう語るのか、語って良いのか、難しいのかもしれないけれど、もう少し踏み込んだ内容が読みたかったな、というのが正直な感想。
身体より社会、に意識が向いているように感じた。
その中でも田中慎弥さんの偏屈さが滲む文章がとても好きだった。好きだったとかも言われたくないのかなとか思っちゃう。なんだかいじらしい愛しさがある。
最後の最後で朝井リョウが‘やっている’。
両手を掴んでいたはずなのに、その手を掴んだまま大きく振り回されて、遠心力で吹っ飛ばされたような気持ちで本を閉じた。
-
Posted by ブクログ
「すっぽん心中」(戌井昭人 著)を読んだ。あまり知らない人だけれど、これはしばらく前の芥川賞候補作だっけ?短編が三つ入っていて、最初の一編が表題になっている。
ごく普通の男がDQNの娘と行き当たりばったりの道中になり、千葉の田舎の沼地で採れたすっぽんを料理屋に売り込みに行くという戯けたストーリーで始まる。馬鹿げてはいるものの、まるで著者の体験談のように自然な話だ。次の『植木鉢』、『鳩居野郎』も同様だ。DQNばかりが出てきて、すったもんだして話は落ちるべきところに落ちる。
特に感動も何もしないが、暇つぶしにちょうど良い短編集。たまにこういうのを読みたくなるものだ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ自らを卑下するかのようなタイトルが印象的な作品集。
形容しがたい不思議な感じの書きぶり。主人公は大抵、ゆるゆる・ふらふら・へらへら。そんな主人公が何だか不思議な体験をしてしまう、という短篇5篇。どれも面白かったです。
筆者による「それでも賞欲しい」といういじらしいあとがき、なるほどとうなずく町田康氏による解説も良かった。
何よりこちら、5篇はどれも単独で販売されていたもの。言わば5冊が1冊で読める・しかも結構面白いし、これはお得だなと感じました。
・・・
短篇のタイトルはそれぞれ、「まずいスープ」「ぴんぞろ」「ひっ」「すっぽん心中」「どろにやいと」、とどれも個性的。
内容には触れませんが、大体主人公は20代、仕事は(色々理由があって)していない・ないしはフリーランス的な。ある意味自由な時間を持てていて、平日の昼間にも出歩けるような人。犬も歩けば棒に当たるではないけど、そんな人が外にでると、案の定、不思議な話に遭遇する、そんな感じの話たちです。そしてちゃっかり・しっかり女性にも手を出す。でも汚らしくはないかな。
町田氏も解説で指摘されていたように、作り込んだ虚構感はあまりなく、「自然な」駄目さ加減の男の日常(=小説になるくらい非日常的)、みたいな感じでしょうか。
飾りや衒いのない書きぶりは、金城一紀氏の作品に似ていると感じたり、あるいは駄目男の一人称の視点というと長嶋有氏のテイストにも通底するものがあるなあと感じました。
殺人モノ・刑事モノのような娯楽に特化したわけでもなく、かといって文学文学したお高くとまる感じもない。普段使いだけどちょっとちがう、無印良品みたいな印象を受けました。比喩が過ぎる!?
・・・
ということで初めて戌井氏の作品を読みました。
ひょうひょうとしており、味わい深い作品でした。落選し続けつつも頑張る?筆者に自らを重ね合わせるわけではないのですが、underdogな私ですので、こういう筆者は応援したいですね。
また機会を見て渉猟したいと思います。