小竹由美子のレビュー一覧
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ネタバレこれまでのアーヴィングと比べて,少しストーリーが散漫な気がしたのは,固有名詞にラテン系のものが多く,頭に入ってきにくかったせいもあるのかもしれない.
お話しはいつものように,普通ではないアウトサイダー達が入り乱れ,行きつ戻りつしながら,また主役級があっさり死にながら,進んでゆく.終盤でフアンディエゴによってミリアムとドロシーに関してある発見がなされたあたりから,読者は話がどこに向かっていくのか徐々に気付かされ,ラストになだれ込んでゆくところは,やはりいつものアーヴィングである.訳者のあとがきによると,アーヴィングはいつも結末を決めてから本を書くそうだが,そういう目で振返ってみると納得. -
Posted by ブクログ
社会問題を扱った作品は興味があってよく読むものの、なんとなくリズム感が合わなくて、しっくりくる本ではなかったというのが正直なところではあるが、まざまざと苦悩や不条理を訴える内容ではないけれど、確実に存在するそれらが持つ重いものが詰め込まれている本だと感じた。
「懸命に努力するものだけが成功する」 ー 若い女性が権力を持つ役職のある男性に、能力ではなく恋愛対象の女と見られるか、それに加えてマイノリティではないかが出世が決まる世界を再認識し、やるせない気持ちになった。
「わたしたちはかつてシリア人だった」 ー 「難民が国家にとってどれだけの負担になるか、利益になるかという研究はおかしい。手を差し伸べるのは、安全なところにいる人の義務」という言葉が心に響いた。 -
Posted by ブクログ
ネタバレシリアから子供の頃アメリカへ移住してきた著者による、シリア系移民を書く短編集。アメリカ社会において白人でも黒人でもないアラブ人の寄る辺なさが印象的だが、単純な構造の差別を書くのではない(ので出版社がなかなか見つからなかったらしい)のが面白いと思った。
静かな文章の中に静電気のように漂う怒りを感じるが、それはいったい何に向けての怒りなのかはあいまいだ。シリア系移民たち自身がイスラム文化にも帰属できず不信仰なふるまいをしていたり、シリアのアサド政権下でいい思いをしていた過去があったり、自らも差別をする姿もありと複雑な内容で、彼らの出自は文章中でも隠すように回りくどく示される程度だったりする。自分たちの生を何かの形式に落とし込まれるのを徹底的に拒否しているような、そんな態度だ。
「わたしたちはかつてシリア人だった」では、難民の数や国境線という明快な要素、人間は平等という建前から滑り落ちる個人の人生(かつてのシリアでの不正による贅沢な暮らし、そして没落生活)を姪孫に切々と訴えるおばあちゃんが書かれている。最後に彼女は「だけどお願い、わたしは今、なんて呼ばれるのかしら?」と問いかけるけれど、これが非難ではなく、許しを請うでもなく、まっさらな若い姪孫へ自分の存在まるごとを託そうとする言葉なのだというのが、切なくも希望を感じる。 -
Posted by ブクログ
バングラデシュ系移民とロンドン下町育ちの2人のオッサンの数十年にわたる友情を軸に,それぞれの妻(ヒンズー系とジャマイカ系)と息子,娘たち,白人(ユダヤ系)とその家族,イスラム系過激派,過激動物愛護団体が絡み合い,最後に1992年の大晦日に臨界点に達する.
様々なルーツを持つ人達は決して理解し合っていないのだが,それでも友情が続いて,「わかり合わなくてもわかり合える」ということがテーマになっているように思う.
同じインド系でもバングラデシュ系(イスラム)とデリー生まれ(ヒンズー)は違っており,そのあたりの微妙なすれ違いも描かれているようなのだが,残念ながら自分はそれほど深く理解していないので,作者の表現したことを100%理解しているとはいいがたい. -
Posted by ブクログ
ここ数年読んだ本の中で、最も置いてけぼりを喰らってしまった作品となりました(苦笑)
様々な宗教や、科学主義、動物愛護主義などのイデオロギーが話の中に入りまじり、さらには登場人物たちの人種間の断絶、移民、移民2世の人々たちのアイデンティティの揺らぎや、寄る辺なさが登場人物の行動や思考に影響し、物語はさらに混沌とした中に突き進んでいきます。
いうなれば闇鍋に近い感覚。著者はものすごく頭がいいのか、上記したようなテーマが、物語や登場人物たちの思考や生き方にどんどんと注ぎ込まれていくので、鍋の色も味も混ざり合い、気が付けば理解しきれないものになってしまった、そんな気持ちです。
話としては文化や宗教といった教養や、小説の舞台であるイギリスの雰囲気を知っていれば、もっと読み解けたし、たぶんところどころで笑えたのではないかなと思います。そういう意味で、自分にはちょっと難しい小説でした。
ただこの小説が現代を反映しているように感じられることも確か。
宗教や人種、移民と移民の受け入れ国の国民の間での対立は、時代を経てもなお燻り続け時に爆発します。
さらにコロナによってワクチンと反ワクチンというような科学をめぐっての対立も、より鮮明に映し出されるようになりました。
理解できたとはとても言えないけれど、これほどまでに、異文化が混ざり合った小説が世界に必要とされているということは、ひしひしと感じました。 -
Posted by ブクログ
なんというか……、とにかくカオスだなあ、という印象の強い上巻でした。宗教観や異文化が登場人物の背景にあるのですが、その背景ゆえの思考や行動がなかなかこちらの理解が及ばないというか、ぶっ飛んでいるというか……。
ただ、それゆえに物語の展開が予想できない上、登場人物の異様な行動にも一種のシュールさが生まれて、なんだか上手く説明できないけれど面白いし、何より日本の小説では味わえないような読み心地が味わえます。
特に面白かったのがバングラデシュ出身でムスリスのサマード。イギリスにやってきて家族を養いながらウエイターをする彼ですが、敬虔なムスリスゆえの気苦労が多く、特に女性関係で悩む姿はなんだか可笑しかった。
問題自体は男のしょうもない部分のことなのですが、彼の欲望に耐えられない姿と真面目さのギャップが思わず苦笑してしまう。さらにはその生真面目さが家族にも波紋を広げていくのも、行動や思考が日本人で無宗教な自分から見るとぶっ飛んでいて、面白かった。
文化や宗教観が分かっていないので、読みにくさや理解のしにくさはありますが、絶妙にクセになる雰囲気をところどころで感じます。