川崎賢子のレビュー一覧
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久生十蘭の2冊目。1編を除いて戦後、1946年から1957年に発表されたものが収められている。1957年は十蘭が55歳で亡くなった年であり、この付近は晩年の作と言うことになる。
先に読んだ同じ岩波文庫の短編集『墓地展望亭・ハムレット』と同様に、非常に凝縮された見事な表現が目を惹くが、物語の構成も優れているし、予想外の展開になる作品も多く、やはり、一つ一つがキラキラ輝いているような粒ぞろいである。
しかし、何故か短編集として通読すると、ちょっと疲れてしまう。1編ごとに凝縮されて濃厚な上に、文学性が多岐にわたっており、多彩すぎて作家のコアな「声」が迫ってこない。技巧的で言語表現に凝りまくっている点でナボコフを想起させるが、ナボコフにあるヘンタイっぽさは皆無で、ずっと大人しくも見える。実際にこの作家は穏やかな人物だったのだろうか。
やはりなかなか正体が掴めないこの作家へ目を凝らしても、何やら霧がかかって茫漠としている。それでいて、個々の作品は非常に優れていることも確かなのだ。
さらに十蘭を少しずつ読んでみたい。 -
Posted by ブクログ
百合について、時に文学史的に、時にクィア理論的に、或いはもっと娯楽的に、と様々な観点から語られる。本文も数多のポップカルチャーを絡めて書かれており、百合入門(?)のためのメディアガイドもついていたため、気楽に読めた。百合とされるアニメについて理論的に分析した文も多いので、考察厨も楽しめると思う。
最も印象に残ったのは「百合は"出来事"」という考え方。あくまでも一瞬の出来事であるから、それ一つでセクシュアリティを決定するのは性急である、と。且つこの論は、百合に限らずBLやヘテロであっても適用されるものだという。これはLGBT界隈の常套句「セクシュアリティよりパーソナリティ」に通ずるものがある。
もう一つは「百合の可能性」について。『ゆるゆり』のようなライトな接触こそが百合であり、他の『百合姫』作品はガチレズ、そんなものは求めていない! と嘆く人々。『ゆるゆり』の描くものはあくまで百合の一形態でしかないのに、いつしか百合の定義となってしまった。しかし百合はもっと幅広い可能性を持っていてほしいという。ここからは持論になるが、昨今はカテゴライズ隆盛社会とでも言おうか、カテゴリーを定め、既存の事物をそのカテゴリーの中に押し込めていく。しかもそのカテゴリーは大変な勢いで細分化されていく。その概念はこのカテゴリーには入らない、別枠にしろ、とどんどん切り分けていくのだ。カテゴリーを創作(細分化)していく彼らにしてみれば世界を秩序立てようとしているのだろうが、結果は混沌とした単語の濁流である。不毛だ。もっと単語一つに込められた寛容性や可能性を尊重すべきではないか、などと思う。そういった意味で、百合とガチレズの線引きについて興味深く読んでいた。
最後に、孫引きになるかと思い引用欄には書かなかったが、印象に残った文をひとつ。
“たとえば、十三歳から十七歳までの美しい姉妹の連続自殺を「僕たち」という曖昧な一人称複数形で描くジェフリー・ユージェニデスの『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』のセシリアは、自殺未遂を咎める医師に「先生は十三歳の女の子だったことなんてないでしょう」と言い放ってこの世を去る。”(190頁)
書きそびれていたがこのように少女論もいくつか掲載されているので、サブカルチャー傾倒者は読むといい。 -
Posted by ブクログ
凝縮された完成度の高い短編が多く、何とも言えない美しい描写や人の性格の描き方が上手さもあって楽しく読める。時々立ち上る「ハイカラ」な香りも良い感じ。
「黄泉から」
話の筋よりも、おけいが死の間際にニューギニアで見た「雪」のシーンが実に素晴らしい。★★★★
「予言」
これは夢だったか妄想だったか、読んでいるうちに立っている平面が分からなくなる書きっぷりが絶妙。★★★★
「鶴鍋」
いやはや、良い話だなあ。といったところ。★★★
「無月物語」
これは十分に狂ってると思うなあ。★★★★
「黒い手帳」
これはいいね、実にいい。ルーレット必勝法を軸に、短いながらも話が二転三転、読ませる。★★★★★
「泡沫の記」
これも黒い手帳のような謎解きの楽しみがあるとともに、語り手の立ち位置がとにかく不思議。★★★★
「白雪姫」
氷の中に封印されて30年、美しいといえば美しすぎる話かもしれない。★★★★
「蝶の絵」
戦争後遺症の話として読む分には楽しかったが、解説にあるほど蝶の効果は感じなかったなあ。★★★
「雪間」
これもミステリ風だが、これは普通。★★★
「春の山」
何はともあれ、主人公のような御身分になりたいもんだ。それが一番の感想。★★★
「猪鹿蝶」
女はたくましい。着物談義は読んでもイメージ湧かない素養不足が痛手だった。★★★
「ユモレスク」
何だか最後は不思議な話に、今一つ流れつかめず。★★★
「母子像」
純粋すぎるぜ、まぶしいぜ。★★★★
「復活祭」
普通の良い話。最後のほうに読んだのに一番印象薄い。★★★
「春雪」
純愛の話。美しいですな。★★★ -
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詩論。あえて評伝的な記述や左川の人生に関連させた論考は最小限にとどめられ、作品そのものを分析する態度で徹底されている。
アダプテーションやインターテクスチュアリティといった用語を使いつつ、左川は他者や自身のテクストを再構築し作りかえていったと指摘した箇所が面白い(pp69-70)。同じく改稿癖のあった稲垣足穂との対比では足穂は月、左川は太陽の詩人とされる(pp127-128)。本書の最後ではゴシックと左川を結びつけ、そこに左川の現代性と未来をみようとしているのだが(pp213-220)、この試みは逆に左川の可能性を狭めているように感じた。 -
Posted by ブクログ
斎藤真理子さんの『隣の国の人々』を読んで、詩を読む気分になって手に取った。
左川ちかさんは明治44年生まれで、25歳で病死した。
私は昔から詩が苦手で、1ページ目からやっぱりわからない。
でも、彼女が闘いながら、生を力一杯輝かせようと、美しい花を咲かせようとしていることは伝わる。彼女の強さも伝わる。
感情が迸り溢れるのを私もよく知っている。
私は弱いから絶望しかなかった。生きることが恐怖でしかなかった。
だから、彼女とは正反対だ。
でも、絵と詩は出口が違うだけで同じような気がする。内にある思いを私は絵にし、彼女は詩にした。
彼女の詩は美しい。
多分、リズムがいいのだと思う。それから、空や光や草木など自然の固有名詞が多いから美しさを感じ、色や明暗や匂いがあり、空気が流れるように動きがあって心地が良いのだと思う。
古い言葉遣いなのがいい。
レエスとかバルコンとか英語を使うのもハイカラ感があって、女性らしさが出ていて、いい。(解説で彼女が翻訳家と知った)
読みながら思ったことをメモしてここまで書いたのだけど、終盤の散文(エッセイ的なもの)を読んだら彼女も詩と絵画が似ていると書いていて、被ってしまった(苦笑)
被ったけどそのまま感想として記録しておく。
補遺の散文のおかげで、生きた人としての左川ちかが感じられる。どんな人だったのかがわかるのはとても良い。
解説もなかなか興味深かった。