川島誠のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「彼女が単に、とても植物園にいることを楽しめるということ。それ自体を私はうらやましく思った。
なぜなら、私の場合は、同じくらいの喜びを得ようとするなら、四〇〇メートル・ハードルをしなければならないのだ。」
なんだかここが好き。鞠子という名前も可愛くて好き。
はじめは文体に慣れなかったが段々と楽しめた。
読んでる最中はそんなに古い小説だと思っていなかったが最後の方で出てきたインプラントの記述を見て奥付を開いてみると1994年刊行でびっくり。文体も昔の本だからなのかな。
この作者の最近の小説を読んでみたいと思った。
あと、題名がダサいと思う。 -
Posted by ブクログ
35歳の主人公。
妻は美人でスタイルもよく、娘はもちろん(なぜもちろん?)可愛らしい。
普通の歯科医院より3倍も多く設備やデザインにお金をかけた個人歯科医院を経営し、丘の中腹に建つゴージャスなマンションでは、後付けで工事してもらって寝室で有線放送も聞けるんだってさ。
主人公の車はボルボ、妻の車はプジョー。
本人はスポーツマンで、金もセンスもある。
とことんいけ好かない奴ではないか。
で、妻が、いつの間にか小説を書いていて、新人賞を受賞し、売れっ子として活躍しだしたところから夫婦の歯車が狂いだす。
それのどこが挫折なんですか?
甘ったれるのもいい加減にしろ。
確かに妻の書く小説は、過激な性描 -
Posted by ブクログ
青春とスポーツと性という、明るいもやもやを書かせたらうまいひとという印象が強かったけど、この作品集は割と暗い色合いが強かった。
世の中に責任がなくて、スポーツをしているときだけ充実していて、あとは女の子のことで頭がいっぱいな中学生・高校生。
親の無理解に押しつぶされて、声にならない悲鳴を上げている子ども。
どちらもリアルに繊細だ。
私が中学生男子だったら、ものすごく共感できたのかもしれない。
でも、悲しいけれどもう大人になってしまった私には、彼らの気持ちを忖度することはできても、共感することはもはや難しい。
ただ「田舎生活」や「ぼく、歯医者になんかならないよ」から聞こえてくる悲鳴を、絶 -
Posted by ブクログ
ネタバレなんだろう。「好み」だって思う気持ちと「それほどのものか」と思う気持ちが交互に表れる作品。表題作の他に3篇入ってるけど、それも「いい」と思う気持ちと「ふーん」って醒めた気持ちが同居してる。もっとやっちゃてもよかったのかな?もしくは切り口はいいけど、寸足らず?って感じ。川島誠らしい「青春」に生きてる子が主人公で、そのスピード感は絶品なんだけど・・・なんとも。 でも、きっとかみ締めればかみ締めるほど味は出てくる作品なんだろうなと思う。左目がないことと、見えること見えないこと、見ようとしないこと、親との関係、クラスメートとの関係、教師との関係、恋人との関係・・・etc。斜に構えて物事をとらえて、いろ
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Posted by ブクログ
優等生の広瀬と、野生児の中沢が、800メートルという競技を舞台に青春する小説。
距離を測って、800メートルも恋愛も着実に計算高くこなしていく広瀬。それに対し、真っ直ぐで最初からぶっ飛ばして、恋愛も好きになれば目もくれない。練習も野性的な中沢。
よくある青春物語の設定だが、広瀬中沢どちらの面も人間は併せ持つため、交互に綴られるストーリーに俺はどっちなんだろうか?とか考えながら読み、思慮深い気持ちに浸るのも良い。
800メートルという全く興味のない競技も丁寧な描写と、読み易い文体ですいすい読める。青、汗、風、恋を感じるエネルギーを閉じ込めた小説だ。