片田舎に暮らす「おれたちこれでいいのか」が口癖の二人の男子高校生。そんな二人は無理やり人力飛行機の同好会の設立を手伝わされることに。
折しも日本は外交に関し過激な政策を採る首相がカリスマ的支持を集め、日本は不穏な影に包まれていく。
現代の日本においてもっと話題になってもいい小説だと思いました
...続きを読む。それだけこの本で描かれる日本の姿がリアルに、そして壊された日常への郷愁が切なく感じた作品です。
前半は青春小説の側面が強く、二人のやる気のない高校生が一念発起し人力飛行機制作にのめりこんでいく様子や、変わり者の顧問と徐々に信頼関係が結ばれていく様子、
また登場人物のキャラがそれぞれ立っており、彼らの日常描写が読んでいて楽しく感じられます。
しかし後半から物語の雰囲気が一転します。この本の舞台となるパラレルワールドの日本では、アジア外交で強硬派の首相がカリスマ的人気(全盛期の橋本大阪府知事くらい?)を誇ります。
拉致被害者の帰国を達成するなど、実際に成果は出しているものの、自衛隊の軍隊化など武装を進め衝突も辞さない姿勢です。
しかし、野党があまりにも弱体化していて代わりの首相や政党がなく、そのため余計にこの首相がカリスマ化されています。
話のところどころでそうした日本の不穏さが徐々に、主人公たちの日常を侵食していくのが見えるのですが、それが後半で一気に爆発します。
後半に、相次ぐ日本国内のテロで首相は非常事態宣言を出します。それは主人公をはじめ全国民に影響を及ぼし高校は解散、主人公たちは疎開を余儀なくされ色々な情報も遮断されるように。
そうした非常事態下の日本、そして国民の描写がとてもリアルで読むのが少し苦しくなるほど…。著者の雀野日名子さんの相当な取材、そして思考実験が繰り返されたのだと思います。
そしてそれがあっという間に今までの日常を壊してしまう様子に、寒気を覚えずにはいられませんでした。
救いがあるのか、なかったのか、なんとも言えないラストでしたが、それだけに読後感は心に残るものでした。
日本の国民性だとか、政治の外交部分だとか現代の日本とシンクロする部分も多く、余計にこの小説の世界観がリアルに感じられます。だからこそ、主人公たちの日常が壊され戦争に飲み込まれていく様子も身をもって感じさせられます。
もっと読まれてほしい小説だと強く思います。