ねじめ正一のレビュー一覧
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「凄い人」は沢山いて「尊敬する人」と「なりたい人」がいる。
落合博満氏は自分が持っていないものを持っている「尊敬する人」の一人だ。
「凄い人」だと思うが「尊敬する人」でもなく「なりたくない人」もいる。ホリエモンなどがその代表例だ。
落合博満氏は「なりたくない人」ではないが、なりたくても「なれない人」だと感じる。
「落合氏ならどう考えるか?」がほぼ分からない。
どういう人なのか理解できないのだから、落合氏のようには絶対になれない。
本書は、
「サンデースポーツ」での落合博満と山川穂高の対談。
および、ねじめ正一と川相昌弘、女優:冨士真奈美、絵本作家:武田美穂との落合博満に関する対談。
をざっくばらんにまとめたもので、落合博満のことが好きな人達のおしゃべりのような内容になっている。
NHKでの落合博満と山川穂高の対談番組は私も見たが、何かしっくりしないなあと思った。
落合は1953年12月生まれで、プロ野球の現役期間は1979年-1998年。
山川は1991年11月生まれだから、落合のプロ野球選手としての凄みはリアルタイムに肌で感じてはいないはずだ。
今6歳くらいの子が、引退間近の福留孝介の打席を見て感じる程度の印象しか残っていないのではと思う。
落合本は常に気になり読みたくなるのだが、私には落合博満と山川穂高はどうしてもシンクロしないので、山川応援本になってしまっているのが残念だ。
本書で唯一「そうなのか?!」と思ったのは、「落合は女性の意見に耳を傾けるところがある。」という冨士真奈美さんの言葉くらいだった。 -
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それにしてもというか、あらためてというか、落合がドラゴンズ監督時代の8年間〈2004-2011年〉の成績はえげつない。全てAクラス。優勝4回・2位3回・3位1回。日本一1回。
とにかく強かった。しぶとかった。守備だけで銭の取れるアライバ・屈指の盗塁阻止率を誇る谷繁・強肩堅守のセンターアレックスオチョアの鉄壁のセンターライン。エラー数、リーグ最少の45?! 3試合に1個しかエラーしないなんて、どこぞのチームとえらい違い。失点を少なく、相手より1点多く取る、言うは易し行いは難しの投手を中心にした守りの野球を徹底。〈名選手、名監督にあらず〉の言説を完全に覆す。
現役時代の落合にフォーカスすれば、オレ流調整を貫き、『三冠王を獲る!』と宣言して三度の栄冠に輝くも名球界入りは拒否した、まさしく孤高の天才打者。一方で、FA行使第一号に、契約更改で揉め年俸調停にと…拝金主義のイメージもつきまとうが、監督として文句のつけようのない実績を突きつけられると、落合監督待望論がまことしやかに語られるのもむべなるかな。
著者は現役・監督時代の落合を評し、『落合=ホヤ』論を打ち立てる。その理由は、食べるには勇気がいるが、一度口にするとその歯ごたえや奥深い苦味、滋味深い旨さのとりこになるから…だ。
ホヤを口にしたことはないが、例えとしてはよく分かる。現役時代からとにかく可愛げのない人だった。木で鼻をくくった話し方にその特徴はよく顕れている。監督時代は、親会社が新聞社であっても一切お構いなしにダンマリを決め込み、リップサービスという言葉は落合の辞書にはなく、終始煙に巻いた。
本書は、孤高の天才打者にして名監督である落合博満の淵源はどこにあるのか…。落合の媚びない群れない生き方を見て『あいうえ おちあいくん』という作品を描いた絵本作家 武田美穂、プレーヤーとして指導者として使えた川相昌弘、落合を敬愛して止まないライオンズの山川穂高、東芝府中野球部時代の元監督、プライベートで交流のある女優 冨士眞奈美を訪ねる。
本書の白眉は、落合と山川の対談番組を観た著者は、山川に岡惚れしてしまい、あたかも我が同胞を得たような著者はライオンズのファンではなかったにもかかわらず、山川の追っかけを通じてライオンズも注視。肝心な山川は一向に復調を見せず、ヤキモキ度は極限へ。『そうだ、山川のために和歌山県大地の落合記念館行こう!』と足を向ける…。
後半、落合探訪が聖地巡礼に向かうあたりから、確変するというか換骨奪胎していく。明らかに著者は山川に落合の気配を感じている…。『山川、三冠王を獲ってくれ!』と懇願。凄まじい落合愛。偏愛ながら、そこに至る展開は至極真っ当で、落合ならぬ落愛本でありました。 -
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高円寺で和菓子屋を営む松野屋のひとり息子、高校1年生の正雄は入ったばかりなのに、高校生活が面白くない。そんな時、むーさんに誘われて、銭湯に一緒に行くことになる。松野屋はむーさんから米を仕入れている。むーさんは自転車で米を運んくるおじさんだ。
正雄がむーさんと親しくなり始めた頃、父が借金を作ったせいで松野屋が人手に渡り、夜逃げすることに。その時、むーさんの提案で正雄はむーさんの長野の実家で、むーさんとむーさんのお母さんと暮らし始めることに。
終始、長野出身の俳人、小林一茶の句が出てくる。
登場人物はほぼ全ていい人なので、展開に少し物足りない時もあるが、むーさんに出会ったことで、正雄の人生が拓けていく様子は読んでいて、気持ちいい。
この本で私は、新しい一茶を発見した。そして改めて誠実に生きていきたいと思った。 -
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中編小説と他二つの短編が収められた文庫。
表題作の「万引き天女」は商店街で民芸店を営む男性が増え続ける万引きの対策に躍起になりながらも第一の容疑者である女性に心惹かれていくという話。帽子のよく似合うその女性は皮肉なことに店側が舌を巻くほどに物を見る目がある。次第にこの人になら万引きされても仕方ないかなとか、この万引きはあの人には似合わないなど妙な思考に陥ってしまう。いまいち正体の掴めない謎の女性と万引きの間でゆらゆら揺れる主人公と読者、それが、面白い。
商店の万引きに対する苦悩がとてもよく分かる。こんなにも嫌な気分になるものなのか。
商店街のあり方や他人との距離の変化が万引きという犯罪を通して伝わる一編だった。
「黄色い旗」これは本編よりも好きだった。
20ページ強の本当に短い話である。
武蔵野という土地に尋常じゃないこだわりをもつ遠藤氏とその妻ツネ子。足りない予算に悩みながら毎週の休みを不動産屋巡りに費やし、ついに遠藤氏は武蔵野に家を手に入れる。それは半分は武蔵野、半分は道路を挟んで練馬区というおかしな家だった。
最後の妻と義弟との会話、あれがなければショートショートだろう。あの後味の悪い会話、あれは薬味みたいなものでその他の部分を引き立てるためのクセの部分なのだ。
アイデア一発勝負が短編小説のよさだ。
ローンを組むような年齢ではない遠藤氏はおそらく蓄えもほぼ費やしてしまったのではないかと想像する。それでも尚、本人がとても満足げなのが清々しい。
これは他の話もなのだが、ねじめ正一の小説には人と人とのつながりで生じる摩擦、負の部分を受け入れる包容力がある。作者は人好きがうかがえる。
「お断り」は小説家が主人公のメタ視点的な作品。作者本人がモデルなのではないだろうか。
物書きお断りの小説の題材にしてみたら?と提案しているのもある意味では作者か。
2006年3月25日 第1刷
著者 ねじめ正一
発行所 集英社
万引き天女(9)
黄色い旗(221)
お断り(245)
解説 野谷文昭(288) -
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田村隆一、明子、北村太郎一が自分に素直でそれでいて、
ひたむきに生きたいきざまを描いている。
良質な映画とはよく言ったものだ。
北村の弟が阿子へ言った言葉
「北村太郎を幸せにしてくれて、ありがとうね」
心の中に残っています。
《文中より》
たしかに、それは、
スイートな、スイートな、終わりのな
い始まりでした。
朝の水が一滴、ほそい剃刀の
刃のうえに光って、落ちるーそれが
一生というものなのか。残酷だ。
あなたは偏狭になりながら次第に
魅惑を増してゆくふしぎな人だ
男は大きなため息をつく
「地獄へだってなかなか行けやしない」
ことしはフヨウの花は遅く咲いた
キンモクセイがもう追いついている
それらの花の夜はどのようにあるのか
ぼくは、とどのつまり、何になるのか
ぎりぎりまで押しつけられていた
ばねがはなる
なんと遠くへ来たことか
冬の山林
小道をゆっくり登ってゆく
一個の骸骨
(ゆうべ
感情のぜいたくを味わうための
キスをした
夏の手紙を封印するように)
わたくしはきっと顔面蒼白になっていたにちがいない
が馬場の先の大きなケヤキの網状組織の枝にやっと目
を移してこころいくばり放心し放心し放心しつくし
たのだった
食べつづける
膜をくちびるで
包まれている肉は、そして
肉の内側は、まだまだ熱いか 骨は
骨の内側は、そろそろ冷えていくか
モノをほしがる物欲、のほかに
ココロをほしがる心欲、まで持っているから
ヒトは怪物、なのだ