小笠原豊樹のレビュー一覧
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ネタバレ評価も感想も非常に難しい。とりあえず詩人、幻想みたいな謳い文句に引っ張られると結構具体的な描写をしていて、拍子抜けするかもしれない。
普通に人が死に、殺し、殺される。地味で淡々としているが、かなり無常でダークな作風だ。ダークといっても暗黒ではなく冷たい暗灰色といった感じ。
かなり読むのにコツが必要で、現実的な先入見は捨てなければならない。火星と言っても当然リアルな火星ではない。しかし人の見た夢の中の火星も違う気がする。地球が見た夢の火星みたいなイメージだ。本人が神話と表現するように幽世みたいな。まあよくは分からないが。
最初は捉え所がなくて微妙だと思ったのだが、終盤に進むにつれ文章のキレ味も増してくる。華氏451度のように文章でぶん殴ってくるような衝撃はないが、やはり表現の核も結論も変わってはいない。
最後に収録されている『優しく雨ぞ降りしきる』と『百万年ピクニック』の表現力や抒情性はやっぱり素晴らしい。
短編集ということだが、各話一応連続性があり、この百万年ピクニックで完成し、そういうことだったのかと納得する作りになっている。
そして三体III下などはある意味この作品の改変バージョンであることに気付く。代表作と呼ばれる理由もそこにあると思う。埋め込まれた後続への種子が咲いたのだろう。創作を通した著者の計画は成功しているのかもしれない。
ただ一つ、年代表記は不要だったと思う。あまりに展開が性急すぎる。
瞬発的な面白さは無いが、徐々に良さが浸透してくるタイプで、ある時ふいに読むと波長が合って頭に入ってくる感じだ。しかしそのタイミングは分からず、読めない時は本当に読めない。読める時も作者が序文で宣言している通り、答えが明快に解るとかではなく、何かスッと感じ入り読めてくるとしか自分には表しようが無い。まあこの序文が最も意味が分からないのだが……。だから面白いという観点では評価出来ず、かなり読み手を選ぶと思う。全く読んだことがないので詳細不明だが、確かに星新一が影響を受けたっぽい作風だが、更に掴み所がなく解り難い話だと思う。キノの旅などが好きな人には刺さるかもしれない。 -
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シャーウッド・アンダーソンの『ワインズバーグ・オハイオ』はオハイオの架空の町、ワインズバーグのことを短編小説の連なりから、どんな町なのか浮かび上がってくるという作品だった。
『火星年代記』は序文にも書かれている通り、レイ・ブラッドベリが『ワインズバーグ・オハイオ』から影響を受けて、そのやり方を踏襲、舞台を火星に移した作品だ。
だが描かれている世界はレイ・ブラッドベリらしく非常に幻想的で、不思議な儚さがあった。
時代を感じさせる部分も確かにあるのだが、地球人と火星人という異種族に対する偏見や差別感なども描かれていて、今読んでも強度を感じる部分もある。
個人的な好みとしてはいささか物足りなさも感じるが、名作なのは間違いないだろう。 -
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ネタバレアイツが犯人だと思っていた頃に戻れたら。
ある家族のもとにもたらされた知らせ。それは母を殺したのはジャックじゃない、というアリバイの成立。ジャックじゃないなら、誰なのか。疑心暗鬼に陥る一家、犯人を探そうとする者、隠そうとする者、庇おうとする者、確実に崩壊の足音がしていた。
BSで一度ドラマを見たはずなのに、犯人もすっかり忘れていたおめでたい頭。なんだか坐りの悪い話。むずむずするのは、登場人物が皆「良いことをしようとしている」のに、どんどん不幸を招いているからか。クリスティーは相手を損なう善意をここまで書くのが素晴らしい。はっきり言って免罪を知らせにきたキャルガリは、この一家の問題にここまで首を突っ込む必要はない、執着しすぎではないか。殺された母レイチェルの愛情は、母の愛だったのか。メアリの、下半身の自由を失った夫への愛情は、愛情か。気持ち悪さを感じながらも、ありそうと思う。この歪んだ人たちは身近にいそう。
人間関係のもつれだったり愛憎だったりが殺人の動機になるというなら、クリスティーが描くのは自己中心的な人間の業。ぞくっとする鋭さで読者に問いかける。それは愛なのか。愛は尊いものなのか。 -
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レイ・ブラッドベリはSF作家なんだと勝手に思っていたけど、実際この短編集の半分以上はSFじゃなかった。ファンタジーであったりヒューマンドラマであったり、ホラーやディストピアや故事のような話もあったり…本当によりどりみどり。SFに特化してた訳ではなかったんだな。
いくつかは面白かったけど、律儀に全部を読まなくても良かったかな、と正直感じた。
訳語が古いせいかかなりとっつきにくかったのもある。文章が読みづらい…でも原文によるところも大きいと思う。すごく詩的な文章。情景描写の分かりやすさよりも文章のリズムや美しさを重視している気がする。
内容自体も、うーんそこで話終わっちゃうのか、、、と感じられる作品がしばしば。
表題作の「太陽の黄金の林檎」「雷の音」「霧笛」あたりは良かった。 -
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NHKで同名の海外ドラマとして放送された作品の原作。
殺人事件というのは往々にして、エゴイズムの塊であるが、本書はそんなエゴイズムが、悲劇を巻き起こす。
資産家の女性、レイチェルが殺された。
殺人犯とされるのは、彼女の養子である、今は亡きジャッコ。
なんと、「おまえはもう死んでいる」状態の設定。
話、終わりじゃん。
しかし、第三者であり、本作の探偵役のアーサー・キャルガリが現れたことで、事件が蒸し返され、改めて真犯人探しが始まる。
解説にもあるが、めでたし、な終わり方は妙な唐突感があるし、真犯人が判明するのも、なんとなく取ってつけた、感はある。
その意味では、ドラマ版の方が、私は鮮やかで面白かったと思うし、登場人物たちの育ちの背景や心情が補足されていて、面白かった。
ただ、そちらを先に見ていたからこそ、本作が分かり易かったし、読みたいと思ったきっかけであるので、優劣をつけるつもりはない。
登場人物たちにあまり感情移入ができなかったが、自分勝手さは誰もが持つ心の動きであろう。
母親との関係も、よく問題になる。
愛したのに、その愛は帰ってこないし、良かれと思っても疎まれる。
愛は自己満足に過ぎない。
それでも、愛を持って解決したのは、著者の心のうちに、愛を信じたい気持ちがあったからではないか。
何とも陳腐な憶測ではあるけれど、私も、それでも愛を信じたいと思う。 -
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ジャック・プレヴェールは、「枯葉」というシャンソンの作詞でも良く知られています。もの哀しいメロディーの曲で、過ぎた愛を歌い上げていますが、この詩集に収められた他の詩は、予想に反して明るい色調のものが多いです。
例えば「なくした時間」。天気のいい日に働いていると、みんなが持つであろう気分が軽快に表現されていて、思わず微笑みました。
また「祭」。生命の神秘と儚さが、短い詩に濃縮されています。
詩は、詠う人の心のあり方が如実に現れるものだと思います。
簡潔な言葉で人生のシーンをとらえてみせたプレヴェールの心は、市井で生きる人々の気持ちと同じ目線に立っていたんではないかと感じました。
個人的に、「枯葉」の「ね、僕は忘れていないだろう(Tu vois, je n’ai pas oublié)」という件は、フランス人の心根の優しさを感じさせる部分です。 -
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SF。連作短編集。
ブラッドベリのSFはどこか幻想的。
全体的な印象として、序盤は面白く、中盤は退屈で、終盤はまた面白い。
「地球の人々」での火星人とのコンタクトの結末は、とてもユニーク。
「第三探検隊」も、そう来たか!、という結末の切れ味。
「月は今でも明るいが」では、スペンダーの思考に考えさせられる。
終盤は、「オフ・シーズン」から面白かったと感じる。
「沈黙の町」は、火星に残された人間の哀れな希望が悲しい。
「長の年月」はセンチメンタル。これがベストか。
「優しく雨ぞ降りしきる」は、無人の廃墟で健気に働く機械が虚しい。
「百万年ピクニック」では、最後に僅かな希望があって、少しだけ救われる。