古川隆久のレビュー一覧
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昭和全体を、政治や経済、文化などの面から、時代を下りながら解説していく。
国民主権の大切さ、戦争の悲惨さに重きが置かれている論調で、良くも悪くも左な内容。
問題点があるにも関わらずそれをオープンにせず、誰も正せず進んでしまう政治システムが、明治の伊藤博文や山県有朋によって形作られずっと続いてきた、というのは確かにと思った。
1冊で昭和全部を網羅するため、どうしても内容はそこそこになってしまっていたが、断片的にあった知識をつなぎあわせて時代を俯瞰することが出来た。
特に戦前、戦争中にもあった文化や娯楽についても論じているのは興味深かった。 -
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ネタバレ本書は、多くの先行研究の結果をその性格を明らかにしつつ批判を加えていくという「史料批判」の手法により昭和天皇の実像を描こうとするもの。
これでもかと言わんばかりに羅列される種々の引用からは、天皇の絶対性を前提とする明治憲法の精神の本で、多様化する利害関係の調整を図ることの困難さが浮かび上がってくる。天皇に強大な統帥権を付与しておきながら、いざ利害衝突の段になると天皇に政治責任が生じたり権威に傷がつくことを恐れて、為政者や側近達が天皇にディシジョンメイキングをさせまいと根回しに奔走するのだ(天皇が「聖断」を下すのは田中義一首相叱責事件や日米開戦時のように、これ以上放置すると却って政治責任が生ず -
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昭和天皇の戦争責任がテーマとしてあがるたびに、開戦前・終戦の決断等、実際にはどんな思想とご意見を持った方なのかわからないし、憲法上、国際法上、戦争責任があるのかないのかも、とわからないのが正直なところである。
本書は、一次資料に基づき、実証的な著述スタンスを崩さず、特定のバイアスがかかっていない点に非常に好感が持てる。
冷静に、陛下の軌跡を追うことができる。そこから浮かび上がってくる昭和天皇像は様々であろう。(だからこそ評価の分かれる天皇なのかもしれない)
良くも悪くも、すらすらとは読めない一次資料の引用が多いので、読みこなすには時間と根気がいるが、良書であると思う。 -
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【69冊目】新書大賞2012第2位受賞作。サントリー学芸賞も受賞したそうです。
その副題のとおり、戦争の終わった今から見ると、協調外交だとか政党政治の支持のような、非常に理想的な思想をもった君主だった昭和天皇像が浮かびあがってきます。
けれども、そういった思想の持ち主であったがゆえに、当時の状況や世論からは浮いてしまい、軍との信頼関係も築くことが出来ず、孤立してしまったことが分かります。
それだけではなく、日本が大戦にどのように巻き込まれていったのかという状況の勉強にもなります。たとえば、ドイツの快進撃に幻惑されてしまっただとか。
本書を読んで思うのは2点
① 昭和天皇の戦争責任は、戦争 -
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根底にあったのは東宮御学問所で授けられた徳治政治、
理想としたのは「君臨すれども統治せず」の大英帝国、
目指したのは政党政治と協調外交。
しかし、先の大戦前夜、昭和天皇が思っているようにはこの国は
進まなかった。
昭和天皇に関してはその死後、側近たちの日記などの一次資料や
多くの研究所が世に出た。その膨大な量の資料や報道等を綿密に
すり合わせて、その時々で昭和天皇が何を思い、どのように行動し
たのかを浮き彫りにしている。
理想と現実の乖離に苛立ったり、側近に不満をぶつけたり、無力感に
苛まれたり。磁極の判断を誤った個所も歪曲することなく書かれている。
また、自身の戦争責任についての発言 -
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ネタバレメモ
昭和天皇論。彼については賛否両論あるが、時事能力に長けた学者肌で頭脳明晰だったようだ。欧米に親近感を抱いており、国際協調を望み、平和主義者かつリベラルで国体の欺瞞を見抜き国民に近い皇室を目指した。君主としての自覚があり、戦前のみならず新憲法下でも政治的な発言をしたとされる。しかし、満州事変を経て軍部や右翼が台頭し、思想的にも孤立して戦争を抑えられなかった。戦後は戦争責任論に苦しめられた。
彼の在位期間中を中心に89年の生涯は壮絶だったし、戦争責任はないわけではないが、国体という大義名分で軍部や政治家に利用された悲劇の人ということもできると思う。
主権者としての天皇や先の大戦の賛美、 -
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ネタバレ鉄道事情や文化まわりなど、他にない説明もあって面白い部分もあるんだけど全体的に説教臭さを感じてしまう。
政治、経済のほか、庶民の生活にスポットを当てた説明が多く、流行の映画やテレビなどの文化についても詳しく書かれている。鉄道については特に詳しく、主要路線を走る列車の名前や本数などにも触れ、そのあたり全く知らなかった自分としては楽しめた。ただ、取り扱う分野が幅広いせいで構成がとっちらかって、全体を見通したときにポイントがボケがち。まだ戦前は日本軍という糾弾すべき対象がいたから話としての筋は見やすかったが、戦後はそのようなわかりやすい軸がなく、それでそう思ってしまうのかも。 -
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平坂書房で購入する。興味深い本でした。また、非常に読みやすい文章でした。政治的介入を恐れない人物でした。これは意外でした。消極的関与ではなかったんですね。英米協調路線は明確でした。人事の面、行動ともにです。でも、うまくいきませんでした。天皇と言えでも、一つの政治的パワーに過ぎない。軍は天皇の意向を平気で無視した。つまり、軍は天皇を機関とみていたのです。これは皮肉です。また、資料は要注意だらけのようです。創作も多いようです。でも、新書を真面目に一冊読むのは久しぶりです。古本の場合、全部読むことはないもんな。新刊は全部読むよな。そんなところです。