古川隆久のレビュー一覧
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初代宮内庁長官・田島道治が残した「昭和天皇拝謁記」について、その翻刻などにあたった研究者たちが、原本からの引用も盛り込みながら、そのエッセンスをわかりやすく解説。
引用されている「昭和天皇拝謁記」での昭和天皇と田島長官のやりとりから、人間としての昭和天皇の実像がありありと伝わってきて、「昭和天皇拝謁記」は本当に近現代史の第一級の史料だと感じた。本書の各論考は、「昭和天皇拝謁記」の読みどころを的確に紹介してくれていると思う。
昭和天皇には、これまでシンパシーと敬意を持ってきたが、本書で戦争責任への認識や戦後も変わらぬ君主意識など、ちょっとこれまでのイメージが覆され残念に思う部分もあったのだが、そ -
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戦後初代宮内庁長官を務めた田島道治が昭和天皇や側近たちとの対話を綴った「昭和天皇拝謁記」が発見され、第1級の資料として2019年8月、NHKのスクープ報道と「NHKスペシャル 昭和天皇は何を語ったのか~初公開・秘録“拝謁記”~」で紹介され、大きな反共を呼んだ。田島道治の残した膨大な記録は、後に本書の著社達である古川隆久らが、2021年から2年にかけて全7巻をまとめ上げ、全公開した。本書は、「昭和拝謁記のダイジェスト版」であり、著者らが新発見を多面的・複眼で考察し、まとめ上げた第1級の昭和天皇を証言する記録でもある。
アジア・太平洋戦争は、歴史修正主義者などが解釈する「軍部の独断専行」であり -
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昭和天皇の、主に戦前期の生涯と戦争責任にどう向き合って来たかを題材にした本。「昭和天皇拝謁記」出版前のものでは(もちろん一般に出回っている書籍レベルの話ではあるが)一番詳細な研究がされているものではないだろうか。個人的には升味準之輔「昭和天皇とその時代」がそれまでで最も詳細かつ中立的に書かれたものと考えていたが、そこからさらに一歩踏み込んだものとなっている。
他の書籍や「拝謁記」なども読んでいるため、既知の知識も多かったが、この本で得た知見の中で大きなものが3つある。
1つは張作霖爆殺事件によって天皇の不興を買い退陣したとされる田中義一が、事件前からかなり問題のある行動を繰り返していたことであ -
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「天壌無窮の神勅」による「天孫降臨」をはじめとする建国神話が近代日本社会においてどのように扱われ、どのような意味を持ち、どのような影響をもたらしたのかということを論じている。
戦前においても建国神話を巡る状況にはいろいろと変遷があり、昭和戦中期に近づくにつれてファナティックなものになっていったということがよくわかった。多くの人が建国神話は事実でないとわかっていながら、事実として扱わないといけなかったことによる教育現場をはじめとする苦悩にみちた対応が興味深かった。それらはある意味滑稽に感じたが、天皇機関説事件など建国神話を否定したとして社会的地位を奪われるなどの事態も起きており、笑ってはいられな -
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昭和天皇の生い立ちから逝去までを側近の日記等を用いて実証的に整理し、その人物像を克明に著した評伝。
特に太平洋戦争前後の昭和天皇の政治的な関与に関しては天皇ご自身の発言から史実がどこにあったのか理解することができ興味深い。
皇太子時代からの英才教育を通じて形成された人格、思想が戦中、戦後も貫かれていることがよく著されている。
大正天皇の健康状態もあり、若い時分から想像以上に多面的な教育を受けていたことに驚きこと感じる。
(当時の側近の見識の高さなのだろう)
昭和天皇の政治信条は、儒教的な徳治主義と、西欧諸国、特にイギリスを模範とした民主的な立憲君主制。
また生物学にも関心を持たれていたこと -
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今でこそ違うが、かつては神格化されていた天皇を生身の人間として見ることができて新鮮に感じた。
怒る天皇、悲しむ天皇、喜ぶ天皇・・・
国民想いで、平和主義であった昭和天皇が、時代の流れに抗いながらも避けられず第二次世界大戦に突入してしまう悲しさ。
一次資料が多いため、文面は少々読みにくいが、読む価値あり。面白い。
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Memo
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昭和天皇ほど評価が分かれる著名人は少ない。国民のことを思い、平和を希求した偉大な人物か、それとも自分・皇室・国家の存続のために国民の命を顧みなかった無責任な権力者か。
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(皇太子時代の)講義を通じて天皇が神の子孫ではないことを知ったこと、天皇機関説 -
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ネタバレ新書大賞2012 2位。
中立~昭和天皇寄り(?)
とっつきにくそうなテーマとボリュームだけど、すごく良かった。
天皇とその周囲の人たちがどのような国を目指していたのか、なぜ戦争に向かっていったのか。侍従官たちの日記に記載された天皇の発言を通して結構リアルに近い(?)気持ちがよみとれて感情移入してしまう。
結局昭和天皇の人生の一番の時期が、皇太子時代のヨーロッパ巡りであった。そこで感銘をうけた民主主義の実現を目指したが孤立し上手くいかず・・・というのが切ない。
原稿が紛失したという、昭和天皇本人による自叙伝が見つからないかな・・・ -
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平和的に道徳的に日本を導こうとして、結局理想に導けなかった昭和天皇像が描かれている。軍部や閣僚の暴走と、自身の政治理念に挟まれながら、最終決断の責任を負う立憲君主って大変だわ。
昭和天皇の責任といえば、太平洋戦争の開戦や終戦時期について追及されるが、開戦時には既に昭和天皇は政治的に孤立しており、陸軍の暴走を止められない状態であったとされる。おそらく誰も止められなかったかも知れない。とすると、その原因となった日中戦争勃発時の処理の誤り、もしくは、その戦中の判断について責任追及されるべきなのかな?
親英とされる昭和天皇だが、中国、朝鮮等、対アジアに対する考え方がもう少し異なっていたら、もしかして、 -
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読みやすくて面白いです。
先生、そんなの嘘だっぺ!
尊氏か!と言われ木刀で殴られる
笑ってしまいました。
虚構である神話を史実として扱った結果、わかったのは 嘘 はいけないよということ。
正義とは何か
多くの人々にとっては教育と時代の雰囲気によって得られるまったく異なる価値観である。
準拠すべき別の選択肢が用意されない、また別種の情報から隔離される、ことによって恣意的に人々は利用された。
ただし衣食住足りて、人間は人間として活動するという通り、飢えや生活の不自由さ、命の危険の蓄積が限度を超えれば、こうした教義による抑圧や支配は万民に通用しなくなるという現実も知らしめた。
本居宣長 -
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建国神話という虚構がどのように学校で教えられたか、日本社会に受け入れられていたかについてで、万博やオリンピックなど、日中戦争が泥沼化していく中での日本人の空気感というのもわかって面白かった。
古事記と日本書紀の神話は当時の政治体制を正当化する意味があり、一種の憲法のようなものであった。それが本居宣長の国学、水戸学を経由して尊王攘夷思想に、そして1930年代の国家主義にも影響を与えた。対外的な危機に庶民を動員する思想の根拠として建国神話は事実という建前で教室でも教えられた。建国神話を国民に押し付けざるをえないほど昭和初期の日本は正当性の乏しい行動をとっていたが、この原因は荒唐無稽な虚構が日本人に