久生十蘭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
「フィクションとしての小説というものが、無から有を生ぜしめる一種の手品だとすれば、まさに久生十蘭の短編こそ、それだという気がする」と、解説で澁澤龍彦が指摘しているが、その通り。
私は作者が現れてくるような作品の方が好きな場合が多いけれど、久生十蘭のプロ技は素直に凄いと思う。
『無残やな』『死亡通知』『藤九郎の島』あたりがなかなか気に行った。奇妙なほどあっさりした描写が面白い。
でも結局一番好きなのは『生霊』で、久生十蘭の味というよりは、田舎の因習やそれに類するものの土着的な不思議な雰囲気の描写が好きなだけなのかも知れない、という気もする。 -
Posted by ブクログ
凝縮された完成度の高い短編が多く、何とも言えない美しい描写や人の性格の描き方が上手さもあって楽しく読める。時々立ち上る「ハイカラ」な香りも良い感じ。
「黄泉から」
話の筋よりも、おけいが死の間際にニューギニアで見た「雪」のシーンが実に素晴らしい。★★★★
「予言」
これは夢だったか妄想だったか、読んでいるうちに立っている平面が分からなくなる書きっぷりが絶妙。★★★★
「鶴鍋」
いやはや、良い話だなあ。といったところ。★★★
「無月物語」
これは十分に狂ってると思うなあ。★★★★
「黒い手帳」
これはいいね、実にいい。ルーレット必勝法を軸に、短いながらも話が二転三転、読ませる。★★★★ -
Posted by ブクログ
この作品集に収められている『母子像』をゼミの演習で発表してくれた子がいて、すごく面白かった。美しいと思って、憧れていたもの、この物語の少年にとっては母親の汚さを見て、もう嫌だ!死にたいと思ってしまうのは、少年であるがゆえの心の純粋さのためであると思う。そんな悲しい気持ちを持ってしまった少年の最期は切なくて、悲しかった。この作品では、自分が解釈する自分、他人が解釈する自分とのズレが興味深い。自分が考えている自分だけではなくて、他人が解釈する自分も、自分であることは紛れもない事実で、でもそのズレが人との関係をややこしくしてしまうのかなと思う。
ゼミで久生十蘭を初めて知ってよかった。自分だけで読む -
購入済み
リズムよく
銭形平次捕物帳 半七捕物帳の伝統を引き継ぐ捕物帳シリーズ、和風定食の味わいである。べらんめえ調の口調の良さがそのまま文章になっていてリズムよく読みすすめることができる。ストーリー内容はそれほど重くなく、謎解きもそれほど難しくはない。主人公が武士 という設定なので、平次 半七の大先輩二人と比べるとやや情感 人情にかけるのかな。