久生十蘭のレビュー一覧
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再び久生十蘭の短編集、今度は河出文庫で数冊に渡って出版されたセレクション。
終戦前の作品が8編収められている。本巻の最初の2編は1927(昭和2)年、1938(昭和13)年に発表されたものだが、あまり良くなかった。あれ? こんなものかな?と思ったが、楽しいユーモア小説「フランス感れたり」(1941《昭和16》年)から後のは、やはりどれも良い。ドタバタコメディのような「心理の谷」(1940《昭和15》年)、どんどん話が広がって迫力ある冒険小説となる「花賊魚」(1942《昭和17》年)、骨太な物語性が菊池寛を思わせるが、闊達極まりない人物の台詞(江戸っ子ことば?)の遊戯が独自の魅力を放つ「亜墨 -
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久生十蘭の2冊目。1編を除いて戦後、1946年から1957年に発表されたものが収められている。1957年は十蘭が55歳で亡くなった年であり、この付近は晩年の作と言うことになる。
先に読んだ同じ岩波文庫の短編集『墓地展望亭・ハムレット』と同様に、非常に凝縮された見事な表現が目を惹くが、物語の構成も優れているし、予想外の展開になる作品も多く、やはり、一つ一つがキラキラ輝いているような粒ぞろいである。
しかし、何故か短編集として通読すると、ちょっと疲れてしまう。1編ごとに凝縮されて濃厚な上に、文学性が多岐にわたっており、多彩すぎて作家のコアな「声」が迫ってこない。技巧的で言語表現に凝りまくって -
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この作品は、フォローしている方のレビューから、知ることができました。ありがとうございます。
一時期、「新本格もの」ばかり、読み耽っていた頃がありまして、私の中で探偵推理小説といえば、それらのようなものだとイメージしてしまう傾向があります。ただ、あまりに読み過ぎて食傷気味になって、今では海外ものや、少々毛色の違うものを読んだりしています。
いくつか挙げると、島田荘司なら、「御手洗潔シリーズ(ある意味、すごいのは石岡君だと思うが)」、綾辻行人なら、「館シリーズの鹿谷門実」、有栖川有栖なら「火村英生の国名シリーズ」、他にも、二階堂黎人、麻耶雄嵩、等々、細かい差異はあるにしても、個性あふれる探偵が -
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恐るるなかれ、恐るるなかれ。
物語は境界に生まれる、お化けみたいなものかもしれない。
日常との境界。
混沌との境界。
多面体作家、久生十蘭の短編集としては王道に感じるものが揃っている。その分、流動的な文体や論理展開、緻密な背景設定を楽しむには丁度良いかもしれません。
お得意の色情ものから怪奇小説タッチの心霊ものだったり、軍隊を背骨にした少年と士官の友情ものだったり、はたまた史実を元にしたフィクションであったりと本当に様々。
それぞれが持つ断層やズレが、重なって画になる姿はまさに万華鏡。
自身の姿もまた、その万華鏡の中で分断され、形を変え、見え方を変えなが -
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ネタバレ――
いやー驚いた。
怪奇系ミステリかと思って読み始めたので、びっくり。
げにおそろしきエンタメ小説である…! ん? 誤用か? まぁいいやまさか昭和初期の探偵小説で上質な入れ替わりコメディ読まされることになるとは思いもしなかったし驚きのあまり誤用くらいすらぁな。所謂十人十色の推理合戦、がこういうふうに使われるとは。脱帽。
そしてその中に溢れる機智と諧謔と。あとはもう、なんと云ってもことばの、台詞の、筆致のセンス。そのセンスを、これでもかと緻密な文章で描き出している。絢爛、とはこういうことを云うんだろうな、という文章。だから、そんなはずはないのに読み易い。たまらん。
昭和初期の東京 -
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昭和9年の大晦日、東京。新聞記者の古市加十は顔なじみの女に誘われたバーで安南国の皇帝と知り合う。連れられるまま皇帝の愛人・松谷鶴子の住まう有明荘を訪ねたのが運の尽き、加十は思いもよらぬ大事件に巻き込まれ、皇帝の影武者をやることに。松谷鶴子の他殺疑惑、公園の噴水の鶴が歌う珍騒動、300カラットのダイヤモンド盗難、有明荘住人たちの痴情などがもつれにもつれて絡み合い、警視庁の切れ者・真名古の捜査は難航する。東京という〈魔都〉だからこそ24時間中に起こりうる出来事をこれでもかと詰め込んだ、豪華絢爛なエンターテイメント。
十蘭は洒脱。十蘭はドライ。死体がゴロゴロ出てくるのに徹頭徹尾カラッとしている。 -
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素晴らしい。
収録されているどの短編も、驚くほどに生々しく、それでいて技巧に富んでいる。
なのに全く作為のようなものが感じられない。あまりに自然で、しかし緻密で、澄み切っているのにずっしり重たい。
最初の数編を読んで、そのあまりの出来栄えに私は舞い上がってしまった。これは凄い、これは素晴らしい、思わぬ掘り出し物だ、と。
しかし、読み進んでいくうちに、なんだかその判断も疑わしくなってきた。残酷で悲惨な話も収録されていたり、漢字や言葉が難しくてよくわからない話もあったりしたせいも、もちろんあるだろう。
けれど、それだけではないような気もする。読み終わった今でも、よくわからない。
作為が感じられ -
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ネタバレ『湖畔』
イギリス留学中に決闘を行い顔に大きな傷を負った奥平。帰国後出会った少女・陶と結婚したが上手く結婚生活を営めない。陶の浮気を疑い追い出した奥平。発見された水死体。疑いをかけられた奥平の弁護を担当した高木。
『ハムレット』
祖父江と名乗る人物が連れている老人の秘密。祖父江が所属していた劇団が上演した「ハムレット」で何者かに殺害された小松。小松の婚約者である琴子と結婚した阪井。阪井の家で居候し娘と結婚した祖父江が受けた依頼。生きていた小松。ハムレットの劇内で生きる小松の秘密。
『玉取物語』
参勤交代中にふぐりが肥大化する病にかかった西国の大名。
『鈴木主水』
姫路藩榊原家の相続。新た -
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ひどく生々しい夢を見ているような。
そんな印象が残る、戦前戦後の混乱や変遷の渦中で翻弄される人々の愛と生と死の物語集。
かと言って歴史を語る戦争モノではなく、数奇な運命に捕まった人々の奇妙な半生の物語が多い。
「お地蔵さん」と呼ばれる少年兵を描いた「少年」や、庭中に溢れる花の描写が美しい「花合せ」やなんかは、人の価値観まで犠牲にしようとする戦争とはなんなのか、というメッセージを、そこにある人々や事物の描写で丹念に描き出す。
それだけでもぐっとくるものがある美しい作品なのだけど、「大竜巻」や「三笠の月」などエンタメ色の強い作品もあり、最初から最後まで本当に退屈しない。