久生十蘭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
堪能しました!明治35年生まれの著者の短編、あらゆる味わいの十編、「絢爛豪華な傑作群」というに相応しい。(著者について詳しいことはこの文庫の年譜などご参照ください)。昔、教養文庫か何かのを読んだだけと記憶していた(それでも「久生十蘭」という名を忘れられなかったのだ)けれど、どれも懐かしい(最初の『生霊』は鏡花的)。『葡萄蔓の束』(アナトール・フランスをも思い出す……)や『藤九郎の島』(芝居の俊寛などを想起)を強烈に記憶しているように感じられるからには、そもそもいったい何を読んだのだったか、そのへんの記憶さえ曖昧。既視感ならぬ鮮明な既読感……まさか。国書刊行会の全集は手に入れられそうにないから(
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Posted by ブクログ
収録作品の初出は1940(昭和15)年から1956(昭和31)年。
実に巧緻な久生十蘭の短編小説集。一作一作が異なる方向を向きながら、完成度が高い。語彙が豊かなので分かりにくい熟語も出てくるけれども、物語色の強い短編小説を究めたい人なら読んでみるべき作家である。
しばしばガルシア・マルケスみたいに物語が奔走する感じで、本書中では「美国横断鉄路」が、残虐なリンチの場面が淡々と描かれていて強烈だった。
久生十蘭を読むことは物語を読むことの大きな楽しみをもたらす。ただしそこはどこか閉鎖的な空間のようでもある。あまりにも技巧的でカメレオン的であるので、個々の作品は「閉じて」いて、外部を寄せ付け -
Posted by ブクログ
1937(昭和12)年—1938(昭和13)年の作。
久生十蘭の比較的初期の頃の、長編小説である。殺人事件の謎を追いかける点でミステリと言えるが、いわゆる本格推理小説の類とは全く違う。
何しろ、一作ごとに文体も手法もがらっと変えてしまう十蘭は、ピカソもストラヴィンスキーも目じゃないほどの「カメレオン」作家だ。本作では江戸の落語家のような、諧謔を交えた非常に闊達な口調で地の文が語られ、エンタメ小説としてぴちぴちとした生きの良い全体を形作っている。短時間の内に目まぐるしく事件は発展し、二転三転四転五転とどんでん返しが畳みかけられる。ドタバタコメディのようで、ふつうに面白いエンタメ小説だ。さす -
Posted by ブクログ
初出は1927(昭和2)年から1954(昭和29)年。
数冊出ていたらしい河出文庫の久生十蘭短編集シリーズ、明示されていないが、一応各巻に編集テーマがあったのかもしれない。本書は事実に基づいて書かれた小説か、あるいは事実っぽく書かれた小説が中心ということなのだろうか。
後者の「事実っぽい」作品、事実と見分けがつかないほど巧みに書かれているし、相変わらず隙の無い文体・構成で、迫真の重さがある。語彙の豊富さは言うまでもなく、実に多様な領域に渡る博識も相当なもの。1編の短い小説を書くに当たってもすこぶる周到な資料収集を心がけた作家であったのかもしれない。
がっちりと堅牢で意味内容が濃密な十蘭 -
ネタバレ 購入済み
「隣人が妻を殺して隠した」という結論を示すために、虫を描写して導くのが、心理的効果がよく発揮されて、すごくイヤな感じがした(誉め言葉)。