久生十蘭のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
戦後に発表された久生十蘭短編集。
作者の目線は冷静であり、しかし熱狂も感じる。時代柄戦時中から戦後の悲惨さ、高揚、異様さがごく自然に当時の感覚で語られる。後の時代の研究者がいくら戦時中を考察しても敵わない生の感覚。
小説の筋構成も見事ながら、読んでいる時は本当に読書の愉しみを味わえる作家だ。
作品のいくつかは初めにコトの結末(誰が死ぬとか)を提示するので外連味たっぷり、まさに「つかみはばっちり」それから一連を振り返る構成で、終わりはバサッと幕を降ろす。それが余韻を残す場合もあれば、もう少し説明がほしかったなと思われるものもあり。
着物と食べ物の描写が秀逸かつテンポが良い。漢字の使い方が絢爛でさらに振られたルビがなんとも蠱惑。目で楽しむ小説家でもありますね。
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戦時中に若くして亡くなった従妹を思い出し、降霊術の真似事をする主人公の目の前に示された従妹の思惑。
主人公が自己中心的人物なので、悪い終わり方を想像してしまったのですが、なんとも不思議な優しい余韻を残す作品でした。
派遣された南方に降る雪、戦場で死んだ弟子たちの魂と宴会する師匠、何とも印象的な描写です。
/「黄泉から」
その男の恨みを買った者は予言通りの死を迎える。ある男が予言を辿るありさま。
/「予言」
隣の庭から飛来する鶴をひねって鶴鍋をやります、付き合ってください。
突然の申し出に興味を覚えて同行する主人公。
はたして鶴鍋の真意は。
/「鶴鍋」
後白河法院政のもと執り行われた死罪、事件の顛末。
この短編集の中でもより深く印象的だった作品。
イタリアの実際の事件を日本に置き換えたものですが、描写があまりに見事で途中までは史実の小説化かと思った。
殺害された男の非道な人格描写が強烈で、その非道さのために小説の人物としては抜きんでた印象を持たせられている。
”星屑ひとつ見えない暗い夜で、どこも深い闇だけであった”
「無月」とは凶事の行われた月の出ていない暗闇の夜でもあり、辛く悲惨な正と死を迎える死刑者の人生そのものでもある。
/「無月物語」
ある目的から同宿の男を殺そうとする夫婦。そして主人公はただその傍観者になることに決めた。殺害者と狙われた者の間の奇妙な気持ちの揺れ。
/「黒い手帳」
ルードウィヒ二世の晩年を振り返った考察
/「泡沫の記」
同じザイルで繋がれた夫が助かり妻は死んだ。愛情とは程遠い感情を互いに持つ二人の間で死に直面した瞬間に現れたある種の愛情。
”ひどい女でしたが善も悪もひっくるめて、それが人間というものなので、死んでくれてよかったなどとはいちども思ったことはありません。それどころか、ハナに出逢わなかったら、この世の人間の玄妙さというものをつくづくと感じることもなくすんでいたろうと思っています。”
/「白雪姫」
戦時中にスパイ行為で虐殺を導き死刑に処せられた「マリポサ(蝶)」と呼ばれた日本人がいた。
決して死ぬことのない任地へ送られた深窓の若旦那の生還の秘密、その後の精神の彷徨い
/「蝶の絵」
交通事故を「証拠の残らない殺人」と言い張る女。殺人?の顛末。
こればっかりは幕引きがあっさりしすぎ。結局その後どうだったんだと気になる。
/「雪間」
親戚の留守宅に住む主人公。敷地内の雑木林で行われている闘鶏を覗き見て感じた人生の大事。
初めは世間とちょっとずれたくらいに呑気な主人公の生活描写で今後小説として語るべき事が起こるのか?と思っていたら、臨場感溢れる描写となり、そして人生の機微まで示される。
ここにも一大事があった。「春の山で、一羽の軍鶏が涙を流しながら死んだ」
/「春の山」
二人の女の姦しい電話の会話から展開するある出来事。
親からもしようもない娘と語られる女のしたたかな度胸と、高みに立ったつもりでちょろちょろしている女二人の賑やかさ。うん、女だ。
/「猪鹿蝶」
老いた母親が親愛を込めて語る息子の姿。
息子の不始末を悟る母の愛と直感。
これまたラストの一文が気になる、がここでバスっと止めたのが小説として完成されているんでしょうね。
しかしこの題名は「気まぐれ」とかを意味し、ドヴォルザークの作品が連想させられるのですが、内容とどう連携するのかが今一つわからず。
/「ユモレスク」
少年はなぜ連行されたか。
聖母子像ではない、正反対の母子像。戦地の悲惨さと少年の歪むほどの母への慕情。
これはきつい。久生十蘭の小説ではたまにどうしようもなく救いようもないただ心にドスンといつまでも落ちているようなきつさがあります。
/「母子像」
母を亡くしたオールドミスの知った真実と微かな悦び
/「復活祭」
「この戦争で死ななくともすんだ若い娘がどれほど死んだか。(…)死んだものにはもうなんの煩いもないのだろうが、生き残ったものの上に残された悲しみや憂いは、そうかんたんに消えるものではない」(P372)
「娘らしい楽しさも味合わず、人生という盃からほんの上澄みだけを飲んだだけで、つまらなくあの世へ行ってしまった。」(P373)
青春を戦争に台無しにされ消えるように死んだ娘は、死ぬ直前にクリスチャンの洗礼を受けた。
生と死が当たり前すぎた時代だからこそ生まれた生死を超えた充足があったことを識る。
言葉も交わさず、手も握らず、同じ平面に立ったことのない相手との精神的な結婚。彼女の精神はどれほど満ち足りていたか。
/「春雪」
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巻末の解説で、久生十蘭と中井英夫の父が交流があったと書かれていました。中井英夫は「ジュウラニスト」で、「虚無への供物」に出てくる女性「久生」は十蘭からとったということですが(「虚無への供物」の後日談の短編、登場人物たちが言っていた)父の代からの交流でファンだったんですね。 -
Posted by ブクログ
ネタバレしみじみと印象に残ったのは、太平洋戦争を描いた「風流旅情記」。
主人公の五流画家・三河万蔵は報道班員として、民間の徴用船に乗り込み、日本の勢力圏の南端にあるニューギニア・アルー諸島をめざす。
彼がこの島をめざすのは、鶏の卵を人肌で抱いて孵化させた兵士がいるから、という一風変わった理由のため。
乗り込んだ輸送船は鉄屑みたいな貧相な代物で、乗組員も曲者揃い。海底を自由に歩ける八重山の少年、鉄兜とふんどし一丁で敵の機銃掃射と戦う野武士みたいな男、盗賊の親玉みたいな船長。
この船のくだりだけで、もう十分おかしくて笑える。だいたい、主人公の名前自体が三河万歳と一字違いで、いかにも人を食っている。
島にたどり着いてからのくだりも、ユーモラスで楽しい。
が、読み終えた後はどこか澄んだ切なさが心に残る。
確実に待ち受けている死を覚悟しながらも、のどかに笑いあい、決して明るさを忘れない兵士たちはかなしい。
この話は、自身も戦時中報道班員として南方に派遣された十蘭の体験が凝縮されているのかもしれない。
そのほかには、ナポレオンのロシア遠征、マリーセレスト号を筆頭に国内外で起こった謎の軍艦失踪、チャップリン「殺人狂時代」のモデルになった殺人犯を題材にした猟奇事件など、歴史的事象をクールに追ったドキュメンタリーが多い。
なかでも「カイゼルの白書」は、暢気で頓馬なムードがくすくす笑いを引き起こす名品。
掉尾を飾るのにふさわしい、充実の一冊だった。 -
Posted by ブクログ
堪能しました!明治35年生まれの著者の短編、あらゆる味わいの十編、「絢爛豪華な傑作群」というに相応しい。(著者について詳しいことはこの文庫の年譜などご参照ください)。昔、教養文庫か何かのを読んだだけと記憶していた(それでも「久生十蘭」という名を忘れられなかったのだ)けれど、どれも懐かしい(最初の『生霊』は鏡花的)。『葡萄蔓の束』(アナトール・フランスをも思い出す……)や『藤九郎の島』(芝居の俊寛などを想起)を強烈に記憶しているように感じられるからには、そもそもいったい何を読んだのだったか、そのへんの記憶さえ曖昧。既視感ならぬ鮮明な既読感……まさか。国書刊行会の全集は手に入れられそうにないから(欲しい・読みたいからといってすべてを手元に置くわけにはいかないもん、ね)、気になって積んどいた岩波文庫もちゃんと読もう。「出版不況」ではあるけれど出版点数は増えているとのこと。部数は少なくても、こういうのが文庫で新しく出るのは嬉しいことです。読者・購買者がどういう態度をとれば「本の味方」でいられるのかよくわかりませんが、私は本の味方でいたいなぁ、と、つくづく思います。
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Posted by ブクログ
先月4月に、神保町・東京堂書店をふらついてたら、新刊文庫で見かけた。
創元推理文庫版で大昔読んだ。めっぽう面白かった。十蘭というと、これ。
橋本治さんがよく十蘭のことを書いていた。
それで、他の著作も読もうとしたのだけど、どうもシリアスそうで、億劫で....
その点、顎十郎はいいや。
探偵小説としてまず面白い。
次に、ゲラゲラ笑えるのがいい。
湯気を立てる庄兵衛老
その娘・花世
南番のライバル・藤浪
御用聞のひょろ松。。。
顎十との会話が、いちいち面白い。
都筑道夫の解説も示唆に富んでいて、読ませる。
※1970年と古い解説だがすばらしい。
下巻も買わねば -
購入済み
春の雪のように
80年前の戦争の中ですり潰された命を惜しんだ作品である。現実には有りえないような話だと思うが、春の雪のように溶けていった命を惜しんで余りあるような感情を、淡々とした語り口が際立たせている。世界中で戦火が耐えない知らせを聞いて、粛然たる想いである。