久生十蘭のレビュー一覧
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ネタバレしみじみと印象に残ったのは、太平洋戦争を描いた「風流旅情記」。
主人公の五流画家・三河万蔵は報道班員として、民間の徴用船に乗り込み、日本の勢力圏の南端にあるニューギニア・アルー諸島をめざす。
彼がこの島をめざすのは、鶏の卵を人肌で抱いて孵化させた兵士がいるから、という一風変わった理由のため。
乗り込んだ輸送船は鉄屑みたいな貧相な代物で、乗組員も曲者揃い。海底を自由に歩ける八重山の少年、鉄兜とふんどし一丁で敵の機銃掃射と戦う野武士みたいな男、盗賊の親玉みたいな船長。
この船のくだりだけで、もう十分おかしくて笑える。だいたい、主人公の名前自体が三河万歳と一字違いで、いかにも人を食っている。
島にた -
Posted by ブクログ
堪能しました!明治35年生まれの著者の短編、あらゆる味わいの十編、「絢爛豪華な傑作群」というに相応しい。(著者について詳しいことはこの文庫の年譜などご参照ください)。昔、教養文庫か何かのを読んだだけと記憶していた(それでも「久生十蘭」という名を忘れられなかったのだ)けれど、どれも懐かしい(最初の『生霊』は鏡花的)。『葡萄蔓の束』(アナトール・フランスをも思い出す……)や『藤九郎の島』(芝居の俊寛などを想起)を強烈に記憶しているように感じられるからには、そもそもいったい何を読んだのだったか、そのへんの記憶さえ曖昧。既視感ならぬ鮮明な既読感……まさか。国書刊行会の全集は手に入れられそうにないから(
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購入済み
春の雪のように
80年前の戦争の中ですり潰された命を惜しんだ作品である。現実には有りえないような話だと思うが、春の雪のように溶けていった命を惜しんで余りあるような感情を、淡々とした語り口が際立たせている。世界中で戦火が耐えない知らせを聞いて、粛然たる想いである。
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Posted by ブクログ
NHK大河ドラマ「べらぼう」にのっかっての復刊なのか、たまたま時期が重なったのかわからないが、オビに「いよゥ、有難山のほととぎす」とあり「べらぼうな事件」などと書いてあるので、やっぱりのっかったんだろうなあ(本文ではp56で上の台詞が発せられます)。この作品が書かれたのは一九四〇年。平賀源内が北町奉行所の御用聞伝兵衛とともに、江戸で起きる事件に挑んでいく(というより絡んでいく)。とぼけた語り口が楽しく、吹き出してしまうような登場人物たちのやりとりも小気味よいが、江戸に起こる惨劇や事件はいつもの十蘭らしく、陰惨ななかにも人生の悲しさがのぞく。全八話のうち七話と八話は伝兵衛の姪・お才というヒロイ