久生十蘭のレビュー一覧
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購入済み
名作は普遍です。
45年前からよんでます。
岩波文庫からか2冊も出ています。再評価の時は、特異の文学でした。今は普遍的名作になりました。色褪せることはありませんでした。短編の名手と言われますが、魔都、新説鉄仮面、とか良い長編小説もあります。 -
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初めて読む作家。
何かで紹介されていて興味を持ったか、購入して積読になっていた。
買っておいて良かったと思う。美文である。
初出はほとんどが終戦から5〜6年のもの。
まだ戦争の傷が癒えない時期で、戦争がらみの物語も多い。死が身近である。
悲劇的な話多く、伝奇的な要素もあるが、おどろおどろしさは感じられず、透明感がある。
描かれていることは無惨なのに、なぜか美しい。
『母子像』なども、戦時中サイパンでの日本人の悲劇はあったが、物語の中の本当の地獄はそこではないところにある。
『白雪姫』では、氷河のクレバスに落ちた女性の遺体が20年以上の歳月を経て生前のままの姿に凍り付いて出てくる。性悪な女だった -
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体言止めや四字熟語による独特な文章のリズム感がまず印象に残る。読みやすいとは思えないが、講談師の噺を聞いているような気分になってきて、癖になりそう。
文集は濃く、やたらと多い登場人物は残らず胡散臭く、次から次へと事件がおこり、新事実が後出しされ、筆者自らネタバレする。
連載物で読者を飽きさせないような仕掛けいうことなんだろうけど、まるで大音響のお祭りを至近距離で見させられているような感じでした。読み終えてなんだかヘトヘト。
この作品をどう捉えたらよいのか分かりませんが、おかしなエネルギーに満ちあふれた一冊でした。ここは確かに魔都でした。 -
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1937(昭和12)年-1956(昭和31)年に発表された作品を収めた短編小説集。
初めて読む久生十蘭作品で、私はこの作家を探偵小説の作者と思い込んでいてのだが、本書を読み始めてびっくりした。最初の3つの短編「骨仏」(1948)「生霊」(1941)「雲の小径」(1956)は、驚くべき純粋芸術としての結晶だったのだ。この作家、かなり推敲を重ね改稿するらしく、ごく短い簡潔な言葉の中に、実に芳醇な意味とニュアンスが込められており、その簡素な豊かさはたとえばシャルル・ケクランの音楽を思わせる。こんな見事な芸術小説を書く人だったのか!と愕然とした。なんだこの作家は!?
が、久生十蘭の作風は全ジャン -
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探偵小説であり、幻想小説であり、怪奇小説であり、冒険小説であり…ミステリでもある。
ルポタージュ風の語り口が独特。物語と世界観の妙を引き立てている。毎度、章のはじめに前回の説明があるのだが、作者の言い訳がましい解説やら補足は微笑ましい。
不可思議な謎はどこへ行く?事件の謎は、大きな拡がりをみせて、あらゆる方向へ…畳みきれないのね。この熱量はどこへ発散しようか笑
世界にどっぷり浸かり、味わう。に尽きる作品。そこには、ミステリの概念だけでは言い尽くせない、小説の楽しみと感動が詰まっている。
文体の読みにくさもあり、とても時間がかかってしまった。それだけ長くこの世界を堪能できたことは幸せとい -
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文芸・演劇評論家、川崎賢子セレクト、
主に戦後に発表された久生十蘭の短編選集。
作品のテーマ・雰囲気に合わせて
自在に文体を変えているが、どれも見事。
個人的には終戦直後の作、
どことなく内田百閒に似たテイストの
「黄泉から」「予言」など、
少し素っ気ない感じの話が特に好み。
何となくいい雰囲気を醸して上手いこと誤魔化す、
みたいな姑息な手を使わず、
鋭い観察眼と深い洞察力で人間の心に切り込み、
その断面を覗かせるような描き方が素晴らしい。
女の読者に、
登場する女性キャラクターを愛らしい、
愛おしいと思わせる手腕たるや……(茫然)。
三一書房『中井英夫作品集Ⅸ「時間」』自作解説にて
「他人 -
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1930年代から最晩年までの作品から選び出された8編。
改稿を繰り返し、彫琢を重ねたという名品揃い。
物語が面白いだけでなく、文章そのものが美しくて、
鳥肌や眩暈を催した。
故・中井英夫が終生、師と仰ぎ続けたという話にも頷ける。
以下、特に感銘を受けた作品について。
■「雲の小径」
飛行機での移動中、
奇妙に感傷的な気分に陥った男の心の揺らぎ、
その長くて短い旅。
泉鏡花と内田百閒を掛け合わせて
戦後風の味付けを施したかのような逸品。
■「湖畔」
不貞を働いた妻を手打ちにした華族の男が、
経緯を綴った手記を幼子に宛ててしたため、家を去る。
そこで明かされる真実とは。
リ -
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戦後に発表された久生十蘭短編集。
作者の目線は冷静であり、しかし熱狂も感じる。時代柄戦時中から戦後の悲惨さ、高揚、異様さがごく自然に当時の感覚で語られる。後の時代の研究者がいくら戦時中を考察しても敵わない生の感覚。
小説の筋構成も見事ながら、読んでいる時は本当に読書の愉しみを味わえる作家だ。
作品のいくつかは初めにコトの結末(誰が死ぬとか)を提示するので外連味たっぷり、まさに「つかみはばっちり」それから一連を振り返る構成で、終わりはバサッと幕を降ろす。それが余韻を残す場合もあれば、もう少し説明がほしかったなと思われるものもあり。
着物と食べ物の描写が秀逸かつテンポが良い。漢字の使い方が絢爛でさ -
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ネタバレしみじみと印象に残ったのは、太平洋戦争を描いた「風流旅情記」。
主人公の五流画家・三河万蔵は報道班員として、民間の徴用船に乗り込み、日本の勢力圏の南端にあるニューギニア・アルー諸島をめざす。
彼がこの島をめざすのは、鶏の卵を人肌で抱いて孵化させた兵士がいるから、という一風変わった理由のため。
乗り込んだ輸送船は鉄屑みたいな貧相な代物で、乗組員も曲者揃い。海底を自由に歩ける八重山の少年、鉄兜とふんどし一丁で敵の機銃掃射と戦う野武士みたいな男、盗賊の親玉みたいな船長。
この船のくだりだけで、もう十分おかしくて笑える。だいたい、主人公の名前自体が三河万歳と一字違いで、いかにも人を食っている。
島にた