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東西、古今の「事件」に材を採った、十蘭の透徹した「常識人」の眼力が光る傑作群。「犂氏の友情」「勝負」「悪の花束」「南極記」「爆風」「不滅の花」など。
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Posted by ブクログ
『彼を殺したが…』 ポートから落ちて溺れている友人を醒めた目で見ている。わざわざ殺す気もないけど、彼がいなければ自分のものだったはずのものを思うと助ける気にもならない。そんな薄情さが伝わったのか、彼は溺れ死にかけながらものすごい憎しみの眼差しを向けてくる。それを見ながらますます白々しい気分になってい...続きを読むく。 『犂(カラスキー)氏の友情』 パリ勅任官の山川石亭先生は下町に屯する人たちにやってもいない悪行自慢をしていたら、それを見込まれ強盗の片棒をかつぐことになってしまった。困った石亭先生に泣きつかれた甥の山川は、カラスキー氏に会いに行く。カラスキー氏は犂(からすき)の柄のように痩せたウクライナ出身の亡命ロシア人だ。そして彼が石亭先生を助けるために追い払ったのだと聞く。カラスキー氏はもうなくなった故郷の美しさを語る。 そのカラスキー氏はポール・ドゥメール大統領暗殺(1932年5月)犯人として新聞に載った。 人の気も知らずに石亭先生は野蛮だと散々避難する。甥はついつい石亭先生をからかって釘を差して起きたくなった。 『勝負』 パリに芸術留学する主人公、高須とその妻の四季子、軍人の有本の四人は、余暇に車で田舎道を走り論議を交わしたりセーヌ川でくつろいだりゆっくり昼寝をしたり、違法の闘鶏に興じたり。だが高須と有本は四季子を引っ張り合う三角形のようだ。第二次世界大戦が近づき有本と高須夫妻は日本に帰り、高須も招聘された。遅れて日本に戻った主人公は、高須、有本の両方から、いがみ合っているかに見える二人の本心を聞く。 『プランス事件』 1933年フランスで、贈賄事件絡みで詐欺師スタヴィスキーが不審死、審理官のプランス氏が行方不明になり列車轢死体として見つかった。 久生十蘭はこの事件に関心を寄せて他の小説の題材にもしているが、1949年に日本で酷似する下山事件が起きてさらに興味を掻き立てられたらしい。 こちらの短篇はドキュメンタリーで、プランス氏が行方不明から死体発見の経緯、いかにも怪しい証言が取り上げられ非常に不名誉な結果の自殺とされ、承認が死んだとか捜査担当が配置換えになったりとかで有耶無耶になっていった経緯。 『悪の花束』 これもドキュメンタリーなのかな。在職26年の間に多くの事件を解決したゴロン刑事(最初の職位)の回想録からむき出した、という形式。 考え抜かれた犯罪がちょっとしたことから明かされてしまった事件、他の人物(実在も架空も)を犯人に見せかけ逃げようとした事件、偶然が絡まってやたらに面倒に広範囲になってしまった事件などなど。 『海と人間の戦い』 ドキュメンタリー。 「最悪の」と言われる海難事故について。読んでいると「船長が経験ないし、自分のことしか考えていない」だとか「救命ボートに一部の人しか乗らなかった」だとか「救命ボートで殺し合いがおきた」だとか、海難事故は災害だけど死者の多さはまさに人災(-_-;) そして「戦争こそ最大の海難事故」とも。最後は唐突に終わります。 『南極記』 小型機で南極大陸見学をしていたアメリカ人大佐が、南緯80度付近で日章旗を見つけた。そこで彼は法螺吹き扱いされた日本人探検家が「80度超えたが諦めて戻ってきた」と言っていたという記録を思い出す。 当時南緯80度を超えたのが、シャクルトン、ジェームズ・クック、そして日本の探検家だけだったのに、あまりにもボロ装備、あまりにもさり気ない探検家の言葉は歴史から抹殺された。 南極の自然描写、欧米が競った南極探検の歴史を書き、そのなかで、白瀬矗をモデルにした日本人探検家を通してあまりにさり気ない功績を静かに称えるような短篇。 日章旗を見たアメリカ人大佐が(南緯80度というのはかなりの功績なのに)「こんなところでお恥ずかしい」と言っているように感じた、というのが日本人気質を表しているなあ。 『爆風』 南方の前哨基地から飛び立つ飛行士の日常。防空壕や鍾乳洞に隠れ、敵機の音で情勢を聞き分け、不眠不休で飛び続ける。満月の夜など何日間も眠らない。「この世に月ほど悪いものはないと思うようになる。」 実に冷静、実に写実的、主張を前に出してはいないが当時の空気がはっきりと感じられる。やっぱり久生十蘭はすごいなあ。 『公用方秘録二剣』 「犬」 徳川家茂の時代、フランス大使が日本に通商を求めてきた。宿泊地となった寺の警備の侍と、フランス大使の一人が西洋式のピストル決闘を行った! 事の起こりは、二番隊の青沼竜之介というぼーっとした感じの侍が、フランス大使のモーズ公爵(渾名:モスの守)が飼っている犬を撫でたら、モスの守があっからさまに「汚え!触るな!」と追い払ったのだ。さすがに怒った青沼は犬を連れて帰る。二番隊の仲間も大激怒。モスの守から詫びがなければ警備を引き上げる!といきり立つ。モスの守はモスの守で犬を返さないと許さん!と一歩も引かない。 さて、ピストルなんて初めて触る、ぽーっとした甘いもの好き動物好きの青沼と、フランス紳士モスの守の決闘の結末は如何に。 ここまで両方が怒ったのは、通商条約を求めるという立場の外国人があっからさまな日本人への敬意がまったくない態度を取ったということで、ここでひいてはならん!ということと、やはり警備を任せられたからにはの侍の意地。そしてフランス側にも「我ら正式な大使をこんなところに押し込め返事も寄越さん!」という意地がある。 決闘も「外交とは国と国との精神の戦いだ。」とモスの守にすれば「日本は勇武の国で侍は戦いに長けているという。自分だって勇気を持って彼らの勇気を見届ける」という覚悟を持った。 まさに一歩も引けない決闘となったんだけど、この相手の勇気を認めたうえでの戦いなのでさっぱりした読み心地。 「鷲:唐太モイガ御番屋一件」 日本とロシアの北蝦夷(樺太・唐太)の国境は、北緯50度のはずだった。だがロシアは「日本人住んでねーじゃん」と押し通してくる。いまさら慌てた幕府公用方は、二人の若い松前藩士の林俊作と山口多仲に「国境に小屋を建てて住め。露国兵が攻めてきても戦わず逃げろ。そして戻ってまた小屋を作って住み続けろ。」という命を下す。 林と山口は、たった二人で!なんと50年も!自給自足で!ロシア兵からの打ちこわし、焼き討ち、たまには捕縛にも無抵抗でしかし小屋を再建して住み続けたのだ!! 最初は届いた物資も数年で届かなくなり、明治政府からも忘れ去られ、時代が変わったことも全く知らず、二人で50年! 最後に明治政府の役人が訪ねてきた場面は読みながら頭に「うわーうわーうわーーーーー」と感嘆の声が上がった。 『不滅の花』 パリに留学した住職兼大学講師が、パリで客死した日本人の墓巡りをした。その中で「明治5年5月のパリ・コミューン市街戦で、薩摩藩密航学生がコミューン戦士とともに攻撃に加わり、死んだ」との記録にあたった。その男の墓をどうやら見つけたらしい。はたして彼はどのような人物なのかを探ろうとするんだが、あれこれ行き当たっちゃって…。 探偵みたい!
まちがいなく洋装ではなく和装の言葉。背筋をただして纏う着物のような。壮大な史実や有名な事件を背景に、そこにいた一介の人間の事情を描く。ノンフィクションからフィクションを編み出し卑金から金へ。まさに錬金術。渡仏した十蘭の目に映るフランスも味わえた。 「爆風」には、月齢と月相で敵の爆撃機の入来時期に検...続きを読む討をつけたとある。満月を間に前後五日間は襲来があるかもしれず警備隊は眠れないと。そこから月が憎らしくもなるのだが、月はこのように描写されている。 「癇性が白眼でギョロリと睨みつけるような、見るからに酷薄無情な月である」。 まいった。
初出は1927(昭和2)年から1954(昭和29)年。 数冊出ていたらしい河出文庫の久生十蘭短編集シリーズ、明示されていないが、一応各巻に編集テーマがあったのかもしれない。本書は事実に基づいて書かれた小説か、あるいは事実っぽく書かれた小説が中心ということなのだろうか。 後者の「事実っぽい」作品...続きを読む、事実と見分けがつかないほど巧みに書かれているし、相変わらず隙の無い文体・構成で、迫真の重さがある。語彙の豊富さは言うまでもなく、実に多様な領域に渡る博識も相当なもの。1編の短い小説を書くに当たってもすこぶる周到な資料収集を心がけた作家であったのかもしれない。 がっちりと堅牢で意味内容が濃密な十蘭の短編小説は、一つ一つに重みがあって、短編集を読み通すとおなかいっぱいになる。凄く高カロリーなこてこてで多様な料理が次々と出されてくる感じだ。だから正直言うと、短編集を読み通すと少々疲れる。 本書中では「公用方秘録二件」(1943《昭和18》年)が特に面白く、気に入った。
十蘭先生の不真面目に、僕はいつも真面目に付き合わされます。ある着眼点でまとまった新聞記事のようなネタに、詩的で遊んだ描写を入れる、十蘭先生のレトリックにはいつも書き方とは何か考えさせられまする。
新しくなつて 読みやすかったです。 どれも良かったですが、しいていえば、「勝負」ですか、絵で見るフランス風土紙を読んでいたので、景色を想像して、
河出文庫での十蘭短編集もとうとう5冊目になった。3冊ぐらいで打ち止めと思っていたので嬉しい。続編が出るのか気になる。本編でも、事実をもとにして、驚くべき物語を生み出す錬金術に驚かされる。大戦直前のフランス、戦争中の東京、南方の戦地を舞台とする魅力的な男女が繰り広げる刹那的な行動を描く「勝負」が気に入...続きを読むった。
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