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Posted by ブクログ
再び久生十蘭の短編集、今度は河出文庫で数冊に渡って出版されたセレクション。
終戦前の作品が8編収められている。本巻の最初の2編は1927(昭和2)年、1938(昭和13)年に発表されたものだが、あまり良くなかった。あれ? こんなものかな?と思ったが、楽しいユーモア小説「フランス感れたり」(1941《昭和16》年)から後のは、やはりどれも良い。ドタバタコメディのような「心理の谷」(1940《昭和15》年)、どんどん話が広がって迫力ある冒険小説となる「花賊魚」(1942《昭和17》年)、骨太な物語性が菊池寛を思わせるが、闊達極まりない人物の台詞(江戸っ子ことば?)の遊戯が独自の魅力を放つ「亜墨利加討」(1943《昭和18》年)など。
バラエティに富んだ諸編はそれぞれが確固とした小宇宙をしっかりと構築していて隙が無い。全く以て巧みな小説家であり、抜群の品質を誇る完成度の高い工芸品のような作品たちだ。
作風をどんどん変えるという点は「カメレオン」というよく使われる形容を想起させる。カメレオンと言えばピカソやストラヴィンスキー。しかしこの両者は、様々な様式を手がけつつも、それぞれにおいて作者独自の代えがたい体臭のようなものが作品にはにじみ出て、紛れもない個性がその都度刻印されているのが印象的なのだが、久生十蘭の場合はそのような強烈な体臭を感じさせない。十蘭自身が控えめで穏やか、常識的な人物であったからだろうか? 巧緻を極めた工芸的作品を通して、浮かび上がるものはあまり強烈なものでない。そこが何となく不満に感じている。
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