子どもから大人まで楽しめる、楽しい数学の物語。
少年、ロバートは普通の男の子。算数はちょっぴり苦手。というか、学校で算数のボッケル先生が出す計算問題が嫌いだ。
そんなロバートの夢の中に、毎夜毎夜、数の悪魔が現れるようになる。
悪魔はロバートに数のいろんな不思議を話してくれる。それはボッケル先生がロ
...続きを読むバートたちにやらせるような、うんざりするような計算問題とはちょっと違っていた。
1の不思議、0の神秘、素数、無理数、三角数、フィボナッチ数、パスカルの三角形、順列・組み合わせ、無限と収束、オイラーの公式、フラクタル。
さまざまなトピックを、ときにはキノコの森で、ときには南の島のヤシの木で、ときにはウサギがうじゃうじゃいる原っぱで、教えてくれる。
けれども相手は悪魔。そうそう親切なわけではない。
突っ慳貪なこともあれば、優しくないこともある。
ロバートは口答えしたり不平を言ったりしつつ、少しずつ数の不思議な世界に足を踏み入れていく。
おもしろいことに、著者は数学の専門家ではない。
著者・エンツェンスベルガーはドイツの作家、詩人、批評家である。本書を執筆するにあたって、数学者に話を聞いたり、著作を読んだりして、構想を練っている。
だからどちらかといえば、著者自身は数の悪魔よりもロバートに近いともいえるだろう。
数式をみっちりかっきりというよりは、感覚的な話に落とし込み、イメージとして掴みやすい作りになっている。
画家のベルナーによるポップな挿絵も楽しい。
個人的に一番おもしろかったのはパスカルの三角形の話だろうか。
数を積み木状に並べていくものだが、最上段に1を置き、その下の段の両側に1を置く。次の段からは左上と右上の数の和を置いていく(図1)。これは、何段にも大きくできる。
出来た三角形の中には、フィボナッチ数や三角数が潜んでいたり、ある数の倍数のみを塗りつぶすと模様が浮き出たりする。ある種の計算結果の表としても使える。
パスカルの名はついているが、実はもっと昔から知られていたものだという。
フィボナッチ数がオリジナルのウサギのつがいで説明されているのもおもしろいところだろう。
最終章で出てくる、さまざまな数の悪魔の大物たちの話も楽しい。
欲を言えば、参考文献の一覧が欲しいところだけれど、まずは数の世界の扉を開き、興味を持った人は自分で調べながら進めてほしいということだろうか。
まぁあまりかゆいところに手が届きすぎないのも悪魔っぽくていいのかもしれない。
読み終えてふと思う。
案内人はなぜ、天使ではなく悪魔なのだろうか。
数に魅入られるということは、ある意味、悪魔に取りつかれることなのか?
それとも、悪魔に魂を売り渡さないと、数の世界の秘密には迫れないのか?
ちょっと楽しい数学案内である。