古処誠二のレビュー一覧
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著者のビルマ戦線ものの一作。本作の舞台は捕虜収容所。イギリス人諜報将校の尋問を受ける若いポツダム少尉の記憶を通じて、インパール作戦撤収時の日本軍兵士とビルマの民間人との黙契が明らかにされていく、という物語。
見習士官として初めて戦場に立った北原の視点から、そのときは気づけなかった日本軍の下士官や兵士の「真の思い」が浮かび上がる仕掛けはさすがという感じだが、描かれる日本軍兵士が揃って理性的で思慮深い人物と描かれるのがとても気になる。北原を尋問する諜報将校がビルマの再植民地化を目論むイギリスの象徴的な人物として形象化されていることを考えると、本作では、著者の従来の作品以上に、日本―ビルマ―イギ -
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ネタバレここのところ、古処誠二さんの戦争小説の舞台はビルマが続いている。最新刊の舞台もビルマだが、一つとして同じ物語はない。部隊の数だけ人間模様があり、兵士の数だけ苦悩がある。本作はいわゆるインパール作戦の失敗後という局面を描く。
終戦後、英国の俘虜となって尋問を受ける、見習士官の北原。英国人大尉は言い放つ。ひとつでも偽りを述べたら私はあなたを殺す。質問の真意を慎重に探りつつ、記憶を呼び起こす北原。物語は回想形式で進む。あのとき何を考えていたのか?
主に後方支援を担っていたが、戦況の悪化により前線に放り込まれた北原。歩兵たちは、階級は上でも経験の浅い北原に、侮蔑を隠さない。北原が率いる部隊の -
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ネタバレ前作『いくさの底』は、ミステリーとしても高く評価された。古処誠二さんの新刊は、今回もミステリー的要素を含むが、軍隊・戦場における価値観や、それらに基づく現場の苦悩を、より深く抉っている点に注目したい。
北ビルマの戦いで、独歩患者は分進隊として切り離される。要するに、怪我人は厄介払いされる。丸江と戸湊伍長の2人も、そんな分進隊の生き残りであった。彼らは、イラワジ河の渡河点で、1人の奇妙な兵隊に出会った。
その兵隊と行動をともにしながら、1人になった経緯を尋ねる戸湊伍長。何やら疑いを持っているらしい。その兵隊の転進中の経験が、並行して語られる趣向である。経験の乏しい見習士官に、侮蔑を隠さ -
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ネタバレすごく衝撃を受ける本だった。戦地で戦った人たちのイメージは,やりたい放題ひどいことやった(ごめんなさい)→『日本軍兵士』のイメージが加わる,まで来てたのだけど,この本みたいな発想は全くなかった。実際はそうだったのでは,と思う。
とはいえ私には難しすぎて,1回目は正直さっぱり分からず(大枠だけは分かって衝撃を受ける限度),2回目読んで大体は理解できたけど理解できていないところ複数残ってるな,という感じ。古処誠二はなぜ直木賞をとっていないのかと書かれた記事を読んだけど,もう少し読んで分かる人の対象を広げてくれたらな有り難いです,と思う。 -
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このミス2018年版5位。第2次世界大戦初期、日本がビルマに進行した際の駐屯先の村での殺人事件。同行した通訳の視点での状況描写で進行していく。一般的にはなじみのない時代背景や登場人物の置かれた状況についての俯瞰的な説明が一切なく、いきなり登場人物視点での描写が始まるため、とても分かりにくい。途中までは人間関係の理解も困難で少ない分量だけどなかなか進まなかった。後半は徐々に事実が明らかになっていくのがとても心地よく引き込まれる。事件の構想や解明していく展開などすごくよくできてるし、真相を明らかにしていく際の心理的な駆け引きがサイコパスもののような臨場感があって一気に進んだ。前半にもうちょっと人間
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これぞまさに古処さんにしか書き得ない戦争小説×ミステリ。改めて古処さんの戦争小説の凄みを感じた作品です。
舞台は太平洋戦争下のビルマの小さな村。戦争小説といっても、この小説では大きな戦闘もなく、殺人事件こそは起こるものの特攻や玉砕といった、戦火の悲劇が描かれるわけでもなく、非情に地味な展開が続きます。
古処さんの文体も、感情や修飾的な著述を排した静かなものなので、前半は退屈に感じるところも多いかもしれません。
事件が起こってからが俄然面白くなってきたかなあ。戦時下、ビルマ、この状況ならではの犯人の見当と推理の仕方がかなりロジカル。
そこに、被害者の中将の過去の行動の不審な点も相まって、どん -
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戦争小説を描き続けている古処誠二の異色の家族小説。家族小説といっても、一家の首長の祖父の戦争体験が描かれるのだが。
ビルマ戦の帰還兵である負けず嫌いの祖父から度々、戦争体験を聞かされ、鉄拳制裁を振るわれる主人公の高校生。ある日、そんな頑強な祖父が入院することになり、ベッドの上で眠りにつく祖父が、普段の祖父から信じられないうわごとを言う…
祖父の語る『死んでも負けない』の意味とは…
頑固一徹で、何処か憎めない祖父に翻弄される主人公の高校生と父親の姿が暖かみを持って、ユーモラスに描かれる。古処誠二と言えば、重苦しい寓話的な戦争小説を多く描いているが、本作はそれらとは全く異なる、著者の新境地と -
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太平洋戦争下の兵士たちの姿を描いた作品を9編収録した短編集。
古処さんの戦争小説は単なる戦争下での悲劇を描いた反戦、厭戦の小説ではないことが大きな特徴であるように思います。
もちろん作中では飢えやマラリア、死体や傷病兵など戦争の悲惨さを描いた表現も出てくるのですが、決してそれらを感傷的に描かずあくまで冷徹に、戦争の中の日常として古処さんは描くのです。
そして古処さんが問いかけるのは、そうした極限状況の中での兵士たちの姿から浮かび上がる人間性です。不信や絶望が混沌と渦巻く中でそれぞれの状況に置かれた兵士たちは何を思うのか。
特に印象的だった短編は「銃後からの手紙」「蜘蛛の糸」「 -
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古処視点というか、古処節というか。間違いなくこの人にしか書けない作品です。
第二次世界大戦下の日本軍の話なのに、一般に想像されがちな戦争のショッキングな部分や悲劇の部分はそぎ取り、徹底して冷徹に、日本軍兵士と海外の現地民との日常の交流とトラブルを描く。
感情の機微や登場人物の心情から一定の距離を取る筆勢は、もはや職人感すら漂っているように思います。何も語らず、ただ一心に自分の作品に向かう職人のような。
作品の舞台となるのは第二次世界大戦下のビルマ。
現地の労務者をまとめる西隈を語り手に、ビルマの日々が描かれる連作短編集となっています。
戦時下、日本軍兵士、軍役、さらにはビルマの自然、原住