古処誠二のレビュー一覧

  • 敵前の森で

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    ネタバレ

    第2次世界大戦の末期、日本の戦況がかなり悪くなってからインドとビルマの国境で行われたインパール作戦での話。
    一人の若い日本人の少尉が、悪い戦況の中で次々に下さなければいけない決断についてや、対戦相手のイギリス軍との駆け引き、自分より年上の部下との関係などについて、悩んだり、後悔したりした当時の状況を、戦後、捕虜になり、呼び出しを受けたイギリス軍の語学将校からの質問への受け答えの中で明らかにしていく。
    この本を借りた理由は忘れてしまったが、このような本と巡り合うことができて良かった。

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    2024年02月26日
  • 敵前の森で

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     著者のビルマ戦線ものの一作。本作の舞台は捕虜収容所。イギリス人諜報将校の尋問を受ける若いポツダム少尉の記憶を通じて、インパール作戦撤収時の日本軍兵士とビルマの民間人との黙契が明らかにされていく、という物語。
     見習士官として初めて戦場に立った北原の視点から、そのときは気づけなかった日本軍の下士官や兵士の「真の思い」が浮かび上がる仕掛けはさすがという感じだが、描かれる日本軍兵士が揃って理性的で思慮深い人物と描かれるのがとても気になる。北原を尋問する諜報将校がビルマの再植民地化を目論むイギリスの象徴的な人物として形象化されていることを考えると、本作では、著者の従来の作品以上に、日本―ビルマ―イギ

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    2023年07月08日
  • 敵前の森で

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    ネタバレ

     ここのところ、古処誠二さんの戦争小説の舞台はビルマが続いている。最新刊の舞台もビルマだが、一つとして同じ物語はない。部隊の数だけ人間模様があり、兵士の数だけ苦悩がある。本作はいわゆるインパール作戦の失敗後という局面を描く。

     終戦後、英国の俘虜となって尋問を受ける、見習士官の北原。英国人大尉は言い放つ。ひとつでも偽りを述べたら私はあなたを殺す。質問の真意を慎重に探りつつ、記憶を呼び起こす北原。物語は回想形式で進む。あのとき何を考えていたのか?

     主に後方支援を担っていたが、戦況の悪化により前線に放り込まれた北原。歩兵たちは、階級は上でも経験の浅い北原に、侮蔑を隠さない。北原が率いる部隊の

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    2023年05月19日
  • 生き残り

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    ネタバレ

     前作『いくさの底』は、ミステリーとしても高く評価された。古処誠二さんの新刊は、今回もミステリー的要素を含むが、軍隊・戦場における価値観や、それらに基づく現場の苦悩を、より深く抉っている点に注目したい。

     北ビルマの戦いで、独歩患者は分進隊として切り離される。要するに、怪我人は厄介払いされる。丸江と戸湊伍長の2人も、そんな分進隊の生き残りであった。彼らは、イラワジ河の渡河点で、1人の奇妙な兵隊に出会った。

     その兵隊と行動をともにしながら、1人になった経緯を尋ねる戸湊伍長。何やら疑いを持っているらしい。その兵隊の転進中の経験が、並行して語られる趣向である。経験の乏しい見習士官に、侮蔑を隠さ

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    2018年08月09日
  • 線

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    太平洋戦争南方ジャングル地獄物
    短編集で読みやすい
    調べたとこと作風がこんな感じのため直木賞ノミネートのみの受賞はできていない人らしい。ベストセラーはしないけど面白かったので他の作品も読みたい

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    2024年10月07日
  • 敵前の森で

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    ネタバレ

    すごく衝撃を受ける本だった。戦地で戦った人たちのイメージは,やりたい放題ひどいことやった(ごめんなさい)→『日本軍兵士』のイメージが加わる,まで来てたのだけど,この本みたいな発想は全くなかった。実際はそうだったのでは,と思う。
    とはいえ私には難しすぎて,1回目は正直さっぱり分からず(大枠だけは分かって衝撃を受ける限度),2回目読んで大体は理解できたけど理解できていないところ複数残ってるな,という感じ。古処誠二はなぜ直木賞をとっていないのかと書かれた記事を読んだけど,もう少し読んで分かる人の対象を広げてくれたらな有り難いです,と思う。

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    2023年10月03日
  • ビルマに見た夢

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    【P179】
    「辛抱を美徳と考え、休むことを罪悪のように考え、そうして体を壊すまで働いてしまう。これほど愚かしいことはありません」

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    2023年08月02日
  • 中尉

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    割と終盤までは掴みどころのない淡々とした戦争小説という感じだったが、最後のオチで中尉やビルマ人の心に触れ、これまでの灰色の物語がほんのりと色づいたように感じた。
    戦争のリアルな表現もすごい。インパール作戦について少ししか触れられていないが、ちゃんと知りたいと思った。

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    2023年04月20日
  • いくさの底

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    太平洋戦争でのビルマを舞台にした戦争小説のようなサスペンスもので、まさかのオチがあり普通に面白かった。主人公が通訳という立場なのも、中立的視点となって良かった。
    また、ビルマ人・日本人の人々の人間性がそれぞれのキャラに表れていて、日本人としては共感とともに反省しないといけない一面があるなと、、

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    2023年04月11日
  • ビルマに見た夢

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    文化人類学小説?という聞いたことない紹介文だったが、かなり面白かった。
    インパール作戦直前期のビルマにおける戦争小説だが、兵站任務の細かいところが書かれており目新しかった。また、日本軍と住民がかなり密にコミュニケーションをとっていて、もちろんフィクションではあろうけど一定の心の繋がりがあったかと思うと戦争の見方も変わってくる。ビルマ人の信仰の厚さ、国民性が伝わってきたのもいいなと思った。

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    2023年03月12日
  • いくさの底

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    初めて知った作家だったが面白かった。単なる推理小説ではなく、単なる戦争小説でもなく、そして余分な修飾語もなく全体的にシンプルで読み易い。けど先が読めてしまうような安直なストーリー展開ではない。というわけで総じて面白かった。

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    2021年11月06日
  • いくさの底

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    このミス2018年版5位。第2次世界大戦初期、日本がビルマに進行した際の駐屯先の村での殺人事件。同行した通訳の視点での状況描写で進行していく。一般的にはなじみのない時代背景や登場人物の置かれた状況についての俯瞰的な説明が一切なく、いきなり登場人物視点での描写が始まるため、とても分かりにくい。途中までは人間関係の理解も困難で少ない分量だけどなかなか進まなかった。後半は徐々に事実が明らかになっていくのがとても心地よく引き込まれる。事件の構想や解明していく展開などすごくよくできてるし、真相を明らかにしていく際の心理的な駆け引きがサイコパスもののような臨場感があって一気に進んだ。前半にもうちょっと人間

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    2020年05月01日
  • いくさの底

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    これぞまさに古処さんにしか書き得ない戦争小説×ミステリ。改めて古処さんの戦争小説の凄みを感じた作品です。

    舞台は太平洋戦争下のビルマの小さな村。戦争小説といっても、この小説では大きな戦闘もなく、殺人事件こそは起こるものの特攻や玉砕といった、戦火の悲劇が描かれるわけでもなく、非情に地味な展開が続きます。
    古処さんの文体も、感情や修飾的な著述を排した静かなものなので、前半は退屈に感じるところも多いかもしれません。

    事件が起こってからが俄然面白くなってきたかなあ。戦時下、ビルマ、この状況ならではの犯人の見当と推理の仕方がかなりロジカル。
    そこに、被害者の中将の過去の行動の不審な点も相まって、どん

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    2020年02月10日
  • 死んでも負けない

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    戦争小説を描き続けている古処誠二の異色の家族小説。家族小説といっても、一家の首長の祖父の戦争体験が描かれるのだが。

    ビルマ戦の帰還兵である負けず嫌いの祖父から度々、戦争体験を聞かされ、鉄拳制裁を振るわれる主人公の高校生。ある日、そんな頑強な祖父が入院することになり、ベッドの上で眠りにつく祖父が、普段の祖父から信じられないうわごとを言う…

    祖父の語る『死んでも負けない』の意味とは…

    頑固一徹で、何処か憎めない祖父に翻弄される主人公の高校生と父親の姿が暖かみを持って、ユーモラスに描かれる。古処誠二と言えば、重苦しい寓話的な戦争小説を多く描いているが、本作はそれらとは全く異なる、著者の新境地と

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    2015年09月14日
  • 線

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     太平洋戦争下の兵士たちの姿を描いた作品を9編収録した短編集。

     古処さんの戦争小説は単なる戦争下での悲劇を描いた反戦、厭戦の小説ではないことが大きな特徴であるように思います。

     もちろん作中では飢えやマラリア、死体や傷病兵など戦争の悲惨さを描いた表現も出てくるのですが、決してそれらを感傷的に描かずあくまで冷徹に、戦争の中の日常として古処さんは描くのです。

     そして古処さんが問いかけるのは、そうした極限状況の中での兵士たちの姿から浮かび上がる人間性です。不信や絶望が混沌と渦巻く中でそれぞれの状況に置かれた兵士たちは何を思うのか。

     特に印象的だった短編は「銃後からの手紙」「蜘蛛の糸」「

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    2015年08月23日
  • 線

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    戦後生まれの著者がどうしてここまでリアリティのある描写ができるのかと驚きます。
    ページ数はさほど多くありませんが、一話一話に読み応えがあります。
    「たてがみ」「お守り」は涙せずにはいられません。

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    2012年10月19日
  • いくさの底

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    なぜこの人物は殺されたのか、なぜ犯人は殺さなくてはならなかったのか。戦時で侵攻中の緩衝地帯における駐留軍という特殊な環境下でしか成り立たない殺害に至るロジックがお見事。

    必要最小限の描写で複雑な人物関係を語れているのも驚異的。ただ、このボリュームは読み易い一方で、ちょっとあっさりし過ぎるようにも思えた。真相の悲劇性が今ひとつ際立ってくれていないというか。

    とはいえドラマティックさが排除されていることで、戦争というものの無情さと滑稽さが伝わってくるという側面もあり、一読の価値ある作品なのは確かかと。

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    2025年07月28日
  • 敵前の森で

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    戦争ものは好きでは無い。各国がそれぞれの事情で戦っているためにどちらが正しいということが無いためだ。そんな戦争ものを数多く書かれている著者の最新作。第2次世界大戦のビルマを舞台に最前線で起こった現地人の逃走事件を発端に何故起こったのかが、主人公の北原が振り返るという形式で語られる。現代で考えうる最悪の地獄での人間心理には舌を巻く筆力。約200ページちょっとながらずっと緊張感が続いていく。真相は目新しいものではないかと思うが極限状態での日本人らしさに国民性を見た気がする。このジャンルは苦手だが唸る内容。

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    2023年09月04日
  • 敵前の森で

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    星4ではなく星3なのは私がインパール作戦諸々、よく理解してない私側の問題なので凄く迷ったのですが、正直に星つけました。
    古処さんというと私の中ではいつまでも「UNKNOWN」の印象が強くて「少年たちの密室」もとても良かった印象。段々読み手側の胆力が求められる作品傾向になった気がして最近は読んでなかったのですが、やっばり好きだなぁと思いました。

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    2023年07月15日
  • ビルマに見た夢

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    古処視点というか、古処節というか。間違いなくこの人にしか書けない作品です。

    第二次世界大戦下の日本軍の話なのに、一般に想像されがちな戦争のショッキングな部分や悲劇の部分はそぎ取り、徹底して冷徹に、日本軍兵士と海外の現地民との日常の交流とトラブルを描く。
    感情の機微や登場人物の心情から一定の距離を取る筆勢は、もはや職人感すら漂っているように思います。何も語らず、ただ一心に自分の作品に向かう職人のような。

    作品の舞台となるのは第二次世界大戦下のビルマ。
    現地の労務者をまとめる西隈を語り手に、ビルマの日々が描かれる連作短編集となっています。

    戦時下、日本軍兵士、軍役、さらにはビルマの自然、原住

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    2023年03月16日