元奨励会員で、小説家である著者が、奨励会について書いた本。2018年発刊。
小学生の息子が将棋にハマっているので興味があり手にとってみた。
糸谷先生が奨励会の級位時代は負けるとその場で泣き勝つと鼻歌を歌う人だった(今では将棋界で一二の人格者らしいです)とか、豊島先生は本当に「とよぴー」って呼ばれて
...続きを読むるんだなとか、ファン目線でおもしろいエピソードがいくつかあって嬉しかった。
また、元奨励会員として奨励会にいる友人に「若い子に頭下げて教えをこうたほうがいい」とアドバイスしてしまう、という話からは、永瀬先生がだいぶ年下の藤井聡太先生にVSをお願いしたという話を思い出した。やはりあれってとても珍しいことなんですね。
また、私が常々疑問に思っていた「女流棋士は美人が多いのに、棋士は見た目気にしなさすぎな件」についても、この本を読んで納得した。
私のようなライトファンが目にする(テレビに出てる)女流棋士の方々は、美貌や話術などのタレント性で起用されてることが多い…ということのようだ。女流棋士制度は棋士制度とは違い、実力も大きく違うとのこと。
将棋ファン(超ライトファン)としては、現役棋士の話もありつつ、けっこう楽しく読ました。
そして、普段目にするトップ棋士たちって、すごい雲の上の人たちなんだってことが、改めてわかった。
著者は、必ず勝てるだろう相手のことを「カモ」と本作で表現している。
きっとそれは奨励会で一般的に使われている表現なのでしょう。
しかし私達が目にするトップ棋士達からは、そんな下品な言葉を使うとは到底思えない、どんな相手でも礼儀を尽くし、舐めずに、勝っても驕らない人達に見える。どちらが本当の姿なのかは分からないけど、少なくとも将棋盤と相手に向き合っている時の真剣な姿は、本当なのだと私は思う。だからトップ棋士達はすごいのだ。
この本のコンセプトである、プロを目指したい子やその親に向けて、という点では、ご自身の経験を語ることで、厳しい現実を見せてもらったと思います。
他方で、奨励会に入って将棋一筋の人たちしかいないのだろうと思っていたら、パチスロや麻雀にハマるという堕落した大学生みたいな人もいるらしい。私は職業柄アンチギャンブルなので、我が子が奨励会でパチンコスロット覚えてそっちに夢中になったら嫌だなぁ、最悪だな。と思った。
この本の中で、著者はプロ棋士という職業は2018年の時点で子どもに職業としてお勧めできる、と結論づけているものの、この本全体を読む限り、本当にそう思ってるのかな?という疑問を感じました。
藤井聡太さんのような才能を発掘するためには将棋人口の裾野を広げる必要は大いにあるのは分かるし、将棋指導者の視点からは、より幼い子に将棋を初めて欲しいだろう。
だけど、奨励会員ですら、著者のように「プロを目指しきれない人」も多数いるのが現実(プライドから年下の子に教えを請えない、パチンコスロットにハマるなどして、ガムシャラに勉強するわけではない層)なわけで、そういう子が今後も生まれると知っていて、安易にお勧めできるのだろうか。
んー…、だから「プロになれるなら」お勧め、と言ってるのかな。ただそれは元奨励会員でなくてもファンとして棋士達を見てればわかる意見なので、やはり元奨励会員として、プロを目指すプロセス込みでお勧めできるのか、ということを知りたかったな。
この著者は、奨励会、国立大経済学部、金融機関勤務、小説家・・・という経歴だから、この職業の中だったらプロになれるなら棋士がおすすめなのかもしれない。
しかし、週に数回しか対局しなくて良いからコスパ良いということがおすすめ理由であれば、もっと楽になれて、それほど命削らなくても糧を得られる職業はある(たとえば弁護士とか。プロ棋士になるより、格段に楽になれる。)。
因みにこの作者は、もし戻れてもプロ棋士は目指さないらしい。私には、それが答えのような気がする。
この著者には、狭き世界に入る実力はあるが、その先を続けられない、いう特徴があるように思った。
なにごとも、努力し続けられるかどうか。将棋においては特にそれが顕著なのだろう。そう考えると、一度入り込んでしまえばそんなに努力しなくても続けていける業界、仕事って世の中にたくさんあるよなぁ。