木下眞穂のレビュー一覧
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王家とカトリック教会が権勢を振るう18世紀のポルトガルを舞台に、権力に翻弄される人々を描く物語。本書の魅力はなんといってもその臨場感にある。読み手は冒頭からリスボンの雑踏と喧騒に放り込まれ、主人公たち同様明日もわからぬまま、時に天上の音楽に包まれ時に血と汗と泥にまみれる。
心に残るのは主人公ふたりが神父とともに飛行機械を作る日々だ。かたわらでは宮廷音楽家がチェンバロを弾いている。身分も立場も違うこの4人が風変わりな友情と信頼で結ばれるひとときは、ほのかな光を放って物語全体を照らしているかのようだ。異端審問がそこに暗い影を落とすが、その影もまた光を引き立てている。まるでラ・トゥールの絵画のように。
語りがたいへんおもしろく、とくに権力側に対する辛辣さは時に笑ってしまうほど。ただそうなると現在もカトリック国であるポルトガルでどのような立ち位置になるのか気になるところ‥と思いながら読んだが、あとがきで丁寧に解説されていた。満足。 -
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この本は物語ではなく、「戦争は〜」という一文ずつで淡々と語られる作品だった。けれどその一つひとつが胸に迫り、どれも確かに「戦争の顔」を映していると感じた。戦争にはいろんな側面があるのだと、読むたびに考えさせられる。
絵はシンプルで色も限られているのに、不気味さや緊張感がにじみ出ていて、言葉の重みとともに強い印象を残す。文章が短く少ないからこそ、読み手に「あなたはどう思う?」と問いかけてくるようでもあった。
私は戦争を知らない世代だ。けれど、今の平和は過去の痛みや犠牲の上に成り立っているということを、この本を通じて改めて考えさせられた。戦争を体験した人たちの声が届きにくくなってきている今、こうした作品から「戦争がなぜいけないのか」を知り、問い続けることが必要だと思う。
対象年齢は中学生以上とされているけれど、むしろ小学生の子どもたちにも、大人と一緒に読む機会があっていいと思う。すべてを理解する必要はない。ただ「怖い」「こんなことは起きてほしくない」と思えることが、その子の中に“戦争に対する感覚”として根づいていくのではないか。読むときに大人がそばにいて、感情や疑問に寄り添えば、それはきっと意味のある読書体験になる。
戦争がなぜ起きるのか、どうしてなくならないのか。その背景は国や宗教、教育、時代によってまるで違う。でも、どんな理由があったとしても、「戦争をして得るものなんて本当は何もない」と、この本は静かに、それでいて確かに伝えてくれる。
これは「読んで終わり」ではなく、「読んで考える」ための一冊だ。どの世代にも読んでほしい、そして語り合ってほしい。そう感じた。 -
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ネタバレ最初は絵だけなので、一瞬イラスト集?と思ってしまった。
けど、この絵だけのページがじわじわとくる。
イラストは色が少なくて不穏な空気を描いている。そこに添えられる文章は「戦争は、×××」と続いていく。
これが全て頷けてしまうのだから怖い。
『戦争は、物語を語れたことがない。』『戦争は、鋼と影の子どもたちを生み出す。』
私がいいなと思ったのはこの二つ。そこについているイラストも本を燃やししていたり、工場で人が作られていたりとゾッとする感じがする。
全てがリアルすぎる。
戦争の現実しか書かれてないので、おそらく幼児向けや小学校低学年向けではない。高学年ぐらいから読めるのかなと思った。
この絵本は、不穏ではあるけど人の身体が千切れたり血まみれになるような絵はないので子供にも安心して見せることができると思う。ただ、虫(クモやムカデ、蛇など)に見えるイラストはあるのでそういうものが苦手な人は注意。
戦争をまっすぐに文章にしてる本は、初めて見た気がする。
読んでよかった。個人的には大人にお勧めの絵本。 -
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岩波「図書」8月号に訳者木下眞穂さんの解説が載っていて、紐解いた。ポルトガルの絵本。
「戦争は、」に続く幾つかの短詩と、禍々しいイメージ絵で構成される。鼠色と褐色しか出てこない。
先ずはこの詩篇にドキッとした。
戦争は、日常をずたずたにする。
「進行していますね」と耳元でささやかれる病気のように。
←あゝ、私にはこの体験はないけど、かつての父親を見ていて、正に彼の心の中に「戦争」が進行していたのだと、まざまざとイメージを持つことができた。
「もののけ姫」の猪神がたたり神に侵されてゆくときの黒い蛇みたいなものが、大陸の林の間をずっと進んでいき、群れをなし、禍々しい鳥の導きにより、街の中の大きなビルの一室の1人の男に取り憑く冒頭。
そのあとの幾つもの詩句は、
文・ジョルジェ氏の経験から作られたものには違いない。けれども、今はウクライナやガザにもほとんど当てはまる(作られたのは2018年)のが恐ろしい。
文と絵は、ポルトガルのレトリア父子によって作られた。ポルトガルは1926年から1974年まで、48年間独裁政権下にあった。ジョルジェは無血のカーネーション革命を支えたレジスタンスだったらしい。絵は静かに始まり、やがて次々とカタストロフが進んでゆく。
司令官(?)の胸元を這い回る蜘蛛や百足や無数の虫蟲。彼が見下ろす作戦地図にも蟲が這い回り、やがて「戦争は、凶悪な顔を幾つも持つ。」として、表紙にあるような1つの顔を被って焚書坑儒を為し、マイクに向かっている。「戦争は、すべてを焼きつくす 栄光の夢を見る」と詩句は叫ぶ。
「戦争は、廃墟の町を支配するのが好きだ。」
それはもうまるで、ウクライナやガザのようだ。ーー見かけだけじゃない。こんな心を侵していく風景をも言葉にする。
「戦争は、憎しみ、野心、恨みを糧とする。」
「戦争は、何も知らない人たちの柔らかな夢に入り込む。」
「戦争は、鋼と影の子どもたちを生み出す。」
戦争は、人類が産んだ鬼子だとわたしは思う。 -
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あの『アルケミスト』のコエーリョが?と、ずっと気になっていた本は、その名も『不倫』。
出版当初に賛否両論の的となったこのタイトルから、内容も大きく外れはしない。
しかし、主題は恋愛などではない。
曰く「世界でも有数の安全な国」に暮らすリンダは、ジャーナリストとして有力新聞社に所属。
聡明な彼女には二人の子供と、国内でも指折りの資産家である夫が居る。
夫は結婚から十年が経過した今でもリンダを情熱的に愛しており、二人は常に世間の羨望を集めていた。
しかしリンダは、とあるインタビュイー(解説によるとコエーリョ自身が投影されている)の一言から、現状を疑問視し始める。
日々、増していく倦怠感。
そんな折に再会したティーン時代の恋人は、彼女の衝動を刺激してー。
女性特有の閉塞感が描かれた本作には、同性として、先行きの微かな不安を見出してしまう。
一見『アルケミスト』と掛け離れている様に思えて、随所に散りばめられたメタファーは共通していた。
スピリチュアルな要素も又、然り。
一つの不倫のドラマは終わりを迎えたが、そこから尚、彼女の問わず語りは続く。
それは決して終焉ではなく、確かに拓かれた末に幕を閉じた。 -
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ネタバレミリアは激痛に耐えて夜中の街を彷徨っていた。10代で統合失調症に罹り、担当医のテオドールと結婚し離婚。
登場人物全員、ミリアの子である12歳のカースですらどこか不穏でおかしい。散漫に見せかけた物語の展開の中でそこかしこに事件へのトリガーが散りばめられていた。
本作は彷徨感の強い作品だが、殺人の原因と結果というところは的を射ているのではと感じた。フィクションでは殺人の原因、理由は複雑に描かれたりするが、現実では人は人をある日突然あっさりと殺してしまうものだ
この小説がポルトガルでベストセラーということでポルトガルという国から受ける印象が変わりました。
精神病院と性行為、というとどうしても村上春樹『ノルウェイの森』を思い出します。かなり昔にさっと読んだだけですが…。