ヴィクトリア朝の香り残る、1910年代のロンドン。
波止場に荷揚げされた樽が、たまたまぶつかって、ちょっと破損してしまった。
係員が気にして調べると、破損の隙間から、金貨がじゃらじゃらと...そして、謎の美女の死体が入っていた...
捜査が始まった途端に、謎の男が樽を持ち去る。
追跡。樽を運搬した
...続きを読む荷車が、ペンキを塗り直されていた。
ロンドン警視庁の執念の捜査でたどり着いた荷受人は、何も事情を知らなかった。その上、問題の樽がまたしても奪われて行方不明...
七転八倒の末、確保した樽。とうとう、開封される樽。中の死体は、やはり妙齢の女性。
樽の発送元は、パリ。
舞台は花の都パリへ...。
死体の女性は裕福な商人の夫人。
容疑者は、その夫と、愛人の男。
状況証拠は、全て、「愛人の男の犯行」を指している。逮捕。追及。このままでは有罪になる。
だが、捜査員の心象では、怪しいのは夫。
夫の完璧なアリバイを崩せるのか?
20世紀初頭のロンドン、パリ、ブリュッセルを舞台に、当時最先端の鉄道や貨物船の輸送網のダイヤをにらみながらの、ノンストップのミステリーが疾走する...
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海外ミステリーの古典です。
書かれたのが1920年だそうで。
ホームズ物の最終短編集、「シャーロック・ホームズの事件簿」が1927年ですから、大まかに言うと同時代。
そして、ホームズ物に比べれば、なんというか、松本清張さんのノリに近い、そういう意味で実に現代的なミステリー。
謎めいた樽を追いかける序盤戦。
パリに舞台を移して、死体の身元と事情が判明する中盤戦。
そして、「間違えられた男」が逮捕され、無罪を証明するための終盤戦。
ロンドンの刑事→パリの刑事→ロンドンの弁護士→ロンドンの私立探偵、と、捜査主体=主人公、が移り変わっていくのも、変化球で魅力的。
なにより、特に前半のテンポの良さ。謎から謎の高速駅伝リレーみたいな気持ちよさ。
その辺が、いちばんの魅力でした。
その一方で、犯罪の背景に必ずある、犯人側の切羽詰まった心情表現みたいなものとか、
大ラスのアリバイ崩しの鮮やかさみたいなもの、
そのあたりには若干の不満は残ります。
あと、全てが分かった後で考えると、「えと、あそこのトリックって、どういう意味があったの?」みたいものが若干(笑)。
それも含めて、まあ、1920年、この手のミステリの先駆けですから、そこはご愛嬌。
ただ、そこを差し引いても魅力あるミステリでした。
海外ミステリー好きな方は、是非。