【感想・ネタバレ】樽のレビュー

あらすじ

埠頭で荷揚げ中に落下事故が起こり、珍しい形状の異様に重い樽が破損した。樽はパリ発ロンドン行き、中身は「彫像」とある。こぼれたおが屑に交じって金貨が数枚見つかったので割れ目を広げたところ、とんでもないものが入っていた。荷の受取人と海運会社間の駆け引きを経て樽はスコットランドヤードの手に渡り、中から若い女性の絞殺死体が……。次々に判明する事実は謎に満ち、事件はめまぐるしい展開を見せつつ混迷の度を増していく。真相究明の担い手もまた英仏警察官から弁護士、私立探偵に移り緊迫の終局へ向かう。クロフツ渾身の処女作にして探偵小説史にその名を刻んだ大傑作。

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

 とっても楽しく読みました。江戸川乱歩さんのおすすめだからではなく、津村記久子さん『やりなおし世界文学』なんです。
 ミステリの古典。出版は1920年、同年アガサ・クリスティーさんも『スタイルズ荘の怪事件』でデビューされています。日本なら大正時代。

 この作品は、探偵小説・アリバイが特徴とどこかに書いてありました。
 作品は3つのパートに分かれています。あらすじをたどると、
1.事件の発端、パリからロンドンに貨物船で着いた「樽」が荷揚げ中に落下一部破損し、金貨ポロリ・人間の「手」がチラ見え、その後行方不明、警察がようやっと発見し、中身が明らかになります。
2.警察が、ロンドンと発送元のパリで捜査をすすめます。スコットランドヤードとパリ警視庁の合同捜査!
3.弁護士と、弁護士が雇った私立探偵が調査します。

 つまり「探偵」といっても第1,2部が警察、第3部が弁護士と私立探偵、と別々なんです。

 おもしろさは2つかな?
 ひとつは「樽」が行ったり来たり!でどうなってるの?ほんとによくできていて、わたしはまったくわかりませんでした。途中、時系列でまとめてあるんですけどね・・・
 もうひとつは「アリバイ」です。こちらはぼんやりと予想できました。とにかくアリバイありきで、パリとロンドンをまたいだ大陸間のアリバイ合戦、楽しかったです。

 本作はスローペースで有名みたいです。第1部はたしかにスロー、「樽」がどっか行って、なかなか見つからないし。でも第2部、第3部とペースはどんどん上がりますから問題なし。
 読み終わって感じるのは、物語のはじめのスローペースは、作者のクロフツさんの計算だと感じました。クロフツさん、読者が警察の捜査にじっくりつきあってほしかったのかな。

 わたしは、前半のスローな展開のなか、事件が起きた1910年代の風俗や警察のひとたちの仕事ぶりを楽しみました。
 船からの荷下ろしで落下?、コンテナはまだなかったんだ。自動車・トラックあるけど、陸上運輸の主役は荷馬車みたい。あと、タクシー多用してる。
 電話はあるけど交換手がいて、手紙や電報が主な通信手段みたい。e-mailやFAXなくても、手紙と電報があればなんとかなる!
 警察の仕事ぶりもおもしろい!仕事術まとめてみると、
①物証も大切だけど、証言がもすごく重視されてる。だから、必ず裏取りしてます。几帳面な仕事ぶりです。
②ちょっと疲れたらカフェで休憩、で葉巻。散歩したり映画・ショーをみて気分転換してます。ただし警部さんの拘束時間は長いです。
 残念だったのは、何を食べたか書いてないこと。それがあったら最高だったのに・・・
③紙に書き出して、思考を整理する。仕事の基本です。

 わたしの好きな登場人物は、パリ警視庁総監さん。このひと、静かで落ち着いて仕事ができるからと、夜中に仕事してます。だから、ミーティングはいつも夜の9時!

 ロンドンとパリは当時の最先端だった?伝票のやりとりをしっかり実行。例えば警察が会社の書類を押収する時、その会社から会計監査に必要と言われ、伝票を渡してました。全部じゃないけど記録もしっかりしてる。これならISOとか苦も無くできるよね。
 とにかく古さを感じさせない。現代のミステリ作家が100年前にタイムスリップして書いたかのように感じる小説でした。もしそうなら、それは誰でしょうか?

1
2024年08月24日

購入済み

地道な捜査に好感度大

地道な捜査でコツコツと真相に迫っていく人たちに好感が持てます。変なキャラクターの探偵が出てくる探偵ものとは違った面白さがあって、ミステリーは飽きたという方に是非読んでいただきたい一冊です。これがおもしろいと思った方は鮎川哲也の「黒いトランク」もお勧めです。

1
2014年06月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

題は樽。
その名の通り、ずっと樽を巡って話が展開。

ワイン樽に混ざってやたら重い樽がある。
重すぎて荷運びのバランスが崩れ、樽の一部が破損し、中に入っていたであろうおが屑と共に数枚の金貨が見つかる。
中身は一体何なのか?

好奇心で破損部を開いてみると女の手が見えた。
事件性があるとして驚いていると、その樽の受取人を名乗る人物がやってくる。
樽が到着していることを荷降ろし時にでも目にしているかもしれないから届いてないとは言えないし、受け取るには手続きが必要だから〜として足止めしつつ、会社にも相談した上で警察に通報。
が、戻ってみればその樽は消えている。

その後も、樽が見つかるがまた消える。

行く先々で色んな事情が話されるのが面白い。
終盤、犯人の自白で聡明かつ歪んだ性格なのは面白いが、今ではアニメでも見られるような王道を進み、ラストは呆気なかった。

0
2025年02月22日

Posted by ブクログ

16年ぶりに再読。新訳になっていてまるで初めて読むみたいだった。もっとも、「とにかく面白かった」という記憶しかないのだから旧訳との違いが分かるはずもない。
けど、やっぱり面白い。ボクの中では、本格推理もののベストではないかと。でも悲しいかなクロフツの作品ってあんまり多くないんだよね。残念。

0
2022年04月14日

Posted by ブクログ

汽船の積荷が落下して樽からこぼれ出た金貨と手首。調べると中から女性の絞殺死体が見つかった。素晴らしい謎からスタートする。被害者は誰か?犯人はなぜこんなことをしたのか?目まぐるしい展開で探偵役もどんどん変わる。緻密なプロット、鮮やかなアリバイ崩し。クロフツの処女作にして最高傑作、いや探偵小説史上に残る名作。アリバイ崩しの真骨頂を見た!見事です

0
2021年04月14日

Posted by ブクログ

久しぶりに面白いミステリ読んだ!切り口というのか話の運び方というのか、新鮮だったなあ!
ボックビール。飲んでみたい。

0
2020年03月18日

Posted by ブクログ

1920年代のロンドンとパリが舞台。スコットランドヤードと
シュルテ両警視庁が犯人にまんまと裏をかかれ、私立探偵登場。
人間の憎しみ、恨みの心理描写が素晴らしい。
最初のページはロンドンの船会社で働く人たちの息づかいが聞こえてきた。
また、読みたくなる。新訳版で文字が大きく読みやすい。
おすすめです。まだ読んでない方は是非

0
2019年05月10日

Posted by ブクログ

 荷揚げ中に破損した樽から金貨と女性の腕が見つかる。運送会社の社員が警察とともに樽のもとに戻ると、樽はすでに引き取られた後だった。樽の行方、そしてその中身をめぐるミステリー。

タイトルからして「なんだか地味そうだな」と思って、名前こそ知っていたもののなかなか手を出さなかった一冊です。古書で半額で売られていたので、ようやく手を出しました。

 前半は樽はどこに消えたのか、中盤以降は犯人はだれか、という謎が主題になるわけですが、一つの謎が解ければ、また次の謎が表れ、その謎が解けたかと思いきや、イマイチ事件とは結び付けにくかったり……、そんな風に謎を非常に巧く見せている気がします。アリバイトリックについては少しややこしいな、と感じたものの、そうした構成が非常に巧みでどんどん読まされました。

 いわゆる超人タイプの名探偵が出ないので、捜査が証言を集めたり、その証言を検証したりという地味な描写にはなりがちなのですが、そこを構成の妙でカバーしている印象です。

 ”地味”という言葉はたいていマイナスのイメージが持たれがちですが、地味だからつまらない、とは言い切れない、逆にハリウッドのような派手さやホームズやルパンのようなキャラクターの強い名探偵がいなくても、謎と構成がしっかりしていればいくらでも面白いミステリは書けるんだ、ということを力強く証明してくれた作品だと思います。

0
2014年02月22日

Posted by ブクログ

今読むとミステリーと言うよりは、サスペンス。
全員、人物が良い(犯人も含めて)。こういうのが古典サスペンスの面白さ。
しかし、長い(笑)
主人物が入れ替わるのは良いんだけど、何でこんなに長く感じるんだろ・・・。
翻訳の問題があるような気もする。

0
2025年11月29日

Posted by ブクログ

ネタバレ

4.5くらい。面白かったけれど、少しだれたところもあったので。
でも夢中になったところもあった。アガサ・クリスティーの『スタイルズ荘の怪事件』と同年に発表されたというのが驚き。

江戸川乱歩や米澤穂信が挙げていたので読んだ。
また、横溝正史の『蝶々殺人事件』について、この『樽』と類似性として時々挙げられていたのも見かけて気になっていた。

タイトル通り、樽の話。
三部に分かれていて、最初は樽の発見とその行方。
次に被害者の身元と容疑者の割り出し及びアリバイ確認。
最後は、被疑者のアリバイ崩しと真犯人探し。という三段構え。

最初は情景描写に少し滅入ったけれど、樽の行方がわからなくなって、それを追いかける行程が面白かった。
アリバイ確認のところはあちこち言って話を聞いてで少し飽きちゃった。大事なんだけど、ここら辺はもう少し面白くなるような展開があると良かったかなあと思う。
最後の探偵パートでアリバイ崩しが本格的になったところから楽しめた。前提が覆っていき、いろいろなことがわかっていく。

細かい突っ込みどころがあれど、真犯人が言う通り、そうやったのなら可能だなと思える話で面白かった。
解説のところで樽の傷について突っ込まれていたけれど。同一かどうかどうやって判断したのか、どのタイミングで傷をつけたのか。まあ、人の証言でしかないので、うやむやになるのは仕方ない。でも作者ならちゃんとそこは考えておいて欲しかった部分でもある。

気になったのはくじの話があまりにも出来過ぎている。たまたま聞いていたってなんだよ。これでだいぶ容疑者が絞れる情報なのに。ボワラックがそこにいた可能性を匂わせる描写が欲しかった。
あとボワラックがイギリスでの動きについて特に怪しまれずに行動できたところも突っ込みたい。フェリクスに扮していたそうだけど、それでも家に侵入して工作してるんだから、その可能性の描写も欲しかった。
フェリクスが無罪なら誰かがやった!だから誰かが侵入した!で通すのか、そうかぁ~の気持ち。

あと警察よりも探偵のほうが派手にお金を渡して情報を聞き出していたのが面白かった。これはわざとなのか、時代柄そういうものだったのか。

イギリスとフランスの刑事が仲良かったのも良かった。組織としてみんな聞き分けが良くて、優秀。喧嘩しない。
そうじゃないと話が進まないからだけど、人間関係が良好過ぎて面白い。

情報を集めるために広告を打ちまくるのも面白かった。その精査は大変そうだったけど、予算とか気にしないでバンバン出してる。
探偵側が出していた経費は依頼人が負担する!ってなってたけど、すごいな。警察のほうもすごい。警察が広告を打つ場合は捜査に協力せよ、見返りに情報を渡す、みたいな取り決めがあったのかな。

最後のボワラックの行動も好き。潔いのか慢心していたのか。
そして最後はフェリクスのハッピーエンドで終わってた。
駆け足なハッピーエンド。横溝正史の本陣殺人事件の最後みたいだった。
当時はよくある終わり方だったのだろうか?クリスティじゃなかったと思うけど。クリスティは安易にハッピーエンドで終わらせず一つの事件が終わって、これからも人生は続く、みたいな余韻だった気がする。

0
2025年09月11日

Posted by ブクログ

謎を追っていくとまた新たな謎が出てきて、展開が非常にスリリングで面白い。
ただし、最後まで犯人にやられっぱなし(自殺してしまう)なのが気に入らない。

0
2023年10月09日

Posted by ブクログ

クロフツの『樽』、読んだことなかったのですよね…新訳が出て買ってあったのですが、それ以降も読まずに積んでおいて数年…ようやく読まました。
『樽』という地味な題名と、「頭がこんがらがるような複雑なパズル的トリック」が用いられているのかと勝手にイメージを持って後回しにしていたのですが、読んでみたら…おそらく新訳の読みやすさもあり…全くさにあらず。なかなか面白く、一気読みしました。
巻末の有栖川有栖さんの解説も良い。まさに鮎川哲也さんの『黒いトランク』や横溝正史さんの『蝶々殺人事件』の着想の原点となっているであろう本作、古典名作に違わぬ佳作でした。いま読んでも。

0
2021年03月29日

Posted by ブクログ

新訳ではなく前ので読んだけどなかたので。
ドキドかハラハラのサスペンス。
30年も前に読んだときとはだいぶ違う感じ。

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2020年11月23日

Posted by ブクログ

リハビリ?用の読書。
芥川賞の予想を盛大に外したことにより、いじけてしまい、読書なんて当分するものかと思っていた。
だが、かと言ってゲームや映像作品に時間を使おうとしても、早々に飽きてしまう。何とか本を読む楽しさを思い出そうと、純文学作品ではなく、しばらくは力を抜いて読めるミステリや時代小説に癒しを求めようと思い、積読になっていた本書を読んだ。(純文学復活の暁にはとりあえず福永武彦氏あたりだろうか。)
古典的名作とされているだけあり、丁寧に作り込まれた、読み応えのある本だった。ただ、ミステリを久しぶりに読んだので、それゆえにミステリを読むことそのものに対しての期待感と、それが満たされた充実感が否応なく増していた、そのことを差し引いて考えなければならないかもしれない。でも、一方で期待が大きかっただけにもし魅力の乏しい内容であれば読後の失望もそれだけ大きくなるはず。そうはならなかったのだから、やはり心からこの読書に満足したのである、私は。発想の奇抜さや天才的な探偵は確かに登場しないが、証拠を一つ一つ地道に積み重ねていく過程はスリリングだし、作者の真剣さや真摯さも伝わってくるほど。
また、本書の内容自体はもちろんだが、巻末の解説2本が素晴らしく面白かった。特に有栖川有栖の解説は読後感を何倍にも良くしてくれる素晴らしいものだ。ぜひ、鮎川哲也「黒いトランク」も読んでみたい。

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2019年07月27日

Posted by ブクログ

1920年に書かれた作品
名探偵でなく警察もののように
状況を緻密に組み立て穴一か所から解決に及ぶ話
警視総監が一事件を監督したりするようなところはあるが
現在に通じる古典
犯人の樽を使った謎を
とても上手く意図してそうした様でなく難解に描いているのが大きな得点だが
むしろ終盤がやや冗長かもしれない
分けた視点を収束させるため止むを得なかったのかもしれないが

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2018年10月25日

Posted by ブクログ

ネタバレ

最初は樽の行方を追っかけていたのだが、中身が判明した後は、その謎を追いかけることに。アリバイを追跡していく作業は、やや単調だし、樽の動きが複雑でわからなくなってしまう。
しかし、ラストで分かりやすく、謎は判明する。ミステリの名作。これが100年も前の作品だとは。

0
2018年07月22日

Posted by ブクログ

古典的名作として誉れの高い作品。

海外の古典ミステリーは
カバーしきれていないので
ふと手に取ってみた。

だが、読み進めるのがけっこう骨だった
というのが正直な感想。

つまらなくはないのだが、
現代の小説に慣れている身には
必要性を感じない細かい描写が多く
展開が遅いし、地名の馴染みがないので
位置関係をつかみにくいし、
なかなか読んでいて面白いと感じない。

ミステリー黎明期に作られ、
後の作品に影響を与えたという時代性、
歴史的意義は大きなものがあると思うが
作品単体としての評価としては
決して面白い作品ではないと思う。

0
2017年01月03日

Posted by ブクログ

展開がゆっくりで、人が足を使って調べていく時間経過がリアルに感じ取れる。それだけに創作話にも関わらずノンフィクションっぽい印象を受ける。丹念なというか緻密なというかこういう推理ものは良いなぁ。

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2016年04月12日

Posted by ブクログ

クロフツ1920年発表の処女作にして代表作。推理小説の古典であり、愛好家必読の一冊でもあるのだが、肩肘張ることなく今でも充分に楽しめる。ストーリーは、殺人事件の発生からドキュメントタッチで展開し、実直な警察官と私立探偵の地道な捜査によって、ひとつひとつの謎が解き明かされていく。天才的な探偵による名推理を排し、極めて地味な印象を与えかねないが、リアリスティックな描写は考え抜かれた構成の妙によって、返って滲み出るような緊張感を生んでいる。本作品が突出しているのは、表題でもある「樽」が冒頭から終幕まで動的なモチーフとして効果的に使われていることで、不可解な謎の核として機能し続ける。本作の真価でもある「アリバイくずし」については、真犯人による衝動的犯行後に瞬時に閃いたにしては、やや出来すぎの複雑さを持ち、この点ではリアリティは無い。だが、本格推理の新たな道を開拓した作品としての意義は大きく、狡猾な犯人像も鮮やかな印象を残す。

0
2016年03月02日

Posted by ブクログ

面白かった!米澤穂信さんの『米澤屋書店』を読んだばかりで、古本屋さんで棚を眺めながらそういえばこれ紹介されてたなあ、と思って買ってみた。さすが名作というのか、全然読んでて飽きなかったなあ。わたしは本当に理解力がなく笑、捜査や謎解きもあんまり頭を働かせずに作中の人たちがなるほど!って言ってるのを眺めるだけなんだけど……細かいアリバイや細工や樽の移動など、たぶんもっとちゃんと考えながら読んだら楽しいんだろうけど、そうはせず、捜査を見守ってるだけでも楽しかったです。ミステリいいな!

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2025年05月05日

Posted by ブクログ

 荷揚げ中に一つの樽が破損した。そこで樽を確認したところ、中には女性の遺体が入っていた。本作は女性の遺体の謎をめぐって、誰が、どんな動機で殺人を実行したのかを探っていく。警察、弁護士、探偵それぞれがこの事件の謎を見つけるために、独自のアプローチで真実に迫る。

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2024年12月18日

Posted by ブクログ

今から100年ほど前のミステリー小説。
「樽から女性の死体が……」というショッキングな出だしからは想像できないほど、丹念な謎解きのプロセスを描く。

この物語には、ポアロもホームズも、メグレ警視もいない。
謎を解いていくのは、普通の真面目な職業人たち。
しかも、発見者ブロートンは早々に退場し、300ページ近く丹念に捜査していたバーンリー警部とルファルジュ刑事は、最後の100ページで弁護士と探偵に取って代わられ……
さてさて、いったいこの物語の主役は誰だったのか……。
そう、最初から一貫して登場する“樽”です。

時代は、社会を動かす力が人力から化石燃料へ劇的に変わるころ。
馬車から船や汽車、自動車へ。
電報から電話へ
手書きからタイプライターへ
葉巻からタバコへ
人々はイギリス=フランス間を日常的に移動し、カフェでコーヒーを飲む。
やがてこの“樽”も時代の彼方へ消えゆく……。

二つの大戦間につくられた科学の進歩への期待や、当時の市井の人たちの生活をも思い浮かべることのできる物語でした。

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2023年08月10日

Posted by ブクログ

推理小説における"アリバイ崩し"という要素を確立させた、古典的名作。
今まで読んできたミステリが、天才的な頭脳を持つ変人名探偵が、天才的な推理をして、複雑怪奇な謎を解くのが殆どだったので、本作のような一般的な感性を持つ刑事や探偵が、自分の足を武器に、ひたすら捜査、聞き込みを繰り返し、地道に一歩一歩真相解明に近づくというのは、割と新鮮だった。なんかこういう系は地味〜な印象を持っていたので今まであんまり手に取ろうとは思わなかったのよね...
実際インパクトは少ないのだけれど、その分堅実に面白かった。
たまにはこういうリアリズムに溢れたのも良いなぁと思った次第。(でもやっぱりミステリはぶっ飛んでた方が好き♡)



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2023年08月03日

Posted by ブクログ

シンプルでありながら奥が深い。古典的名作。ミステリファンなら一読の価値あり。鮎川哲也の黒いトランクも合わせて読むとより一層楽しめる。アリバイやトリックが少しわかりずらいが、それでもテンポよく楽しめた。

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2023年06月29日

Posted by ブクログ

英国の秀逸な古典ミステリー。手の込んだトリックによる殺人事件に見えるが、実は感情的もつれが動機の、咄嗟の犯行であった。前半はじっくりと、後半は早い展開で飽きさせない。「樽」について言及する、終わりの解説も興味深い。

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2023年03月18日

Posted by ブクログ

20数年前に抄訳で読んだ記憶があったけど、違ったかなあと思う作品でした。
地味な探索から逮捕と次の物語…なかなか良かったです。

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2023年02月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

アリバイトリックよりもホワイダニットに面白さがある話だけれど、納得はできなかった。犯人が用意した偽のストーリーに肝心の樽が噛み合っていないからだ。

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2022年04月30日

Posted by ブクログ

 1912年のロンドンにパリから船便で樽が到着したが、港湾の荷卸しで樽を破損した際に隙間からおが屑と金貨がこぼれ落ち、更に女性の遺体が発見された。

 スコットランドヤードのバーンリー警部は受取人フェリクスを尋問するがどうやら疑惑は送り主の方らしく、早速パリに向かう。

 パリからロンドンへ発送されたのは二つの樽でロンドンからパリへも一つの樽が運ばれていた。

 樽の移動と容疑者のアリバイが焦点のストーリーでスコットランドヤード、パリ警視庁、弁護士、探偵がそれぞれの役割を演じ樽の謎に挑む。本作は、古典ミステリーの名作と言われ、アガサ・クリスティやエラリー・クインと並ぶ著名ミステリー作家ですが、読み難いとかストーリーが複雑とかの感想も多く近年では余り人気が無いそうですが、私にはピッタリのミステリーでとても楽しめました。次は、倒叙ミステリーとして有名らしい''クロイドン発12時30分''を読もうと思います。

 著者は、フリーマン・ウィルス・クロフツでアイルランド生まれのイギリスミステリー作家で本作は1920年のデビュー作品で本作は新訳版です。
 

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2021年08月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

船便で港に届いた樽。
荷降ろしの途中に隙間から金貨がこぼれおちてきた。
不審に思い少し中を探ってみるとなんと女性の腕が。
警察に届け出ている間に樽は行方をくらましてしまう。
樽を奪った男は中身について知っているのか、樽を探し事件を解決せよ。

「樽」って聞くと和風ですが、原題は「The Cask」。
なんだかかっこいい!

さて内容。
まずは樽をじっくり検分するまでに時間がかかる!
しばらく行方不明になるんですから。
見つけてからやっと捜索。
まずは警察の手に委ねられます。
ロンドンのバーンリーとパリのルファルジュは仲良しデカ。
捜査の合間に飯を食い、クラブに行き、エンジョイしまくり。
警察は懸賞広告出しまくり~!
なんだかのどかだな!

基本的に出てくる人が皆上品でよい人です。その点ではイライラしなくて済んでよいです。

江戸川乱歩が絶賛したことで日本では一躍古典名作に名を連ねたこの作品。
なんと、重大な欠陥があるとのこと。
それを見つけるのは読者です。
種明かしは解説の有栖川センセイなので、最後までとっていてくださいね!
ちなみにわたしは気づきませんでしたが、言われたら「でしょ?おかしいと思ったのよ」と思いました。

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2016年11月13日

Posted by ブクログ

ヴィクトリア朝の香り残る、1910年代のロンドン。
波止場に荷揚げされた樽が、たまたまぶつかって、ちょっと破損してしまった。
係員が気にして調べると、破損の隙間から、金貨がじゃらじゃらと...そして、謎の美女の死体が入っていた...

捜査が始まった途端に、謎の男が樽を持ち去る。
追跡。樽を運搬した荷車が、ペンキを塗り直されていた。
ロンドン警視庁の執念の捜査でたどり着いた荷受人は、何も事情を知らなかった。その上、問題の樽がまたしても奪われて行方不明...

七転八倒の末、確保した樽。とうとう、開封される樽。中の死体は、やはり妙齢の女性。
樽の発送元は、パリ。
舞台は花の都パリへ...。
死体の女性は裕福な商人の夫人。
容疑者は、その夫と、愛人の男。
状況証拠は、全て、「愛人の男の犯行」を指している。逮捕。追及。このままでは有罪になる。
だが、捜査員の心象では、怪しいのは夫。
夫の完璧なアリバイを崩せるのか?

20世紀初頭のロンドン、パリ、ブリュッセルを舞台に、当時最先端の鉄道や貨物船の輸送網のダイヤをにらみながらの、ノンストップのミステリーが疾走する...

########

海外ミステリーの古典です。
書かれたのが1920年だそうで。
ホームズ物の最終短編集、「シャーロック・ホームズの事件簿」が1927年ですから、大まかに言うと同時代。
そして、ホームズ物に比べれば、なんというか、松本清張さんのノリに近い、そういう意味で実に現代的なミステリー。
謎めいた樽を追いかける序盤戦。
パリに舞台を移して、死体の身元と事情が判明する中盤戦。
そして、「間違えられた男」が逮捕され、無罪を証明するための終盤戦。

ロンドンの刑事→パリの刑事→ロンドンの弁護士→ロンドンの私立探偵、と、捜査主体=主人公、が移り変わっていくのも、変化球で魅力的。
なにより、特に前半のテンポの良さ。謎から謎の高速駅伝リレーみたいな気持ちよさ。
その辺が、いちばんの魅力でした。

その一方で、犯罪の背景に必ずある、犯人側の切羽詰まった心情表現みたいなものとか、
大ラスのアリバイ崩しの鮮やかさみたいなもの、
そのあたりには若干の不満は残ります。
あと、全てが分かった後で考えると、「えと、あそこのトリックって、どういう意味があったの?」みたいものが若干(笑)。

それも含めて、まあ、1920年、この手のミステリの先駆けですから、そこはご愛嬌。
ただ、そこを差し引いても魅力あるミステリでした。
海外ミステリー好きな方は、是非。

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2016年06月16日

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