F・W・クロフツのレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
今から100年ほど前のミステリー小説。
「樽から女性の死体が……」というショッキングな出だしからは想像できないほど、丹念な謎解きのプロセスを描く。
この物語には、ポアロもホームズも、メグレ警視もいない。
謎を解いていくのは、普通の真面目な職業人たち。
しかも、発見者ブロートンは早々に退場し、300ページ近く丹念に捜査していたバーンリー警部とルファルジュ刑事は、最後の100ページで弁護士と探偵に取って代わられ……
さてさて、いったいこの物語の主役は誰だったのか……。
そう、最初から一貫して登場する“樽”です。
時代は、社会を動かす力が人力から化石燃料へ劇的に変わるころ。
馬車から船や汽車、自動車へ。
電報から電話へ
手書きからタイプライターへ
葉巻からタバコへ
人々はイギリス=フランス間を日常的に移動し、カフェでコーヒーを飲む。
やがてこの“樽”も時代の彼方へ消えゆく……。
二つの大戦間につくられた科学の進歩への期待や、当時の市井の人たちの生活をも思い浮かべることのできる物語でした。 -
Posted by ブクログ
推理小説における"アリバイ崩し"という要素を確立させた、古典的名作。
今まで読んできたミステリが、天才的な頭脳を持つ変人名探偵が、天才的な推理をして、複雑怪奇な謎を解くのが殆どだったので、本作のような一般的な感性を持つ刑事や探偵が、自分の足を武器に、ひたすら捜査、聞き込みを繰り返し、地道に一歩一歩真相解明に近づくというのは、割と新鮮だった。なんかこういう系は地味〜な印象を持っていたので今まであんまり手に取ろうとは思わなかったのよね...
実際インパクトは少ないのだけれど、その分堅実に面白かった。
たまにはこういうリアリズムに溢れたのも良いなぁと思った次第。(でもやっぱりミステリはぶっ飛んでた方が好き♡)
-
Posted by ブクログ
不況の煽りを受け経営者チャールズの工場は閉鎖寸前、頼みの綱は叔父の財産だったがあえなく断られる。 先の短い一人の老獪と将来のある従業員たちを天秤にかけたチャールズは・・・。
古典中の古典の倒叙ミステリです。 一章にて叔父が殺されます。 当然犯人はチャールズなのですが二章以降のチャールズの計画・行動・心理描写が素晴らしい。 人間の一喜一憂、警察の領分や法廷の様子を丁寧に描いている。 ミステリにありがちな過剰な装飾や目立ちたがりな探偵や警部は登場せず現実に則った警察と容疑者の攻勢が描かれる。 派手さを削いだリアル故の地味、解決に至るまで精緻を究めた一作。 -
Posted by ブクログ
本作は倒叙ミステリ(物語前半に犯行が描かれ、後半で探偵がそれを推理していく形式のミステリ)であるので、前半と後半について述べる。
前半は犯人の様子や心情が細かく描写されていて、とても楽しく読めた。犯行を決意するまでの心情の変化は同情を覚えるほどだったし、犯行の瞬間などは動悸が抑えられなかった。テンポも良くてスリリングだった。
一方後半は、探偵がどのように犯人を突き止めたのかを説明しているのだが、これがイマイチ盛り上がらない。捜査は(当然なのだが)地道で、あっと驚くような証拠もない。ひたすらに可能性を潰していくプロシージャになっている。
まとめると、前半は楽しく読めたものの後半は退屈に感じる時間が多かった。
本格ミステリの謎解きが好きな人や、探偵の鮮やかな手腕にカタルシスを感じる人にはお勧めできない。 -
Posted by ブクログ
1912年のロンドンにパリから船便で樽が到着したが、港湾の荷卸しで樽を破損した際に隙間からおが屑と金貨がこぼれ落ち、更に女性の遺体が発見された。
スコットランドヤードのバーンリー警部は受取人フェリクスを尋問するがどうやら疑惑は送り主の方らしく、早速パリに向かう。
パリからロンドンへ発送されたのは二つの樽でロンドンからパリへも一つの樽が運ばれていた。
樽の移動と容疑者のアリバイが焦点のストーリーでスコットランドヤード、パリ警視庁、弁護士、探偵がそれぞれの役割を演じ樽の謎に挑む。本作は、古典ミステリーの名作と言われ、アガサ・クリスティやエラリー・クインと並ぶ著名ミステリー作家ですが、読み難いとかストーリーが複雑とかの感想も多く近年では余り人気が無いそうですが、私にはピッタリのミステリーでとても楽しめました。次は、倒叙ミステリーとして有名らしい''クロイドン発12時30分''を読もうと思います。
著者は、フリーマン・ウィルス・クロフツでアイルランド生まれのイギリスミステリー作家で本作は1920年のデビュー作品で本作は新訳版です。
-
Posted by ブクログ
ネタバレ面白いか、面白くないか、と聞かれたら、面白いと答えるし、確かに、無駄のない感じなど名作なのだろうと思う。初めから犯人が分かっている倒叙ものとして、上がったり下がったりの犯人の心理描写と、いつの間にか有罪になっているさま。どこでミスったんだろかと、犯人に感情移入。最後の推理プロセスお披露目も、なるほどねと、すんなり。フレンチ警部の、ノロマと思われたでしょうが、、、とか、よくもまあべらべらと、というくだりも、くすっと。これが、もっと当時に読んでたら、こんなパターンもありなのかと、すごく驚きもあったかも。ハウファインディットかい、みたいな。いかんせん、いろいろ読んでるし、コロンボなど倒叙モノを見てるので、スタイルの新鮮味はない。あっと驚くというわけでもない。
あと、短い章立になっているのも、読もうという気になるね。バンダインのビショップマーダーみたいな。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ船便で港に届いた樽。
荷降ろしの途中に隙間から金貨がこぼれおちてきた。
不審に思い少し中を探ってみるとなんと女性の腕が。
警察に届け出ている間に樽は行方をくらましてしまう。
樽を奪った男は中身について知っているのか、樽を探し事件を解決せよ。
「樽」って聞くと和風ですが、原題は「The Cask」。
なんだかかっこいい!
さて内容。
まずは樽をじっくり検分するまでに時間がかかる!
しばらく行方不明になるんですから。
見つけてからやっと捜索。
まずは警察の手に委ねられます。
ロンドンのバーンリーとパリのルファルジュは仲良しデカ。
捜査の合間に飯を食い、クラブに行き、エンジョイしまくり。
警察は懸賞広告出しまくり~!
なんだかのどかだな!
基本的に出てくる人が皆上品でよい人です。その点ではイライラしなくて済んでよいです。
江戸川乱歩が絶賛したことで日本では一躍古典名作に名を連ねたこの作品。
なんと、重大な欠陥があるとのこと。
それを見つけるのは読者です。
種明かしは解説の有栖川センセイなので、最後までとっていてくださいね!
ちなみにわたしは気づきませんでしたが、言われたら「でしょ?おかしいと思ったのよ」と思いました。 -
Posted by ブクログ
ヴィクトリア朝の香り残る、1910年代のロンドン。
波止場に荷揚げされた樽が、たまたまぶつかって、ちょっと破損してしまった。
係員が気にして調べると、破損の隙間から、金貨がじゃらじゃらと...そして、謎の美女の死体が入っていた...
捜査が始まった途端に、謎の男が樽を持ち去る。
追跡。樽を運搬した荷車が、ペンキを塗り直されていた。
ロンドン警視庁の執念の捜査でたどり着いた荷受人は、何も事情を知らなかった。その上、問題の樽がまたしても奪われて行方不明...
七転八倒の末、確保した樽。とうとう、開封される樽。中の死体は、やはり妙齢の女性。
樽の発送元は、パリ。
舞台は花の都パリへ...。
死体の女性は裕福な商人の夫人。
容疑者は、その夫と、愛人の男。
状況証拠は、全て、「愛人の男の犯行」を指している。逮捕。追及。このままでは有罪になる。
だが、捜査員の心象では、怪しいのは夫。
夫の完璧なアリバイを崩せるのか?
20世紀初頭のロンドン、パリ、ブリュッセルを舞台に、当時最先端の鉄道や貨物船の輸送網のダイヤをにらみながらの、ノンストップのミステリーが疾走する...
########
海外ミステリーの古典です。
書かれたのが1920年だそうで。
ホームズ物の最終短編集、「シャーロック・ホームズの事件簿」が1927年ですから、大まかに言うと同時代。
そして、ホームズ物に比べれば、なんというか、松本清張さんのノリに近い、そういう意味で実に現代的なミステリー。
謎めいた樽を追いかける序盤戦。
パリに舞台を移して、死体の身元と事情が判明する中盤戦。
そして、「間違えられた男」が逮捕され、無罪を証明するための終盤戦。
ロンドンの刑事→パリの刑事→ロンドンの弁護士→ロンドンの私立探偵、と、捜査主体=主人公、が移り変わっていくのも、変化球で魅力的。
なにより、特に前半のテンポの良さ。謎から謎の高速駅伝リレーみたいな気持ちよさ。
その辺が、いちばんの魅力でした。
その一方で、犯罪の背景に必ずある、犯人側の切羽詰まった心情表現みたいなものとか、
大ラスのアリバイ崩しの鮮やかさみたいなもの、
そのあたりには若干の不満は残ります。
あと、全てが分かった後で考えると、「えと、あそこのトリックって、どういう意味があったの?」みたいものが若干(笑)。
それも含めて、まあ、1920年、この手のミステリの先駆けですから、そこはご愛嬌。
ただ、そこを差し引いても魅力あるミステリでした。
海外ミステリー好きな方は、是非。