あらすじ
チャールズは切羽詰まっていた。父から受け継いだ会社は不況のあおりで左前、恋しいユナは落ちぶれた男の許へ来てはくれまい。母の弟アンドルーに援助を乞うも、駄目な甥の烙印を押されるばかり。チャールズは考えた。叔父の命か、自分と従業員全員の命か。これは「無用な一つの命」対「有用な多くの命」の問題だ。我が身の安全を図りつつ遺産を受け取るには――念入りに計画を立て、実行に移すチャールズ。快哉を叫んだのも束の間、フレンチ警部という名の暗雲が漂い始める。計画はどこから破綻したのか。『樽』と並ぶクロフツの代表作、新訳決定版。/解説=神命明
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Posted by ブクログ
コロンボや古畑のような犯人の心理が読める倒叙が何より好き。
『漂う提督』でクロフツが読みやすかったので、三大倒叙のクロフツも読んでみたくなった。
三大倒叙ミステリ
1931年『殺意』アイルズ
1934年『クロイドン発12時30分』クロフツ
1934年『叔母殺人事件』リチャード・ハル
3人ともイギリス出身の〈ディテクション・クラブ〉のメンバーで、たったの3年で三大倒叙は完成されていたというのが興味深い。
まず、冒頭のローズ10歳が初めて飛行機に乗るシーンがとても素晴らしい。
とある事情で突然飛行機に乗ることになり、その時の高揚感、緊張感、離陸、変わっていく窓の外の景色、音、揺れ、隣の席の父との会話、全てがリアルに伝わってくる。
偶然にも私も同じくらいの年齢で初めて飛行機に乗って隣の席が父だったので、余計にリアルに感じて当時の感覚が一気に蘇った。(私は閉所恐怖症なのでビビり過ぎて吐いた笑)
そんなローズの楽しいはずの飛行機初体験は、一転して悲しい事件に変わってしまう…。
犯人は自分の殺人を「無用な1つの命」対「有用な多くの命」問題だと言う。
自分や周りの人の苦悩に比べれば、被害者の命は無用だと考えている。
「無用な命」なんてあるはずないのに、自分を正当化するためにこんな思考になるのが恐ろしい。
本当は自分の利益だけを考えてるのに、「周りのため」とすり替えるのも身勝手極まりない。
殺害計画までの並々ならぬ努力をなぜ違う方向に持っていけないのか…。
いつもはガッツリ感情移入して読む派だけど、倒叙だけは第三者目線で「コイツ嘘ばっかりつきやがって!早く捕まれ!(`Д´)ノ」と思いながら読んでいる。
だから自分は絶対にバレないと思っている犯人の次第に狼狽える姿を見るのが好き。
この作品は、犯行手段やトリックに至るまで全てが詳細でリアリティがあるので、古典ということを忘れてしまうくらい現実のようなリアル感があった。
アイルズの『殺意』は、リアリティではなく小説ならではの奇想や捻りが効いていて、どこに着地するかわからないドキドキ感があった。
さすが三大倒叙はどちらも違った良さがあって、どちらも最高に面白い!!
このタイプの違う完成度をこの年代で発表されては、これ以上に面白い倒叙は難しいはずだ。
三大倒叙の残す1作も読みたくなった。
ちなみにクリスティーの『パディントン発4時50分』は列車で、『クロイドン発12時30分』はフランス行きの飛行機。
似てるのはタイトルだけで内容は全く似てないけど、どちらも面白い!^_^
Posted by ブクログ
”倒叙ミステリーの教科書”とも呼ばれる一冊。
古畑任三郎などを通ってこなかったので、「最初から犯人がわかっているのに、何が面白いんだろう?」と思って読み始めましたが、面白かったです!
法廷のシーンも引き込まれたなぁ。
犯人であるチャールズがいかに犯行を決意したか、準備の数々と、状況の進行により一喜一憂する胸中……。
殺人犯の心理はわからなくても、例えば仕事でのミスを隠しているといった、”一生隠しておきたいけど、一生気が晴れることもない”事柄には身に覚えがあるので、いつ警察が家に来るのかと、こちらもヒヤヒヤしながら読んでいました(^^;
この手のストーリーだと思わず犯人を応援したくなる読者の方もいるようですが、そうはならなかったのは、ひとえにチャールズの身勝手さ。
世界恐慌に端を発する不況から会社を守りたかった……はまだわかるのですが、別に気持ちが通じているわけではない恋人(だと思っている)への見栄にすがりつく姿に、私は早々に見限ったのでした。
消印や筆跡を真似する暇があるならその分働いたら?と冷たい目で見てしまうというもので。。
それにしても、おまわりさんはやっぱりすごい。
本書はチャールズ視点でフレンチ警部の出番があまりなかったので、次は彼が主役の作品を読んでみたいなと思います!
Posted by ブクログ
チャールズは工場の経営に行き詰まり、求婚相手のユナはお金のない男は相手にしない。頼みの綱の叔父は全くお金を貸してくれない。チャールズは従業員と叔父の命を秤にかけ、叔父の殺害を決意する。
フランシス・アイルズの「殺意」、リチャード・ハルの「伯母殺人事件」と並んで3大倒叙ミステリーと言われる作品。
同じ倒叙ミステリーでも、刑事コロンボとか古畑任三郎と違い、探偵がジワジワと犯人を追い詰めていくといったサスペンス的な要素はあまりなかった。
倒叙ミステリーではあるんだけど、法定ミステリーと警察ミステリーも含まれる作品で、特に犯人の犯行に至るまでの動機と準備が丁寧に描かれているのが特徴。
Posted by ブクログ
【ミステリーの古典名作を今さら読む】
このところ連続で観ている刑事コロンボ、コロンボといえば倒叙物…犯人が初めから分かっており、犯人がいかに追い込まれていき、犯行を見破られるか…という形式のミステリー。
そして、倒叙物の古典名作といえば、こちら、クロフツの『クロイドン発12時30分』ということは知っていましたが、絶版で入手困難なこともあり未読でした。最近、新訳が出ていることを知り入手。
いやー、まさに「倒叙物」の典型的フレームで話が進み、大いに楽しめました。主人公が犯行に踏み込むまでややダレますが、そこから先はかなり怒涛の展開。もちろん、今読むと「ありがち」の展開なのですが、それはある意味こちらが元祖というか「原型」なのですから当然です。
名作は色褪せませんね。
Posted by ブクログ
倒叙ミステリとして有名な小説。不況(解説によると世界恐慌を指す)によって、主人公チャールズの会社は追い込まれる。そこで彼は彼の叔父のアンドルーを殺害し、その遺産を得て、会社を立て直そうと考え、ついに殺人を実行してしまった。なんとか計画通りに事が運んだと思ったが、徐々に綻びが生じる。本作はそんな殺人計画がばれるまでの過程を見ていく。
Posted by ブクログ
不況の煽りを受け経営者チャールズの工場は閉鎖寸前、頼みの綱は叔父の財産だったがあえなく断られる。 先の短い一人の老獪と将来のある従業員たちを天秤にかけたチャールズは・・・。
古典中の古典の倒叙ミステリです。 一章にて叔父が殺されます。 当然犯人はチャールズなのですが二章以降のチャールズの計画・行動・心理描写が素晴らしい。 人間の一喜一憂、警察の領分や法廷の様子を丁寧に描いている。 ミステリにありがちな過剰な装飾や目立ちたがりな探偵や警部は登場せず現実に則った警察と容疑者の攻勢が描かれる。 派手さを削いだリアル故の地味、解決に至るまで精緻を究めた一作。
Posted by ブクログ
本作は倒叙ミステリ(物語前半に犯行が描かれ、後半で探偵がそれを推理していく形式のミステリ)であるので、前半と後半について述べる。
前半は犯人の様子や心情が細かく描写されていて、とても楽しく読めた。犯行を決意するまでの心情の変化は同情を覚えるほどだったし、犯行の瞬間などは動悸が抑えられなかった。テンポも良くてスリリングだった。
一方後半は、探偵がどのように犯人を突き止めたのかを説明しているのだが、これがイマイチ盛り上がらない。捜査は(当然なのだが)地道で、あっと驚くような証拠もない。ひたすらに可能性を潰していくプロシージャになっている。
まとめると、前半は楽しく読めたものの後半は退屈に感じる時間が多かった。
本格ミステリの謎解きが好きな人や、探偵の鮮やかな手腕にカタルシスを感じる人にはお勧めできない。
Posted by ブクログ
面白いか、面白くないか、と聞かれたら、面白いと答えるし、確かに、無駄のない感じなど名作なのだろうと思う。初めから犯人が分かっている倒叙ものとして、上がったり下がったりの犯人の心理描写と、いつの間にか有罪になっているさま。どこでミスったんだろかと、犯人に感情移入。最後の推理プロセスお披露目も、なるほどねと、すんなり。フレンチ警部の、ノロマと思われたでしょうが、、、とか、よくもまあべらべらと、というくだりも、くすっと。これが、もっと当時に読んでたら、こんなパターンもありなのかと、すごく驚きもあったかも。ハウファインディットかい、みたいな。いかんせん、いろいろ読んでるし、コロンボなど倒叙モノを見てるので、スタイルの新鮮味はない。あっと驚くというわけでもない。
あと、短い章立になっているのも、読もうという気になるね。バンダインのビショップマーダーみたいな。