磯崎憲一郎のレビュー一覧
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東京工業大学のなかにある人文社会系の研究拠点「未来の人類研究センター」に集まった研究者のうち、「利他プロジェクト」の5人のメンバーでそれぞれ<「利他」とは何か>について執筆したものをまとめたものが本書です。発刊は2021年。
「利他」といえば、「利己」の反対の行為で、つまり自分の利益を考えて振舞うのではなくて、他者の利益になるように助けてあげること、力になってあげることとすぐにわかるじゃないか、とせっかちにも僕なんかはすぐに答えを出してしまったりするのですが、本書を読んでみると、一言に「利他」といっても、たとえばそこに「利己」が裏面にべったりとひっついていることがわかってきて、かなり難しいの -
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中3生の模試の国語で、伊藤亜紗さんの『「うつわ」的利他』の一部が題材として出題されていて、興味をもったので読んでみました。
「利他」は「偽善」「自己満足」「押しつけ」と紙一重で、特にネットではそんな言葉で全く関係のない赤の他人から揶揄されたり非難されたりする可能性もあって、最近はうっかり親切な行動もとれないような雰囲気があったりもします。だいたい、「偽善」「自己満足」「押しつけ」をすり抜ける「利他」ってどんなものなんだろう。そんな思いがありました。
伊藤亜紗さんの章は読みやすく分かりやすかったですが、いちばん面白く興味深く読めたのは中島岳志さんの『利他はどこからやってくるのか』でした。志賀直哉 -
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ネタバレ目次
・終の住処
・ペナント
芥川受賞作にはあまりご縁がないが、間取り好き、住宅好きの私としては、素通りできないタイトル。
しかし、思っていたのと違った。
まあ、芥川受賞作ということを考えれば、こっちが正統か。
30歳を過ぎて結婚した男の、妻とのままならぬ結婚生活を描いたもの。
お互い20代の時に長く交際していた人と別れたあとで付き合い始め、結婚願望などというものも感じないまま流されるように結婚。
妻はいつも、ここではないどこか遠くを見ていて…。
男は、仕事はできるようだ。
女性にももてる。
何しろ11年間に不倫した相手は8人だ。
だけど、どうにも男の輪郭ははっきりしない。
結婚について -
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ガルシアマルケスまがいの文体は、よっぽどセンスのよい著者でない限り、避けるのが無難だろう。この人はセンスがそこまでよくないので、やめておいた方がよい。結構しんどかった。
100年くらいに渡る年代記みたいな体裁のお話はすごく好きなので、楽しく読めた。特に、ニュータウンが出来ていくあたりが好き。自分はロードサイトとかで一時期社会学界隈で話題になったようなド郊外の生まれ育ちなので、ニュータウン的な街の寒々しさには親近感を覚えるのだ。
女優の息子が電車で恋に落ちる話も好きだった。ああいう風に始まる恋って実際あるからねー。ないような気がするけど、ごく稀にあるんだよ。 -
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ラテンアメリカ文学の影響を受けたという作者の作品。表題作も併録の「ペナント」も、異質な、重層的で、異空間な作風。「ペナント」に関しては全く理解できなかった。
多分「終の住処」に関してもそれほど理解は出来ていないのだと思う。とにかく一文が長く、それこそ海外文学の影響を受けた様で、文章も読みやすくは無いが難しいわけでも無くそれでも複雑だったりする。ストーリーに関していえばあってないような、滅茶苦茶な構造。個人的な本作の魅力はその中に含まれる独白にある。特に、人生経験を積めば当たり前に思うだろうが、「10年の月日よりも今という一瞬の方が長い」といった様な文章が平然と並んでいるこの言葉の引き出しに感嘆 -
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磯崎憲一郎作品のほんの一部しか読んでいないけれど、この作家の「時間」というものの捉え方、特に「過去」というものを見つめるまなざしはとても特徴的だと思う。一種の「温かさ」というか、「目線」や「視線」というよりも「まなざし」と表現すべき、人の肌の温度や意思のようなものを感じる。
まるで自分の子どもを見つめるそれのような。
それは多分、過去の「切り取り方」によるものなんじゃないかと思う。
仰々しい前置きや有り難い後日談なんか無しにして、無限に続く時間軸の一部を、無造作に切り取ってそのまま記述するだけの。
「時間軸」という言葉を遣うと、人は大体、「過去があって、その上に今があって、その先に未来があ