名取佐和子のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
異国情緒溢れる関西きっての港町御門。町の急な坂を登った先にシェアハウスかざみどりはある。
この3階建ての古い洋館に集ったのは、年代がバラバラの男女4人と無愛想な若い管理人の男。これまで決して順調とは言えない人生だった5人を、その過去から解き放つ連作群像劇。
◇
南北を海と山で挟まれた関西きっての港町と言われる御門市。その中心街から北にミシン坂を登ったところが北屋丘町だ。
坂道の先には人目を引く一軒の古い洋館がある。目を引く理由は、3階建ての赤い屋根に骨董品級の古い鋳物の風見鶏が取り付けられているからだ。
今朝はその洋館3階にあるバルコニーに、ラジオ体操をしている1人の青年がいるのが見える。
痩身を黒ずくめの服で包んだその青年は、不機嫌そうな顔もあって、朝の爽やかな空気にまったくそぐわない。
と、青年がスマホを手にした。着信があったらしい。彼は相手の話を聞き、鋭い目つきを若干見開いてこう言った。
「もう見つかったのか、さすがだね。お疲れさんでした」
そしてニコリともせずに通話を終えた彼は
「これで全員揃った」
と、不機嫌そうに呟いたのだった。(「序章」) ※全4章と、序章および終章からなる。
* * * * *
序章がホラーっぽい空気を漂わせていますが、ハートウォーミングストーリーです。
舞台となる御門市北屋丘町は、神戸市中央区北野町がモデルだとすぐわかります。神戸が名取さんの出身地だからか、詳細な描写は出てこないのに街並みがイメージしやすく、現実感がありました。
物語は、この港町を舞台に展開します。
急な坂を登ったところに3階建ての古い洋館があります。それは、赤い屋根に取り付けられた鋳物の風見鶏につい目がいってしまう建物で、現在は「かざみどり」というシェアハウスになっています。
そして、このあたりからサスペンス風の怪しげな設定が目につくようになります。
まず管理人の若い男。
仕事はまめにこなすものの、とにかく無愛想。しかも何やら腹にいちもつあるような雰囲気で、住人に接します。
次に4人の入居希望者。
この4人が意図的に集められた人間であるというところも謎です。
また、ターゲットに接触し入居を勧めた不動産屋は、実は腕利きの探偵だったことも何やら怪しい。
さらに、このシェアハウスが体験入居キャンペーン中ということなのですが、家賃だけでなく光熱水費もタダというお試し期間は春からクリスマスまでの約9ヶ月。妙に長すぎるのです。
この古びたシェアハウスにはいったいどんな秘密が隠されているのか ! ? これから何が起こるのか ! ? というのが読み進めるモチベーションになります。
けれどドキドキはここまでです。あとはハートウォーミングストーリーが展開していきます。
入居者4人に管理人の青年を加えた5人はみな、人生において問題を抱えているのですが、それぞれが関わりあいを持つうちに次第に解決に向かっていくのです。その様子は微笑ましいばかり。
そして提示されていたすべての謎が最後に明かされるというのも、プチミステリーとしてはよくできていると言っていいでしょう。また、意外にも脇役の果たす役割が大きいこともあとでわかります。
大きな事件や深刻な出来事などは何も起こらないので、本格的なサスペンスやミステリーを期待されている方には物足りないと思いますが、心温まるお話が好きでさらに港町神戸を散策したことのある方なら楽しめる内容になっています。興味を持たれた方はぜひお読みください。 -
Posted by ブクログ
大和北旅客鉄道波浜線の遺失物保管所、通称なくしもの係には赤髪の職員とペンギンがいる。なくしものを探しに来る人々の物語を4話収録。
飼い猫を亡くした女性が落とし物をする『猫と運命』、男子高校生がオンラインゲーム仲間のために限定アイテムを手に入れようとする『ファンファーレが聞こえる』、マタニティマークを拾った主婦の物語『健やかなるときも、嘘をつくときも』、頑固な男性がペンギンを追いかける『スウィートメモリーズ』。
再読。ペンギンが乗り降りする電車、素敵すぎる。基本的に遺失物保管所にやって来る人々なので物をなくしているのだけれど、目に見えないものも同時になくしている。どの人もなくしものを見つけて前を向けるラストがよかった。 -
Posted by ブクログ
「ペンギン鉄道なくしもの係」の2冊目。
前作と同様、駅や電車で忘れ物落し物をして、鉄道会社の遺失物保管所を訪れる人たちのお話。
親の離婚届を代わりに出しに行く姉弟、学校の遠足に行かずに自分たちだけで水族館へ行く兄妹、重い病気と闘う女性と彼女を気に掛ける女医。それらの話すべてに気儘に出没するペンギンとモヒカン頭の男が絡む。
いずれも少しうまくいっていない関係が探し物をしている内にわらわらと解きほぐされていく展開は、どうってことないけど結構泣かせる。
最後の話でモヒカン男が主人公になり、ばらばらに見えたそれまでの話が繋がるところも前作同様だが、ここで明かされる秘密にもほっこり。
前作で「ヘアバンドのよう」と表現されたペンギンの頭の白い帯模様が、今作では「カチューシャのよう」になったのが微妙に気になった。 -
Posted by ブクログ
飛行機の中で一気読みした。1羽のペンギンがいるとある路線と、そのなくしもの係の青年のお話。
タイトルから勝手に、言葉を話すペンギンが駅員をしているのかと思ったけどそうではなく、ペンギンはただそこにいて、普通の動物として気ままに暮らしているだけ。自分で電車に乗って出かけられる器用さはあるものの、もちろん言葉は話せないし、そこらへんでトイレもしてしまう! でもその自然体さや人間との距離感が心地よくて、「ここに来れば大丈夫」という安心感を与えてくれる感じがする。なくしものを持ち帰るか預けたままにしておくかを選べるという点と、どうしてペンギンがいるのかが最後の章で明かされる点がよかった。