戦前から続く老舗旅館・凧屋の名物は、様々な古書が揃った文庫があること。
そこの若女将は、本のにおいに敏感すぎて、ただの一冊も読み通せたことがことがないが、客には同じにおいのする書物を勧める。
大抵の客はその書物を読むことで、抱えていた思いの出口を見つけ、喜んでくれる。
不思議な感覚でもあるが、今の
...続きを読む自分にはどんな本をすすめてくれるのだろうか?と思ったりした。
確かにその時々で影響を受ける書物があるかもしれない。
この物語も悩みを抱える人に寄り添い、心が晴れるような書物をすすめている。
しかし、最後の五冊目は若女将の人生にまで関係する内容だったのに驚くとともに、ときおり祖母が出てきていたのに納得できた。
ーーー祖母は小説が好きで、作り話のなかにときどき覗く本当を探してる。ーーー
私も小説を読んでは、そのなかに自分と共感するものを探しているのかもしれない。
一冊目〜川端康成『むすめごころ』
小学校からの腐れ縁の三人の恋愛事情…葉介の普通じゃないは、今、みんなにとって案外普通かも。
二冊目〜横光利一『春は馬車に乗って』
則子は、長年夫婦を続けてきたが夫と過ごす毎日に疲れ果てていた。そして夫をちっとも愛していないことに気づいた。
三冊目〜志賀直哉『小僧の神様』
亡き妹が遺した息子の母となったが、彼の個性に何度も振り回される。あの子を引き取らない選択をした親族より、あの子を虐待していた妹夫婦より、一番あの子を傷つけてしまうのではと思う。
自分を放り出したりせず、寄り添ってくれているのは伝わってると…
四冊目〜芥川龍之介『藪の中』
卒塾旅行で四人の少年たちの引率で来たのは塾長の息子。
彼らと塾長の溝は何故⁇その真相がわかったとき。
真実は人の数だけある。
五冊目〜夏目漱石『こころ』
2回目の来訪となる葉介と一緒に葉介の父親が『こころ』を寄贈しようと持ってきたのだが、それは海老澤文庫にあるべき同じ蔵書印のあるもので…。