鈴木直のレビュー一覧
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Posted by ブクログ
近年読んだ本のなかで一番面白かったです。星6つ、7つの評価です。本文もそうですが、文末の訳者の解説も改めて頭の整理が出来たので非常に重宝しました。本書で主に議論の対象としているのは欧州と米国といういわゆる「西側」の民主主義的資本主義国家群です。そしてこれらの国々での資本主義が第二次世界大戦後どう変化してきたか、ということで、1970年頃を境に大転換が起こったと見ています。戦後から70年頃まではいわゆるケインズ的な介入主義的資本主義ですが、ブレトンウッズ体制の崩壊をきっかけに、新自由主義的転換を経て、ハイエク的な市場主義的資本主義へと転換してきたと分析しています。そこでは資本主義と民主主義という
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Posted by ブクログ
ケインズ的混合経済に代わってハイエク的自由主義経済が本流に腰を据えた70年代以降、「インフレ」「国家債務」「家計債務」と手段を変えつつファイナンス原資を確保し、果実を恣(ほしいまま)にしてきたファナティックな市場主義者=資本家。本書は彼らに対する糾弾の書である。金融危機の余波も覚めやらぬ2012年の著述だが、むしろ世界がコロナウイルルスに翻弄される現在(2020年3月)こそ読み返されるべき。著者は経済専門家ではなくフランクフルト学派の流れを汲む社会学者であり、所々で社会学のタームが顔を出すが、基本的にマクロ経済の知識があれば問題無く読める。
政府が、国債を保有する債権者たる資本家に配慮する -
Posted by ブクログ
第6章 翻訳とはなにか から引用
ある一つの文章を訳すときに、翻訳の正解は一種類ではない。五人の訳者がいれば、五通りの正しい翻訳ができあがる可能性がある。
つまり正しい翻訳とは、非常に多くの可能性の束として存在しているということだ。
<略>
正しい翻訳もまた多数の潜在的訳文の束として存在している。それぞれの訳者はその束の中からみずからの言語感覚に沿って一本の筮竹をれ選び出し、それを紙の上に固定していく。
<略>
たとえばカント自身がドイツ語の一文を書いたときにも、同じように多様な表現の束から、最終的に一本の筮竹を抜き出して紙の上に記したという事実だ。
<略>
カントが選んだ筮竹を -
Posted by ブクログ
第二次世界大戦後西洋諸国で確立していった福祉国家が、サッチャー、レーガン政権以降の新自由主義により変化していった、という大きな流れは良く聞くものの、ギリシャの財政危機やリーマンショックといった世界を大きく騒がせた出来事には一体いかなる背景があり、どのような意味合いを持つものだったのか、本書を読んでかなり得心が行った。
高度成長の終焉により、成長を前提とした完全雇用と賃上げは危機を迎えていた、その危機に対処するため採られたのが、貨幣により「時間」を買うことだったが、それは危機の先送り、つまり時間かせぎに過ぎないというのが、著者の主張である。
なるほどと思ったのは、例えば次のようなとこ -
Posted by ブクログ
ジンメルのエッセーを、主に女性論・生活風景論・美学論・社会論という視座にしたがって訳出・編纂している。各エセーには強い主張はなく、それゆえに曖昧とも言えるが、彼の扱う対象に即して言えばその曖昧さは対象そのものに由来すると捉えられるだろう。水差しや橋、扉といったものを哲学的に思考するのに、単純明快さを求めるのはいかがなものか。その点で、訳者解説でも紹介されているようなジンメルに対する批判は的外れなものである。そしてこうした珠玉のエッセーが、ユダヤ人であるジンメルによって書かれていることやベンヤミンに影響を与えていることを考えると、ジンメルの面白さはなお際立つ。