鈴木主税のレビュー一覧
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1998年に現在の「文明の衝突」の到来を予見した書籍。一方で、その文明の理解や予測の具合には極めて強い「西欧的支援」と感じる。
上巻では7つ乃至は8つの文明のアイデンティティの衝突を西欧社会対非西欧社会という構図で捉え、下巻になると西欧的視点から捉える「非西欧社会」が中心となる。中盤の多くを旧ソ連時代の東欧圏・中央アジア圏・中東圏におけるイスラム文明に割いているが、これらの思想が2000年代の米国の対外政策の根底に流れている、つまり一部の偏ったシンクタンクの戦略に基づいていたと感じてしまう。
衝突のフォルト・ラインを中核国のバンドワゴニングと文明間のバランシングで分析しているものの、日本が中国にすり寄って西欧対非西欧陣営の衝突、はさすがにそれは無いのでは…と言わざるを得ない。「文明の衝突」というコンセプトは分かり易い一方、もう少し「非西欧文明」に対する深い洞察が欲しいところ。
いずれにせよ文明のアイデンティティという著者の主張は正しいところで、現時点に限ればそれは国単位の文明どうしではなく国内の文明どうし、特に西欧社会においてそれが起こっていると言えよう。 -
Posted by ブクログ
下巻は、冷戦後期以降の具体的な国際関係の展開について述べられている。
その内容は、日米の経済上の反目、中国の台頭、イスラムの国境紛争、ソ連・ロシアとイスラムとの戦い、およびバルカン戦争である。
ユーゴスラヴィア弱体化に伴う90年代のバルカン情勢、つまり、
イスラムのボスニア、正教のセルビア、カトリックのクロアチア、という三勢力の争いは、まさに「文明の衝突」の代表事例と言えるだろう。
オスマントルコの侵攻したボスニアはイスラムが、オーストリア・ハンガリー支配下だったクロアチアはカトリックが優勢となっている。
個人的な経験だが、人間性を決定づけるのは宗教だという考えに自分が至ったのも、かつてバルカンについて学んだことからだった。
民族や言語が同一でも、宗教だけで全く異なる文明に属するという事例だ。
この経験がなければ、文明上の違いについて自分が考えるにあたり、人種や遺伝などの影響が排除できなかったと思う。
筆者は最後に自国アメリカに触れる。
アメリカを多文化・多民族からなる国家とする多文化主義を否定し、
『アメリカ人は文化的に西欧の家族の一部なのだ』(p241)
と明確に主張する。
この根拠として引用されている梅原猛の主張、
「ソ連崩壊は、政治的イデオロギーのみで社会を規定することの不可能性を示しており、それはマルクス主義のみならず自由主義にも適用する」
と言うところは説得力がある。
筆者の主張を端的に表した言葉でもあると思う。
上下巻通じて、文明≒宗教が衝突を引き起こす、という主張は一貫しており、その裏付けも詳細に富んで、世界で広く読まれるのももっともと感じた。
多大な波紋を呼んだ著書であったようだが、さまざまな思想や利害に影響を与えた証だろう。
ただしウィキペディアの情報によると、エマニュエル・トッドは本著を批判し、「国家観が古い」としたともいう。
トッドの主張も興味深い。
さいごに。
日本版のあとがきを書いているのは、昨年残念ながら火災で亡くなった猪口孝氏である。
本著を最後まで読み、改めて、この国は惜しい人を亡くしたと感じた。
文明の衝突の中で、得難い人材ほど失われやすいのは、悔やまれるべき世の常である。
御冥福をお祈りする。 -
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翻訳は2000年刊行。
話題になった本だったような記憶がかすかにある。
自分の年齢を考えたら、リアルタイムで読んでいてしかるべき本なんだけど。
…でも、今からでも読む!
だって、どのみち今も昔も、国際政治音痴だし。
喪うものはないはずだ。
と開き直って読んでみた。
現在の状況と合致する部分のみが強く印象に残りやすいのだろう、とは思うけれど、本書の内容は現在にも通用する部分が多いと感じる。
アメリカの覇権の弱体化。
一極集中ではなく、世界が多極化する。
1990年代から2000年代での見通しは、まさしくその通りになりつつあると感じられる。
そこでどのような新しい国際秩序ができるか。
本書では採られる方策を二つに類型化した。
ひとつは「バランス化」(バランシング)。
もう一つは「相乗り」(バンドワゴニング)。
覇権国(アメリカ)と地域の中核国の関係、あるいは中核国と地域の二番手の国との関係にそうした方策が採られ、関係が出来上がる。
さらに、その関係形成に、文明の違いや近さが影響を与えるというところが、この本の眼目。
共通する文化を持つ二つの国や集団の間では緊張関係があっても比較的協調関係が生まれやすく、異なる文化の間では紛争が激化しやすいということらしい。
国民国家と文化のまとまりが一致していないところで民族紛争が起きるという話もある。
そういう眼で米中関係、現在のロシアとウクライナの関係を見ていくと、ああ、なるほど、と頷けるところはたしかにある。
ところで、本書にはアメリカの多文化社会化に否定的な見方が示されている。
歴史的に見て、多文化を追求する国が永続したためしがないからだということだ。
トランプ政権が誕生したり、その後のバイデン政権も、白人の、中産階級のアメリカを再生させようとしていることを見ると、今揺り戻しが起きているようだ。
筆者がいうように連合国家になる、という選択肢もアメリカにはあり、そういう未来を選択することもできるのではないかと思うけれど、ダメなのかな?
さて、本書は「21世紀の日本」ももう一つのテーマとしている。
日本は中華文明から派生してはいるけれど、孤立した文明であるため、例の文明の衝突理論から考えると、なかなか他国と緊密な協調関係を結べないらしい。
力をつけていく中国とどう渡り合うか。
過去と同じように、その時々の覇権国家、別の地域の中核国家の力を借りながら牽制するしかない、ということのようだ。
割と、まあそうなんだろうな、と思っていたことだった。
正月に読む本の選択を誤ったといえばその通りだが、何というか世界の弱肉強食の現実をつきつけられ、暗い気持ちになってしまった。 -
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◯ 私たちの世代がなすべきことは、最低ラインにいる人びとが極度の貧困から抜け出して経済開発の梯子を自力で昇れるように手を貸すことである。(76p)
◯それ以来、私は何が必要かという点だけを明瞭にし、「政治的に可能」かどうかは気にしないようにした。(200p)
◯中国の中央集権機構(中略)は、つねに分散し変化してゆく市場経済のダイナミズムとは相容れない(294p)
★著者は学者として成功を収めただけでなく、政府顧問として南米、東欧、ロシア、中国、インドの経済開発でも成果をあげた。しかも冷戦が終結し、共産圏が市場経済へ移行する難しい時代に。そんな著者がアフリカの、そして世界の貧困をなくすための具体策を示した本書は、全人類にとって重要な提言である。
★ただ本としての評価としては、後半は同じ主張が長々と繰り返されるので読むのが大変でした。 -
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未来予想を行っている本を後の時代になってよむと、当たっている部分、外れている部分がある。
おひざ元のアメリカの洞察は的確で、結構予想が当たっている一方で、日本や台湾は本書に書かれているほど、中国にすり寄っていない。
だからといって本書の価値が落ちるわけではない。西欧人の視点でとらえたイスラムやロシア、アジアの分析は参考になる部分も多い(アジアの文化・文明はもう少し多様かつ複雑な気もするが…)。
経営学者(というかほとんど予言者(笑))のドラッカーのように、しっかりと本質を捉えていれば、当初の予想とは少し時間軸がずれて実現することもあるので、時折読み返す一冊としたい。
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本書は『文明の衝突』の著者サミュエル・ハチントンによる論文集だ。九九年に行われた日本講演、超大国アメリカに焦点を当てた論文、ハチントン理論の基盤となる国際論(著書抜粋)が含まれている。
冷戦時代の世界は主として「民主主義国家」「共産主義国家」「第三世界」の三勢力に分かれていた。しかし、21世紀における国家の行動基準はイデオロギーや政治体制でなく、諸国を文化的に類別する“文明”である。また、米ソという二極化したパワーバランスが崩壊した現在、グローバルな超大国は米国のみであり、他には各地域における主要な地域大国が存在するーーつまり、事実上の一極・多極世界だというのが各論文に共通したテーマである。
ハチントンによれば、文明とは数世代にわたる人々の生活様式全般であり、文化的な特徴と現象の集合を指している。現在、世界には①日本文明②中国文明③インド文明④イスラム文明⑤西欧文明⑥東方正教会文明⑦ラテンアメリカ文明(⑧アフリカ文明)が存在しており、各地域の諸国は中核国・構成国・孤立国・分裂国・引き裂かれた国のいずれかに該当する。通常、文明を異にする国家は冷淡で敵対的な関係となり、信頼と友好はあまり見られない。異文明間では断層線の戦争(フォルト・ライン戦争)が激化していくが、平和実現のためには中核国が他文明の紛争に介入せず、構成諸国はフォルト・ライン戦争を回避するよう努めなければならない。
最後に、世界をアメリカ化する多文化主義への警鐘が鳴らされる。10年代を通じてポリティカル・コレクトネスはグローバル社会に蔓延し、共同体の文明的差異が取り払われる傾向ーー例えば米国のユダヤ教徒やイスラム教徒に配慮して“Merry Christmas”の代わりに“Happy Holiday”を用いるといった、多文化主義的傾向がより顕著になった。しかし、著者は「世界帝国がありえない以上、世界が多文化からなることは避けられない」とし、むしろ人々は差異を認め合った上で「他の文明の住民と共通してもっている価値観や制度、生活様式を模索し、それらを拡大」することが共存への道だと説いている。
加熱する多文化社会への反動が保守主義の台頭という形で帰結したと考えれば、西欧文明から引き裂かれることを拒んだ国民がトランプ大統領を誕生させたことにも納得がいく。近年では英国のEU脱退など、同一文明の国家は強固な関係を築き上げると論じる著者の予見に逆行する情勢も見られ、世界はより複雑化の一途を辿っているように感じられる。現在の日本は中国とのバンドワゴニングでなくバランシング戦略を採用し、一方で米国は着実に超大国の座を降りながらも断固とした対中姿勢を表明している状況だ。今の世界は一極・多極体制から、細分化した多極主義体制への過渡期だと見るべきだろう。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ上巻は『現状分析』がメインだったのでまだ良かったのだが、下巻は『対策』それも、『西欧文明の優越が失われてしまう。キー』の対策なので、まあ、引きながら読んだ。
ああ、そりゃあ、問題になったわけだなあと。
ただし、イスラム文明が他の文明と摩擦を生じている背景としての、『人口爆発』『若い世代が多い』という分析は、大事な視点だなと。
いずれ、イスラム圏が豊かになれば、人口爆発が収まって穏健になる日も来るのだろうか?(まあ、その答えを見るまで生きていることは無理だからわからないが)
あと、日本の扱いがあまりにもあれだよなあ。まあ、ちょうど細川政権の頃だろうからなあ。対米自立ダーみたいな乗りがあったのは事実だけど、それは一般化しなかったわけでさあ。まして、自立ならともかく、米国から中国に乗り換えってのはさぁ…
その意味で、提示されたシナリオは(今の)日本人には、あまりにも荒唐無稽すぎてしんどかった。
そして、最大の問題点は、「文明間の衝突を防ぐ為に、互いの文明圏を超えて干渉するべきではない」ってのは、帝国主義の時代にまで歴史を戻せって聞こえて、あまりにも酷すぎた。これほどの人でも、見かけ上の現状維持を優先すると、ここまで酷くなるんだなと呆れた。その分、☆一つ減らして☆3つ。