安達千夏のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
これはすごい。なぜこれが芥川賞候補にも上がらなかったのか不思議なくらいだ。
結婚することで総合職エリートの道を絶たれ、子どもを産むことで会社を辞めた母に育てられた娘の物語。見憶えのある場所とは虐待を受け、ことあるたびに「あなたを産まなければよかった」という叫びが染み付いた家だ。
こう書くとどろどろした親子の物語になってしまうけれど、その特異な文体が淡々と冷静に語る世界はだからものすごくリアルで、テレビドラマでは到底描ききれない、ちゃんとした劇団の舞台でならあり得るかなと思った。
内容より文章の一つ一つがすごいのだ。どこを切っても深い。
自ら母親となることでふたたび菜穂子の子 -
Posted by ブクログ
バイセクシャルな女性が、ほんとうにほしいと思う人と、ほんとうに大切にしたいと思う人を実感していく過程を描いています。
私自身は女性とのセックスには興味がない、というのと、歳をとったからなのかセックスそのものの悦楽というのは20代でおいてきたような感じがするので、官能の相手(ほしい相手)と心の相手(大切な相手)が一人の人であって、そういう人と溶け合うような人がほしい、と思ったりしました。
抱きしめるだけでもいい、キスするだけでもいい、髪に触れていとおしさを感じる。それだけで充分、官能的だと感じる。そして自然の空気の流れのように抱き合うことになるならば、男女のどちらかが支配的になるようなセックス -
Posted by ブクログ
「うずくまって泣きました。。。」
というポップに惹かれて衝動買い。
でも読んだあと「違う」と思った。
なんだろ…
うずくまって泣く、というような外的な行動には昇華されないと思うんだけど。
もっと内的な「痛み」のイメージ。
一人で心の中で感じて、耐える、痛み。
私はカタい文体とか白黒はっきりするものが好きだから
こういう叙情的でふわふわした文章は苦手なんだけど
これはすごくよかった。
「死」の暗さと恋愛のせつなさが重なって、
どうしようもない思いにかられる。
かなりの変化球だけど、
やっぱり「恋愛小説」だと思った。私は。
『モルヒネ』。
タイトルがいいね。
この言葉の持つ重い印象とか苦 -
Posted by ブクログ
ネタバレシングルマザー。
決して労働条件の良いとは言えない職場で
理不尽なことにも耐え仕事をしながら娘の千草を育てるゆり子。
母である菜穂子は、過去の栄光に縛り付けられ
これから飛び立っていく子供たちに嫉妬し、幼かったゆり子に暴力や嫌味は日常茶飯事だった。
家にしがみつく母と、それを捨てていった家族。
子供の頃、親っていうのは絶大なる存在だけど
親はそれを都合のいいように利用したらいけないよね。
たとえ親子であっても別の人間であるんだ。
自分が受けてきたことを、無意識の中で子供にしてしまうのは怖いよね。
ゆり子が今も狂う母にたいしてやけに冷静で、千草に自分なりの愛情を注いでやれるようになる -
Posted by ブクログ
無音がよく似合う。
この本を読んだ人はちょっと不思議に思うかもしれないが俺にはこの本を読んでいて常に無音を感じ続けた。それは真紀の心なのかもしれないと感じた。どこか音のない世界にただいるだけのために生きていく真紀。その世界に唯一存在を感じることができたヒデとの間にいろいろな想いが伝わってきた。
完全に俺の感性だけどなwでも、二人の関係性にちょっと惹かれたりもする。ただそれでも俺は長瀬のようにしかなれないと思う。そんな中で読者としてみるとどこか不思議な魅力があったりして。
個人的には難しい話だと思うしちょっと読みにくいかも?ただ考えさせられることもがかなりあった。どこか共感できないところもなぜか -
Posted by ブクログ
ネタバレ安達千夏は少し腕を上げた。
これは、生きることに不自由さや怒りを感じる女の話だ。古事記や八犬伝や即身仏というモチーフを絡めながら、男の視点に立って描かれていく。古事記も結局は男の視点に立っていたように。
身勝手を身勝手とも思わない男の一般論に対して、女として生きることの不自由さはしばしば隠されている。男女共に、鈍感になっているのか、気付かない振りをしているのか。いずれにせよ、安達千夏は竜子に、私は生きているのだ、と言わせる。騎寅の論理、イザナキの論理。それに竜子は反旗を翻す。男の論理で形作られたこの世界そのものに、魔斬りを向けるのだ。
愛など信じない。否、そんなものは初めから存在してはいない -
Posted by ブクログ
目覚めたときに自分が死体だと思うという異色の展開です。
こういうありえない設定を読ませてしまう力量、やはりタダモノではないと思われます。なぜヤング向けの作品と違うのかと考えてみますと、イザナミ、イザナギの話とか、即身仏の話とか戦争体験とか使われる素材が違うのですねえ。
マキリというのはマタギとかが使う大きめのナイフです。目覚めた男は血まみれですが、どこも怪我をしていません。連続ナイフ傷害事件の犯人に襲われて、その犯人を殺してしまったようです。自分の目には死体にしか見えない体は、他人には普通に見えるらしく、男は地震の被害にあった故郷、山形に戻ります。そこには昔の恋人が鍛冶屋の父親と