Posted by ブクログ
2011年05月09日
これはすごい。なぜこれが芥川賞候補にも上がらなかったのか不思議なくらいだ。
結婚することで総合職エリートの道を絶たれ、子どもを産むことで会社を辞めた母に育てられた娘の物語。見憶えのある場所とは虐待を受け、ことあるたびに「あなたを産まなければよかった」という叫びが染み付いた家だ。
こう書くとどろ...続きを読むどろした親子の物語になってしまうけれど、その特異な文体が淡々と冷静に語る世界はだからものすごくリアルで、テレビドラマでは到底描ききれない、ちゃんとした劇団の舞台でならあり得るかなと思った。
内容より文章の一つ一つがすごいのだ。どこを切っても深い。
自ら母親となることでふたたび菜穂子の子どもに戻ったのではと、ゆり子は感じる。
命を宿さなければ、あの家を拒絶し、否定していられたというのになんという皮肉だろう。
私にはスキルがない、と搾り出すように言う。
彼女にしてもらったようなことは絶対にしちゃいけない、それは承知している。
でも、じゃあどうすればいいかとなると、暴力はいけないとか、
馬鹿にしたり可能性を潰すようなことを言っちゃいけないとか、
そんな、極端なことしかわからない。
こうして書き写してみると、改めて、的確に言葉を選んでいると感心する。主語を書かなかったり、会話文を織り込みながら心理を描く手法などは「源氏物語」を思い起こした。
上記はほんの一部で、どの人にも感じ入る部分はあると思う。読者会をしたら何時間も盛り上がりそうだ。
後世に残る作家というのはこういう人を指すのだろうと思う。