多島斗志之のレビュー一覧
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精神病患者のこと、精神病の診断の難しさ、精神科医の苦悩を感じた本でした。とても読み応えがあった。
人の精神を全て知る事は出来ないけど、少しずつ対話を重ねて、言葉だけでなく日々の行動を観察し、それを客観的に分析してやっと少しずつ診断、治療ができるのだなと。
ただしその診断が合っているのかはその後の経過を診ていくしかない。
正しいかどうかは結果でしか判断できない。
精神病は、急になるものではなく、皆それぞれの原因があって、病気というより、自分を守るために精神が進化したとも言えるのかな。環境に合わせて身体が進化していったように、精神もそれぞれの環境で進化したのだと。
多重人格の治療で、人格を統合 -
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普通の読み物として、充分楽しめた。
父親の友人、浅木謙太郎が持っている六甲山にある別荘で夏休みを過ごす14歳の寺元進。
そこで浅木の息子である同い年の一彦と、ひょうたん池と呼ばれる池に遊びに行ったとき、倉沢香というやはり14歳の女の子と出会う。
3人は仲良くなり、一緒の時間を過ごすようになる。香に惹かれていく進と一彦。裕福で恵まれた家庭に育ったかと思いきや、実は複雑な家庭環境で育った香。
その話と交互に、彼らの父親がまだ30歳位のときに、宝急電鉄の創始者、小芝一造の海外視察に同行したときの話が綴られる。旅先で偶然出会った相田真千子という若く美しい女性。
またそれらの話とは別に、香の叔母の -
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ある精神科病院に新任してきた若手医師が主人公。前任の医師が事故死したため、彼の患者を引き継いだのだが、その中に統合失調症とうたがわれる厄介な10代の美少女の患者がいた。主人公はほかの病気の可能性も疑いつつ治療を進めていくが、彼女の自由奔放で天真爛漫な態度に振り回されそうになる。そんな中、彼女の担当臨床心理士から多重人格の可能性を指摘されるが主人公は受け入れられない。しかしある事がきっかけで多重人格に対する認識を改め、例の患者に対しても多重人格の可能性を疑い始めた時に見えていなかったものが明らかになっていく。
ひとことで言えば、多重人格ってあるんだよという話。
1人の患者のせいで医師や看護師が -
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多島斗志之の短編集。以前に読んだ本もレポートを脚本化したような話だったので、ミステリではないだろうと思ってはいたが、結構多彩なのね。
最初の2作は、現代もので、うち1作はブラックユーモアっぽく軽くて読みやすい。表題作を含む後半2作は時代物というか、そういう背景での文学。
日本人の幼妻を貰った、裏切り者でドイツには入国できないのユダヤ人を眺める日本人からの視点や、幕末の斬り斬られる時代における、復讐で追われている者を逃したい視点など、それぞれの葛藤をうまく描いている。
ただまあ、読みづらいんよね。特に幕末。敵味方が解りづらいというのは、侍ものの宿命なので仕方のないところで、そこをそれなりに -
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ネタバレ精神科医の榊による美貌の17歳の少女,亜左美の治療のパートと,博物館の職員である江馬遥子が中心となり調査をする美術品疎開についてのパートからなる,独特の雰囲気のミステリ。「解説」にもあるが,精神医療のパートについて,精神科医と臨床心理士との関係などの精神医療の現場の様子がリアルに描かれており,読み応えがある。多数のエピソードが多層的に描かれている作品であり,それぞれのエピソードが重いのだが,かなり印象に残る。
まず,榊と苗村加奈とのエピソード。苗村加奈を境界性人格障害と診断し,治療を試みるが,疲弊し,最後は苗村加奈の自殺と榊の離婚という形で終わったという部分は,重い。また,苗村加奈の本当の -
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精神分裂症や境界例、多重人格などの精神の病を非常に丁寧に描いた秀作でした。途中、博物館の件をどうやって回収するんだろうって考えていましたが、とても上手く回収して、一本取られちゃいましたって印象です。ただ本戦も伏線も上手く引き込み線を入れたって所で終わっちゃってるのでもう少し掘って欲しいところがいっぱいで、どうも消化不良気味です。けどちょっと多重人格の説明の件では、合点のいく解説ではありましたが余りにもあっさり受け取っちゃってて、アララって印象はぬぐえませんでした。
面白い本なんですけど…500ページ越えの大作ならもうちょっとズシリと落ちる感動が欲しかった感じですね。 -
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当時、精神鑑定による犯罪容疑者の責任問題がよく取りだたされていて、この本もその時流にのって刊行されたように記憶しています。
気合が入っているというか、情報量がすごくて、相当な資料を駆使して書かれたことがわかります。たぶん難解な症例なんかも、読者にわかるように心を砕いて書かれているので、どんどん物語の世界にのめり込んでいけました。
ただ… ラストが… 残念ながら☆3つです。
数年前から著者の多島さんは行方不明で、交番にも失踪人のポスターでいまだに出てますけど、まだ見つからないのでしょうか…
こんな力作を自分みたいな輩がダメだしするんだから、イヤになってしまったんですかね… 作家って大変