多島斗志之のレビュー一覧
-
Posted by ブクログ
とても精神科について専門的な内容まで詳しく書かれており読み応えがあって面白かった。
精神科医のとても細かな洞察が丁寧に描かれていて、実際に自分もこのように相手を探ることができたらもうすこし円滑にコミュニケーションが取れるのではないかとさえ思った。過去や常識など、様々葛藤しながらも懸命に患者と向き合う主人公の姿勢が心地よい。
一方で金工のくだりが途中途中はさまれていて精神科医と交互に物語が進んで行ったが、「最後どのようにこの伏線を回収するんだろう」と楽しみにしていたもののそこまでどんでん返し的なものではなく意外にあっさりしていた。別に伏線回収を楽しみしてたわけではないが少々残念であった。
精神分析について自分も興味を持っていて、実際に少しかじっていたので、"精神分析は医学ではなく文学だ"というセリフは「なるほど、当事者の客観的な視点とはこのようなものなのか」と、とても新鮮だった。それと同時に文学部である身としては、文学は主観的で科学よりも劣ったものとして作者が捉えているような感じが垣間見え、少しだけ気になった。精神分析の芳しくないものとしてのイメージを文学に例えるのは文学を冒涜してはいまいか!と思ったが、全体のストーリーとしてはとても面白くあっという間に読み終えてしまったので、良い本に出会えたと思う。 -
Posted by ブクログ
割と話が長かったり、えらく説明っぽい記述で攻めてくるところもあるけど、概ねグイグイ読ませる。
しかし精神病ってのはどうにも定義があいまいというか、見かけじゃ分かんないし、やらせなのか本当なのかも分かんないし、なんだってこんな難しいものなんか。全部性格ってことで片付けちゃえば良いのに、ってわけにもいかんのかなぁ。だって本当にいろんな人いるし。女の人ってこんな感じで押せば引くというか、引けば攻め込まれるというか、大概面倒くさいじゃん。。ってこれを言うのはナシか。まぁ男も違う意味で面倒なのはいっぱいいるしね。
でも限度ってのがあってそれを超えると、性格とか言ってられないんだろうな。そういう人と真剣に向かい合っていかなきゃいけない医者ってのは、本気でやればいくらでも大変で、適当にやればいくらでも楽にできそうで、教師もそうだけど、ちゃんとした人になってほしいよねぇ。 -
Posted by ブクログ
ネタバレ〇 概要
時代は昭和27年。六甲の山中にある,父の旧友の別荘に招かれた14歳の少年が主人公。少年は,その家で同い年の一彦とともに,池のほとりで不思議な少女,香と出会う。夏休みの宿題のスケッチ,ハイキング,淡い恋,身近な人の謎めいた死―少年二人と少女の姿を瑞々しい筆致で描き,文芸とミステリの融合を果たした作品
〇 総合評価
非常に評価が高い作品。個人的な感想としては,ミステリとしての完成度より,小説としての完成度が高い作品だと感じた。ミステリとしての驚きは,相田真千子が日登美と付き合っていた車掌だという部分に集約される。ミステリを読みなれているので「車掌が男性とは限らない」といううがった見方をしてしまうが,車掌=男性として読んでしまうと,かなり驚けるだろう。しかし,そのような驚きを演出するような描き方をせず,丹念に読めば気付いてしまうような伏線の出し方をしている。同じプロットで綾辻行人あたりが書けば,全く別の仕上げになっていただろう。多島斗志之らしい底意地の悪さもあって,個人的には非常に好きな作品。★4で。
〇 サプライズ ★★★☆☆
相田真千子が,六甲の女王ではなく,相田一彦の母であることが明かされるのは,驚きではあるが,きっちりと伏線が描かれているので,「驚愕」というより,「なるほど」とうならされる。日登美が付き合って居たのが相田真千子であることも同様。なまじ,人間がしっかり描かれているので,納得してしまい,驚愕とまでいかないのだ。小説としてデキがいいために,ミステリ的な驚きが減ってしまうというジレンマ。ミステリ的な驚きを優先すれば,描き方も変わるのだろうが…★3で。
〇 熱中度 ★★★☆☆
小説のデキがよく,十分楽しめる。しかし,先が気になるように描くというより,丹念に,丁寧に描かれているので,気になって読むのがやめられない!というほどではない。全体から見れば必要な伏線であるために,たいくつな部分もある。小説とはそういうものなのだろう。★3で。
〇 インパクト ★★★☆☆
相田真千子が浅田一彦の母であったという真相は,十分なインパクトはある。とはいえ,このインパクトに頼った小説ではなく,寺本進,相田一彦,倉沢香の一夏の青春の姿を描いている部分の読み応えが十分であるため,反対に,インパクトが薄れてしまっている。ミステリとしてのインパクトは★3だろう。
〇 キャラクター ★★★★★
寺元進,浅田一彦及び倉沢香の3人のキャラクターが十二分に描かれているほか,小柴一造,相田真千子,倉沢日登美など,全てのキャラクターが極めて魅力的に描かれている。人間がしっかり描かれている小説は面白いということが再確認できた。文句なしに★5。
〇 読後感 ★★★☆☆
相田真千子が,倉沢貴久男と貴代司を殺害していることが分かるラストなので,殺伐としたラストになってもおかしくないのだが,読後感は悪くない。寺元進の回想という形で物語が描かれており,寺元進はその事実を知らないからかもしれないが。とはいえ,読後感がよいというほどでもなく★3か。
〇 希少価値 ★☆☆☆☆
非常に評価が高い作品であり,出版してそれほど日が経っていないので今は手に入りやすい。しかし,多島斗志之の作品がいつまでも手に入りやすいとは限らない。創元推理文庫から出版されているので,細々と版を重ねていくと信じたいが…。
〇 トリックなどのノート
相田真千子(黒百合のお千)は,かつて,倉沢貴久男と付き合っていた。しかし,ベルリンに駆け落ちすると嘘をつかれ,貴久男に捨てられる。
昭和10年11月に,小柴翁に連れられて寺元と浅木がベルリンを訪れていた際に,倉沢真千子に出会う。
その後,日本で倉沢真千子は,浅田謙太郎に偶然,再会し,小柴一造の計らいで,阪急電鉄の運転手として働く。相田真千子は,運転手として働いているときに,倉沢日登美と付き合う。その後,倉沢貴久男から倉沢日登美と別れるように脅され,殺されそうになるが,反対に,貴久男を殺害する。このとき,足を負傷する。
その後,相田真千子は,浅田謙太郎と結婚する。
昭和27年,寺元進が,浅田家の別荘で夏休みを過ごすことになる。寺元進は,同じ歳の浅田一彦と仲良くなり,倉本貴久男の愛人の子である倉本香と仲良くなる。この年に,倉本貴久男の弟である倉本貴代司から倉本貴久男殺しのことで脅迫を受けた相田真千子は,倉本貴久男を殺害する。
ストーリーはこの流れだが,この作品では「六甲の女王」と呼ばれる喫茶店のオーナーが登場し,この人物が相田真千子と誤認させるような書き方がされている。また,倉沢日登美が付き合っていたのは,男性であると思わせる描写がされている。
最後に,相田真千子が,浅田謙太郎の妻であることが明かされ,相田真千子が倉本貴久男と貴代司を殺害した犯人であることが明かされる。 -
Posted by ブクログ
インドには行ったことがないし、船酔いするから船も苦手だし、全く馴染みのない時代の話だし、好きな作者なので手にしてみたものの、しばらく積ん読してたのですが、読み始めたら面白くて、上・下巻一気に読んでしまいました。
モア船長は仲間から絶対的に尊重されているのかと思いきや、反抗されたり、投票で解任されそうになったりして、かえって人間くさくてよかった。
それにしてもイギリスとオランダが同盟国だったとかインド洋でオランダがブイブイいわせてたとか、全然知らなかったよ。
オランダは鎖国時代の日本と唯一国交のあった国なのに今では関係が薄くなってしまったのはなんでかな、とか英仏蘭が世界の中心になれなかったのはなんでかな、とかお話とは関係ないところへの興味が湧いてきました。
サゴ・ケーキをはじめ、当時の風俗もたくさんでてきて、面白かった。もちろん本筋の物語もとても楽しかったですが。